日本主導:この研究は、筆頭著者・責任著者、または著者の主要所属が日本の研究機関である研究です。

掲載誌:Endocrine Metabolic & Immune Disorders - Drug Targets

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: 論文PDF

研究の目的

地中海食と日本食は、どちらも世界的に「健康的な食事」として知られ、ユネスコの無形文化遺産にも登録されています。ただし著者らによれば、地中海食に関する研究の蓄積に比べ、日本食については論文数が少なく、その有効性は科学的に十分に解明されているとは言えない状況にあります。

この系統的レビューの目的は、加齢やアンチエイジング(抗老化)という観点から両者の共通点と相違点を整理し、日本人の健康長寿と結びついていながら報告が少なかった日本食の意義を明らかにすることです。さらに著者らは、両方の食事の長所を組み合わせた「地中海式日本食(Mediterranean-style Japanese diet)」を、健康長寿につながり「未病」の解消に役立つ食事法としてあらためて提示しています。

ここで言う「アンチエイジング」とは、寿命を延ばすことだけでなく、加齢に伴う病気の予防、体の中で長引く炎症(慢性炎症)をやわらげること、身体機能の維持、生物学的な老化の指標の調整まで含む幅広い概念として説明されています。

何を、どのように調べたか

著者らは、コクランのガイドラインとPRISMA(系統的レビューと メタ分析のための報告指針)に沿って、論文データベースPubMedを検索しました。用いた検索語は「地中海食」「日本食」「aging(加齢)」「antiaging(抗老化)」です。地中海食を「解析グループA」、日本食を「解析グループB」として別々に検索し、二人の査読者が独立に題名・要旨・本文を確認して、対象から外れる論文を除外しています。研究の質や偏り(バイアス)の評価には、総説にはAMSTAR-2、ランダム化比較試験にはコクランのRoB 2というツールが用いられました。

検索の結果、「地中海食」では11,000件を超える論文が見つかり、「aging」を加えると1,256件、さらに「antiaging」に絞ると31件となり、要旨や全文が読めないものを除いた上で総説10件が選ばれました。ランダム化比較試験については、直近1年の発表に限るなどの条件を重ねて11件が残りました。一方「日本食」の検索では313件で、「aging」を加えると37件、総説は8件、臨床試験やランダム化比較試験はわずか2件でした。この件数の差自体が、日本食の研究の少なさを示しています。

報告された主な結果

地中海食については、イタリアやギリシャなどの地中海諸国で、米国や北欧諸国に比べて心血管疾患による死亡率が3分の1程度にとどまると観察されてきたことが紹介されています。選ばれた総説では、地中海食の摂取がより良好な加齢のパターンや抗老化の効果と関連づけられ、加齢を伴う代謝性の心疾患・神経疾患に有益であると報告されていました。著者らは、その働きが野菜や果物に含まれるファイトケミカル(植物由来の成分)の抗炎症・抗酸化の性質に由来するとされ、特にブドウの皮のレスベラトロール、エクストラバージンオリーブオイルの植物性脂肪、ポリフェノールが重要だと整理しています。

ランダム化比較試験からは、たとえば肥満のある高齢者を対象とした3年間の試験で、MIND食の群のうちBMIが35kg/m²以上の人(213人)は対照群より認知機能のスコアが高かったという報告(年あたりの標準化単位で0.040、標準誤差0.017、p=0.018)や、ステージ1の高血圧患者に地中海食などを含む集中的な生活習慣療法を行った6か月後に、日中の収縮期血圧が12.7mmHg、総コレステロールが35.4mg/dL低下するなど複数の指標が有意に改善したという報告(いずれもp<0.001)が紹介されています。

日本食については、宮城県大崎のコホート研究をもとに作られた「日本食インデックス(JDI)」の総説で、日本的な食事パターンへの適合度が高いことが要介護状態や認知症のリスクの低下と関連すると報告されていました。介入研究は2件で、1975年の日本食と現代の日本食を28日間比べた研究では、1975年型の群で体重、体脂肪率、体脂肪量、血清トリグリセリド、LDLコレステロールが有意に低下し、HDLコレステロールと血清マグネシウムが有意に上昇しました。もう1件では、魚・大豆製品・野菜・海藻などを含む「完全な日本食」の群(49人)が、これらを含まない群(49人)に比べ6か月後のLDLコレステロールの低下幅が大きく(差−9mg/dL、95%信頼区間 −17〜0、p=0.043)、トリグリセリドとインスリンも低下したと報告されています。

両方の食事の共通点として、著者らは脂質・糖質・エネルギーが低く、野菜、豆類、魚、穀物を日常的に多く食べること、そしてファイトケミカル(とりわけポリフェノール)の摂取が多いことを挙げています。相違点は、地中海食がエクストラバージンオリーブオイルと乳製品を多く使い肉を控えめにする一方、日本食は動物性脂肪を避け、発酵食品と海藻を多く用いる点です。こうした食習慣は、寿命の短縮と関わる心血管疾患、メタボリックシンドローム、肥満といった慢性炎症に関連する病気のリスクを下げることに役立つ可能性があると述べられています。

この研究が示す意味

著者らは、健康と病気のあいだにある状態を見つけて発症前に手を打つ「未病」という考え方に日本人がなじんでいることを挙げ、この丁寧な健康管理の姿勢が健康と長寿に寄与しうると論じています。実際、WHOの統計では日本の出生時平均寿命は84.5年で世界最長、60歳時点の健康寿命も20.4年で世界最長だと紹介されています。なお、第二次世界大戦直後の日本の食事は塩分が多く、たんぱく質が少なく、炭水化物に偏っていて脳卒中が多発しており、長寿国となったのは比較的最近のことだという指摘も添えられています。

結論として著者らは、地中海食と日本食それぞれの長所を組み合わせたバランスのよい「地中海式日本食」が、慢性炎症の始まりを防ぐことでさまざまな病気のリスクを下げるとしています。それは「未病」の予防に向き、アンチエイジングに適した食事法であり、日本人だけでなく世界の人々の健康で長い人生に寄与しうる——これが、この系統的レビューから伝わるメッセージです。

著者:Kazuki Santa(Department of Biotechnology, Tokyo College of Biotechnology, Ota-ku, Tokyo, Japan)、Elsa Vitale(Directorate of Health Professions and Nursing, ASL Bari, Bari, Italy)、Kenji Watanabe(Yokohama University of Pharmacy, Kanagawa, Japan)、Isao Nagaoka(Faculty of Medical Science, Juntendo University, Urayasu, Chiba, Japan)、Raita Tamaki(Institute of Tropical Medicine, Nagasaki University, Nagasaki, Japan)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Kazuki Santa, Elsa Vitale, Kenji Watanabe, et al. The Mediterranean-style Japanese Diet: A Systematic Review of the Recommendations for an Anti-aging Lifestyle. Endocrine Metabolic & Immune Disorders - Drug Targets 2026-09-25. DOI: 10.2174/0118715303480002260921081812. 原著ライセンス:CC BY.