この研究は、メキシコ、アメリカの研究機関の研究論文です。
掲載誌:Scientific Reports
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
何を確かめようとした研究か
超加工食品とは、工業的な加工を大きく加えて作られた食品のことです。原著によれば、イギリス・アメリカ・カナダなどの高所得国では人が摂取する総カロリーの半分以上を占め、メキシコ・ブラジル・チリなどの中所得国でも最大で3分の1に達します。売上も伸び続けており、近年は中所得国で10%、高所得国で1%上昇したと論文は述べています。
論文によれば、こうした食品を多く食べることと、がん、高血圧、糖尿病、うつ、肥満などの健康悪化との関連が複数の研究で示されてきました。ただし、この関係が因果なのか単なる相関なのかは強く議論されていると著者らは記しています。一方で、ネコ、ネズミ、マウス、イエスズメ、アメリカガラスといった哺乳類や鳥類に実験的に超加工食品を与えると悪影響が出ることが報告されており、これは因果関係を支持する証拠だと論文は位置づけています。
しかし著者らは、無脊椎動物についてはこれまで直接調べた研究がないと指摘します。舗装地に住むアリの一種が加工食品を食べていることは同位体の分析から示されており、ミツバチでは高果糖コーンシロップを加熱したときに生じる毒性物質にさらされると死亡率が上がることが知られていますが、超加工食品そのものが無脊椎動物の適応度に及ぼす影響は未検証でした。そこで研究チームは、都市生活によく適応し「不死身」とさえ言われる害虫であるオオモリゴキブリ(Nauphoeta cinerea)を使い、超加工食品の摂取が死亡率を高めるかどうかを実験的に確かめました。
どのように調べたか
研究チームは、研究室で11年にわたり維持してきたコロニーのゴキブリ計127匹を、3種類の餌のいずれかに割り当てました。未加工食のグループ(41匹)にはコロニーの通常食であるリンゴとジャガイモの小片を、超加工食のグループ(43匹)にはリンゴ風味のサワーパンチ・ストロー(コーンシロップ、高果糖コーンシロップ、小麦粉、砂糖、各種の酸、人工香料、着色料などを含む)と、パーム油・ひまわり油・食塩を含むプレーンな塩味ポテトチップスを与えました。いずれもNOVA分類で「超加工食品」にあたるグループ4に該当する製品です。混合食のグループ(43匹)には未加工食と超加工食を半分ずつ与えました。
飼育容器は各処理区に3反復ずつ、合計9個。各容器には卵パックの段ボール片と小麦ふすまを敷き、水は自由に飲める状態にし、18℃、湿度30〜50%で保ちました。雌雄は同数にそろえています。餌は十分な量が与えられ、毎週の補充前に食べ尽くされた容器はありませんでした。ただし論文は、餌の重量や1匹ごとの摂食量は記録していないと明記しています。
この条件で2か月間飼育したのち、容器ごとに生存個体と死骸を数えて死亡率を求めました。著者らは、このコロニーのゴキブリは絶食すると1か月以内に死ぬため、2か月という期間は餌の効果を捉えるのに十分だと説明しています。解析には二項分布を用いた一般化線形モデルを使い、餌の種類を説明変数としました。容器はランダム効果として組み込みましたが、説明される分散がゼロだったため除外しています。さらに、各処理区の死亡リスク比も算出しました。
報告された主な結果
超加工食だけを与えられたゴキブリの死亡率は47%で、未加工食では20%、混合食では23%でした。リスク比でみると、超加工食のグループは未加工食のグループに比べて死亡リスクが1.5倍高く(95%信頼区間1.10〜2.07、p = 0.008)、混合食との比較でも1.44倍でした(同1.04〜1.98、p = 0.02)。餌の種類は全体として死亡率に有意な影響を与えていました(χ² = 8.30、p = 0.01)。
一方、未加工食と混合食のあいだには死亡率の有意な差は認められませんでした。著者らはこの点について、選択肢があるときゴキブリは超加工食より未加工食を選んでいる可能性、あるいは未加工食をいくらか食べることが超加工食の悪影響を相殺している可能性を挙げています。ただし同時に、個体ごとの摂食量を測っていないため、食べた量やカロリーの違いが生存率の差に一部寄与した可能性も否定できないと断っています。また、今回の実験に使われた成虫はいずれも、実験開始前に生のリンゴとジャガイモ以外の餌に触れたことがありませんでした。
超加工食が寿命を縮める仕組みそのものは、この研究では解明されていません。著者らは今後の課題として、超加工食品によく使われる添加物のグルタミン酸ナトリウムがオオモリゴキブリの抗酸化遺伝子の発現を変えるという既報や、ミツバチでみられる腸の潰瘍などを、あくまで検討すべき可能性として挙げるにとどめています。
この報告が示すこと
研究チームは、この結果を、都市生活によく適応した無脊椎動物の害虫において超加工食品の摂取が高い死亡率につながることを示す実証的な証拠だとまとめています。これまで人、マウス、ラット、ネコ、鳥類といった脊椎動物で報告されてきた害が、昆虫にも及びうることを示した報告です。
論文は、都市化が生息地の消失や分断、各種の汚染、食物の入手可能性の変化などを通じて多くの種に不利に働いてきた一方、ゴキブリのように都市で繁栄する種もいることに触れ、人が超加工食品を動物たちの食環境に持ち込むこと自体が、人が自然に影響を及ぼすもう一つの経路になりうると述べています。「不死身」と呼ばれるほど頑健とされる種でさえ影響を免れなかったという点が、この報告の要点です。
著者:Ornela De Gasperin(Red de Ecoetología, Instituto de Ecología A. C, Xalapa, 91073, Veracruz, México)、Keara M Malazarte(Department of Biology, Adelphi University, 1 South Avenue, Garden City, 11350, NY, USA)、Shanya D. Morisseau(Department of Biology, Adelphi University, 1 South Avenue, Garden City, 11350, NY, USA)、Shana M Caro(Department of Biology, Adelphi University, 1 South Avenue, Garden City, 11350, NY, USA)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Ornela De Gasperin, Keara M Malazarte, Shanya D. Morisseau, et al. Ultra-processed food increases mortality in the cockroach Nauphoeta cinerea. Scientific Reports 2026-09-10. DOI: 10.1038/s41598-026-70733-w. 原著ライセンス:CC BY.