日本主導:この研究は、筆頭著者・責任著者、または著者の主要所属が日本の研究機関である研究です。

掲載誌:LWT

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

酸性の乳飲料で起こる「凝集」を抑えたい

牛乳の主要なたんぱく質であるカゼインは、牛乳本来のpH(約6.8)では「カゼインミセル」と呼ばれる微細な粒子として安定に分散しています。ところが、乳酸発酵や有機酸の添加で酸性にしていくと、粒子どうしを引き離していた電気的な反発や表面の保護効果が失われ、粒子が集まって大きな塊(凝集物)になります。カゼインの等電点(粒子全体の電荷が差し引きゼロになるpH、約4.6)付近からさらに酸性側になると、粒子表面にプラスに帯電した部分が現れ、マイナスの電荷をもつ多糖類が結びつけるようになります。この性質を利用して、酸性乳飲料では多糖類が安定剤として使われます。

代表的な安定剤である高メトキシルペクチン(HMP)は効果が高い一方、液体の粘度を大きく上げてしまいます。そのため酸性化の前に加えると混合や送液の負担が増え、酸性化の後に加える工程にせざるを得ないことが多いと論文は述べています。研究チームが注目したのは、エンドウ豆の食物繊維から抽出される水溶性エンドウ多糖類(SPPS)です。SPPSは構成糖としてガラクツロン酸を含むマイナス電荷をもつ多糖類で、比較的粘度が低いことが報告されています。

ガラクツロン酸のカルボキシ基の一部はメチル基と結合した形(メチルエステル)になっており、その割合を「エステル化度」と呼びます。エステル化度が低いほど、マイナスの電荷として働く部分が多くなります。研究チームは、SPPSのエステル化度を下げればカゼイン粒子と結びつきやすくなり、粘度を大きく上げずに酸性乳飲料を安定化できるのではないかという仮説を立て、それを検証しました。

エステル化度の異なる2種類のSPPSを比較

研究では、エステル化度25%の低メトキシルSPPS(LM-SPPS)と、71%の高メトキシルSPPS(HM-SPPS)を用い、比較対象としてHMPも調べました。脱脂粉乳を溶かした乳に、ゆっくりと酸を生じるグルコノデルタラクトン(GDL)を加えて酸性化するモデル系を使い、多糖類を酸性化の前に加える場合と後に加える場合を比べています。

評価したのは、酸性化の途中での粒子の大きさと粘度の変化、pH3.6〜4.2に調整して均質化したモデル酸性乳飲料を4℃で1日および14日保存したときの粒子径と沈殿の量、電子顕微鏡で見た微細構造などです。さらに、ペクチンを分解する酵素(ペクチナーゼ)で粒子表面の多糖類を分解し、粒子の大きさがどう変わるかも調べました。

酸性化の前に加えたLM-SPPSが凝集の成長を抑えた

多糖類を加えない乳では、最初は約240ナノメートルだった粒子が、酸性化を始めて約30分後、pHが5.0前後になったころから急に大きくなりました。HM-SPPSを酸性化の前に加えても、粒子の大きさや粘度の変化は加えない場合とほぼ同じで、凝集をはっきりとは抑えられませんでした。これに対してLM-SPPSを加えると、濃度に応じて凝集の進み方が抑えられ、1g/100mLではpH5.0付近の粒子が小さく保たれました。酸性化に伴う急な粘度上昇も一部抑えられました。一方、HMPを加えた乳は最初からpHが下がり(1g/100mLでpH6.1)、凝集が早く起こったうえ、粘度が濃度に応じて大きく上がりました(0.4g/100mLで7.0mPa・s、1g/100mLで51mPa・s)。

保存試験では、LM-SPPSを酸性化の前に加えた飲料は粒子径が1マイクロメートル未満、沈殿量が0.98〜2.0g/100gにとどまり、14日間の冷蔵保存でもほとんど変化しませんでした。同じLM-SPPSでも、酸性化の後に加えた場合は、前に加えた場合より粒子径が有意に大きくなりました。HM-SPPSでは、酸性化の前に加えた飲料の粒子径が0.92〜1.5マイクロメートル、沈殿量が1.8〜5.8g/100gで、加えるタイミングによる沈殿量の統計的な差は見られませんでした。

