ダイエットや糖質制限に関心がある方なら、「ケトーシス」という言葉を耳にしたことがあるかもしれません。体が糖質の代わりに脂肪を主なエネルギー源として使うようになった状態のことで、糖質を控えた食事(ケトン食)を続けたり、断食などでエネルギー摂取が大きく不足したりすると起こります。ケトーシスの状態になっているかどうかを調べる方法として、これまでは血液や尿を採取して調べるのが一般的でした。しかし、採血や採尿は日常的に何度も行うには手間がかかります。そこで近年注目されているのが、体臭の一種でもある「アセトン」という物質を、呼気や皮膚から検出する方法です。今回紹介する研究は、皮膚から排出されるアセトンが、ケトーシスを判定するための指標としてどれくらい使えるのかを、他の指標と比較しながら詳しく調べたものです。
この研究では、16人の参加者を対象に8週間にわたるクロスオーバー試験(同じ参加者が異なる条件を順番に経験する試験デザイン)が行われました。通常の食事とエネルギーバランスの状態を「非ケトーシス」の基準とし、一方でケトン食やエネルギー摂取を大きく減らす食事操作によって「ケトーシス」の状態を意図的につくり出し、両者を比較しています。測定されたのは、皮膚から出るアセトンの濃度と排出量に加えて、呼気中のアセトンの濃度と排出量、血中のβ-ヒドロキシ酪酸(ケトン体の一種)の濃度、尿中のβ-ヒドロキシ酪酸やアセト酢酸(いずれもケトン体)の濃度と排出量など、複数のケトン体関連の指標です。これらの指標がケトーシスと非ケトーシスをどれだけ正確に見分けられるかを、ROC解析という統計手法(AUCという指標で0〜1の値をとり、1に近いほど判別性能が高いとされる手法)を用いて評価しています。なお、血中のβ-ヒドロキシ酪酸濃度は、ケトーシスかどうかを判定する際の臨床的な基準として位置づけられました。
結果として、皮膚アセトンの排出量は呼気アセトンの排出量と同じくAUC0.83を示し、他の複数のケトン体関連指標を上回る判別性能を示したと報告されています。皮膚アセトンの濃度もAUC0.83、呼気アセトンの濃度もAUC0.82と、いずれも高い数値でした。比較として、臨床的な基準とされた血中β-ヒドロキシ酪酸濃度と、尿中アセト酢酸の排出量はいずれもAUC0.81、尿中β-ヒドロキシ酪酸の排出量はAUC0.66、濃度はAUC0.68だったとされています。さらに、呼気アセトンと皮膚アセトンの排出量は、参加者内・参加者間の両方で系統的に比較され、両者の間に相関がみられたことも報告されています。この相関は、皮膚アセトンが体内のアセトン濃度を反映して皮膚を通して拡散してくる、体のケトン状態を示す指標である可能性を裏付けるものだと論文では述べられています。
この研究をどう読むか
この研究は、皮膚アセトンという非侵襲的(体を傷つけずに測れる)な指標が、採血によるβ-ヒドロキシ酪酸濃度など従来の指標と同程度の判別精度を持つ可能性を示した点が興味深いところです。将来的には、腕時計型などのウェアラブル機器で継続的に代謝の状態をモニタリングする用途への応用も期待されると論文では位置づけられています。ただし、この研究は16人という比較的小規模な参加者を対象としたパイロット試験(予備的な検証を目的とした試験)である点には留意が必要です。皮膚アセトンがケトーシスの判定に「使える」と断定されたわけではなく、一つの研究として得られた結果であり、今後さらに大規模な検証が必要になると考えられます。
まとめ
今回紹介した研究では、皮膚から排出されるアセトンの量が、ケトーシスと非ケトーシスを見分ける指標として、血液や尿を用いた従来の指標と同程度の判別性能を持つ可能性が示されました。特に呼気アセトンとの相関がみられたことから、皮膚アセトンが体内のケトン体の状態を反映する指標となりうることが示唆されています。採血を伴わずに継続的に測定できる特性から、今後のウェアラブル機器による代謝モニタリングへの応用が期待される分野ですが、これは一つの予備的な研究であり、結論が確定したものではないことも念頭に置いておきたいところです。
※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:ケトーシスの臨床診断バイオマーカーとしての皮膚アセトン(ニュートリション・アンド・ダイアビーティーズ・2026年07月)