この研究は、ドイツの研究機関の研究論文です。
掲載誌:University of Regensburg Publication Server (University of Regensburg)
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
なぜ「1975年」の食事に注目するのか
日本は世界でも最高水準の平均寿命をもつ国として知られています。その理由として日本の食生活が挙げられることが多く、国際的な関心も集めてきました。著者らは、この長寿が主に生活水準の向上と医療の進歩によってもたらされたものであると述べた上で、食事が果たした役割についても検討しています。
論考が出発点とするのは、日本の食事そのものが時代とともに変わってきたという事実です。1940年代末には平均寿命は男性約50年、女性約54年で、食事はエネルギー・たんぱく質・脂質・ビタミン・ミネラルが乏しく、栄養不足が広く見られました。1950年代以降の経済成長で栄養状態は改善し、2016年の平均寿命は男性81.1年、女性87.1年に達しています。一方で、植物性食品と魚の摂取が減り、パン、乳製品、動物性食品、油の摂取が増えるという「西洋化」の傾向が続いてきました。著者らは、この変化が生活習慣病の増加につながっている可能性を指摘し、では日本の食事のどの時代の形が健康にとって最も良いのか、という問いを立てています。
動物実験とヒト試験で何が報告されてきたか
食事の長期的な健康影響を人で確かめるのは簡単ではありません。疫学研究では食事と健康指標の関連を長期にわたって観察できますが、曝露を管理して因果関係を確定することはできません。因果を調べる標準的な方法は、参加者を無作為に異なる食事に割り付ける無作為化対照試験ですが、生涯にわたる影響を人で試験することは現実的ではないため、著者らはげっ歯類(ラットやマウス)を用いた研究が必要になると説明しています。
紹介されている研究の一つでは、1960年、1975年、1990年、2005年の典型的な日本の食事を粉末状に再現し、マウスに8か月間与えた比較が行われました。その結果、1975年の食事が最も良好で、内臓脂肪と肝臓の脂肪の蓄積や高血糖が抑えられたと報告されています。別の研究では、各年代の日本の食品を30%加えた飼料を生涯にわたって与え、自然死まで飼育して寿命を比較しました。24週の時点では老化の程度に大きな差はありませんでしたが、48週では2005年群より1975年群・1990年群で老化の兆候が弱く、老化の進行が最も遅かったのは1975年群でした。学習と記憶についても、48週の時点で1975年群は2005年群より障害が小さく、平均寿命は2005年群に比べて1975年群で有意に長かったと報告されています。
人を対象とした試験も取り上げられています。若年成人を対象とした無作為化対照試験では、1975年の食事を4週間とった場合、現代の日本の食事と比べて体重、体脂肪量、体脂肪率、血中中性脂肪、LDL(いわゆる悪玉)コレステロールが統計的に有意に低下しました。別の無作為化対照試験では、BMI、脂肪量、LDLコレステロールが有意に下がり、HDL(いわゆる善玉)コレステロールが上がったと報告されています。腸内細菌を調べた試験では、1975年の食事を4週間続けた後に4つの細菌属で有意な変化が見られ、その変化が生活習慣病リスクを示す指標の低下と関連していたことから、腸内細菌の変化が健康上の利点に関わっている可能性が示されています。著者らは、1975年の食事の良好な結果が人にも当てはまるかどうかは、なお確立されていないと述べています。
1975年の食事を特徴づけるもの
著者らは、健康に良い効果をもたらすと考えられる主な食材として、魚、果物、野菜、海藻、大豆製品、出汁(昆布やしばしば鰹節でとるだし)、しょうゆなどの発酵調味料を挙げています。質量分析と主成分分析を用いた研究では、1975年に特に多く、1960年・1990年・2005年には少なかった成分として、魚のヒスタミンやアラキドン酸、鰹節のヒスチジンやロイシン、果物のナリンギン、野菜のピリドキサミン、大豆食品のダイゼインなどが同定されました。
食材以外の特徴も挙げられています。味噌汁、主菜、副菜二品、漬物、ご飯からなる「一汁三菜」のように小皿を多く並べる食べ方は、多様な食材と幅広い栄養素をとることにつながります。豆類、緑黄色野菜、大豆製品、果物、海藻、魚介類、きのこ、調味料、緑茶の摂取が多く、乳製品・卵・肉は適量で、ジュースや砂糖入り飲料は比較的少なめです。調理は揚げたり炒めたりするよりも、煮る、蒸す、生で食べる、ゆでる、焼くが中心で、だしと発酵調味料でうま味を補うことにより、塩・砂糖・脂を使いすぎずに味を整えます。加工度の低い食品が中心のためトランス脂肪酸がごく少ないことも特徴として挙げられています。
同時に、著者らは課題も明示しています。1970年代末の日本の主要栄養素の摂取量は、塩分が多すぎることとカルシウムが足りないことを除けば、ほぼ理想的な水準に達していました。塩分の過剰摂取は高血圧、心血管疾患、脳卒中、胃がんのリスクを高めるため懸念されており、日本の塩分摂取量は現在の推奨量を超えたままで、公衆衛生上の対策が引き続き必要だとされています。カルシウムについては、伝統的な食事でも現代の食事でも平均摂取量が国の推奨量に届かないことが多く、骨量の低下や骨折のリスクに関わるため対策が求められると述べられています。
この論考が示す意味
著者らは、肉を極端に避けることにも問題があり得ると指摘しています。肉や乳製品は血管を保つために必要だが、コレステロールの高さや動脈硬化で血管が詰まるほど多量に食べるべきではない、というバランスの考え方が示されています。また、食事だけでなく、日本で比較的盛んな定期的な身体活動など他の生活習慣要因も考慮する必要があり、今後はそれらの相互作用を調べるべきだとしています。
今日の日本の高齢者は、中年期に1970年代の食事をとっていた世代です。一方で若い世代は現代的な食事をとり、糖尿病などの生活習慣病が増えているため、日本の例外的な平均寿命は頂点に近づいており、将来も維持されるとは限らないと著者らは見ています。それでも、時機を得た公衆衛生上の働きかけによって1975年の食事がもたらす利点を取り戻すことはできるとし、この食生活をさらに研究し、発展させ、広めることは、健康を保ち老化を遅らせる一つの道として世界的な関心に値すると結んでいます。
著者:Klaus W. Lange(Institute of Psychology, University of Regensburg)、Yukiko NAKAMURA
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Klaus W. Lange, Yukiko NAKAMURA. The Japanese diet of 1975 and health promotion: What can we learn from Japan?. University of Regensburg Publication Server (University of Regensburg) 2026-09-30. DOI: 10.5283/jdphp.57. 原著ライセンス:CC BY.