電子顕微鏡では、安定剤なしの系で大きな塊ができていたのに対し、LM-SPPSを酸性化の前に加えた系では大きな塊が見られず、1マイクロメートルより小さな粒子が細かな網目状に連なる構造が観察されました。HMPの系では粒子の周りに糸状の構造が見られ、論文はHMPが粒子どうしを橋渡しするなど、LM-SPPSとは異なる仕組みで働いている可能性を指摘しています。ペクチナーゼ処理の結果からは、LM-SPPSが粒子表面に数十ナノメートル程度の保護層をつくっていることが示唆されました。

「できた塊をほぐす」のではなく「塊が育つのを防ぐ」

研究チームは、エステル化度の低いLM-SPPSがHM-SPPSより優れた安定化効果を示したことから、多糖類のマイナス電荷とカゼイン粒子との電気的な結びつきが重要だと結論づけています。また、LM-SPPSが一度できた凝集物を小さくする証拠は得られず、酸性化の途中で粒子に吸着し、密な塊へ成長するのを防ぐ「凝集抑制剤」として働くと解釈しています。

SPPSはHMPに比べて粘度の上昇がずっと小さいまま安定化をもたらしました。著者らは、LM-SPPSを酸性化の前に加えることが、酸による凝集を防いで酸性乳飲料の安定性を高める有効な方法であり、酸性化後に安定剤を加える工程を省ける可能性があると述べています。ただし今回の結果は、GDLで酸性化したモデル系で得られたものです。同じ植物由来の多糖類でも、化学構造のわずかな違いと加えるタイミングによって働き方が大きく変わることを、この研究は示しています。

原著論文の著者・所属:Himari Ogura(Ibaraki University, College of Agriculture, Chuo 3-21-1, Ami-machi, Inashiki-gun, Ibaraki 300-0393, Japan)、Norifumi Adachi(Fuji Oil Co. Ltd., Tsukuba R&D Center, 4-3 Kinunodai, Tsukubamirai, Ibaraki 300-2497, Japan)、Hiroko Ashida(Fuji Oil Co. Ltd., Tsukuba R&D Center, 4-3 Kinunodai, Tsukubamirai, Ibaraki 300-2497, Japan)、Sayuri Sakurada(Fuji Oil Co. Ltd., Tsukuba R&D Center, 4-3 Kinunodai, Tsukubamirai, Ibaraki 300-2497, Japan; Ibaraki University, College of Agriculture, Chuo 3-21-1, Ami-machi, Inashiki-gun, Ibaraki 300-0393, Japan)、Masayuki Shibata(Fuji Oil Co. Ltd., Tsukuba R&D Center, 4-3 Kinunodai, Tsukubamirai, Ibaraki 300-2497, Japan; Ibaraki University, College of Agriculture, Chuo 3-21-1, Ami-machi, Inashiki-gun, Ibaraki 300-0393, Japan)、Munehiko Asayama(Ibaraki University, College of Agriculture, Chuo 3-21-1, Ami-machi, Inashiki-gun, Ibaraki 300-0393, Japan; United Graduate School of Agricultural Science, Tokyo University of Agriculture and Technology, 3-5-8 Fuchu, Tokyo 183-8509, Japan)、Takashi Yarita(Ibaraki University, College of Agriculture, Chuo 3-21-1, Ami-machi, Inashiki-gun, Ibaraki 300-0393, Japan; United Graduate School of Agricultural Science, Tokyo University of Agriculture and Technology, 3-5-8 Fuchu, Tokyo 183-8509, Japan)、Akihiro Nakamura(Fuji Oil Co. Ltd., Tsukuba R&D Center, 4-3 Kinunodai, Tsukubamirai, Ibaraki 300-2497, Japan; Ibaraki University, College of Agriculture, Chuo 3-21-1, Ami-machi, Inashiki-gun, Ibaraki 300-0393, Japan; United Graduate School of Agricultural Science, Tokyo University of Agriculture and Technology, 3-5-8 Fuchu, Tokyo 183-8509, Japan)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Himari Ogura, Norifumi Adachi, Hiroko Ashida, et al. The level of methyl esterification of soluble pea polysaccharide affects the interactions with caseins at low pH. LWT 2026-10-29. DOI: 10.1016/j.lwt.2026.120129. 原著ライセンス:CC BY.