著者の所属・活動拠点の国は、タイです。

掲載誌:Foods

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

チョコレートの原料となるカカオ豆は、収穫後に果肉ごと数日間発酵させます。この工程では、酵母や乳酸菌、酢酸菌などの微生物が果肉の糖を分解し、アルコールや有機酸が生じます。その過程で豆の水分、糖、酸味、色、ポリフェノール類などが変化し、チョコレートの風味のもとになる成分も形づくられます。

発酵は農家や地域の協同組合で自然任せに行われることが多く、仕上がりにばらつきが出やすいとされています。研究チームは、調整できる条件の中でも温度が特に重要だと考えました。そこで、15℃、25℃、35℃、45℃の4つの温度で発酵を比較し、温度が豆の性質や成分の変化にどう影響するかを調べました。小規模生産者でも取り入れやすく、資源を節約できる品質管理の手がかりを得ることも目的としています。

どのように調べたか

研究チームは、タイ・チェンマイ県の農園で採れたフォラステロ系品種「チュンポン1ハイブリッド」のカカオ豆を使いました。1回あたり5kgの豆を断熱容器に入れ、伝統的な発酵に近づけるためバナナの葉で覆いました。そのうえで4つの温度に保ち、各温度で3回ずつ発酵を行いました。

発酵期間は8日間です。最初の2日間は豆をかき混ぜず、空気の少ない状態で発酵させました。3日目以降は毎日かき混ぜ、空気に触れる状態にしました。発酵中は2日ごとに、水分、糖、エタノール、乳酸、酢酸、酸度、総フェノール量、色などを測りました。発酵後は豆を50℃で3日間乾燥させ、収量、水分活性(微生物が利用できる水の目安)、還元糖、総フェノール量、テオブロミン、カテキンなどを比べました。

主な結果

15℃では発酵の進み方が穏やかで、変化が小さい傾向がみられました。発酵8日目の豆の水分は、25〜45℃では20.72〜28.66%まで下がりました。一方、15℃では49.81%と高いままでした。還元糖(ブドウ糖などの糖)は温度が高いほど大きく減り、8日目には45℃で5.13mg/g、15℃で15.89mg/gでした。総フェノール量も発酵とともに減り、45℃で最も低くなりました。pHは比較的安定していましたが、滴定で測る酸度は8日目に45℃で最も高く、15℃で最も低くなりました。

発酵中の代謝物にも温度による違いがありました。15〜35℃では最初の2日間で糖が急速に消費されました。45℃では消費がゆっくりで、6日目まで少しずつ続きました。エタノールは2日目に最も多くなり、特に15℃と25℃で顕著でした。その後エタノールが減る一方、酢酸が増えました。酢酸は特に25℃と35℃で2〜4日目に大きく増えています。研究チームは、こうした変化を酵母や酢酸菌の働きと関連づけて考察しています。ただし、今回は微生物の数を測っていないため、それぞれの微生物がどの程度関わったかは確認できていないと述べています。

乾燥後の豆では、収量が15℃で47.17%と最も高く、45℃で37.67%と最も低くなりました。15℃の豆は水分活性(0.57)、還元糖(17.84mg/g)、総フェノール量(2.39mg/g)がいずれも最も高く、酸度(0.26%)は最も低い値でした。45℃の豆では総フェノール量が0.36mg/gまで下がりました。カカオに含まれる苦味成分テオブロミンは3.38〜3.87mg/gで、温度による有意な差はありませんでした。カテキンは0.03〜0.10mg/gと少量で、温度が高いほどわずかに多い傾向がみられました。

研究が示すこと

この研究は、発酵温度によってカカオ豆の糖や酸、フェノール類、水分、収量が変わることを、同じ条件をそろえた比較で示しました。低温では発酵があまり進まず、高温では糖やフェノール類の減少が進みます。テオブロミンは温度の影響をほとんど受けませんでした。

なお著者らは、豆を切って内部の色を確かめる標準的な検査(カットテスト)や官能評価を行っていません。そのため、今回測った変化が最終的な豆の品質とどう結びつくかは、まだ直接示されていないと述べています。それでも、温度を管理して発酵させることが、ばらつきやすいカカオの収穫後処理を安定させ、品質管理や付加価値づくりに役立ちうることを示す結果といえます。

原著論文の著者・所属:Theerapong Kammoon(Audiva Thai Cacao Co., Ltd., Chiang Mai 50230, Thailand; Faculty of Agro-Industry, Chiang Mai University, Chiang Mai 50100, Thailand)、Sathian Boonkum(Faculty of Agro-Industry, Chiang Mai University, Chiang Mai 50100, Thailand)、Patcharee Pattanagul(Faculty of Agro-Industry, Chiang Mai University, Chiang Mai 50100, Thailand)、Pratchaya Tipduangta(Department of Pharmaceutical Sciences, Faculty of Pharmacy, Chiang Mai University, Chiang Mai 50200, Thailand)、Supavej Maniyom(Faculty of Agro-Industry, Chiang Mai University, Chiang Mai 50100, Thailand)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Theerapong Kammoon, Sathian Boonkum, Patcharee Pattanagul, et al. Temperature-Dependent Changes in Physicochemical Properties and Selected Bioactive Compounds During Controlled Fermentation of Cocoa Beans (Theobroma cacao). Foods 2026-09-28. DOI: 10.3390/foods15193473. 原著ライセンス:CC BY.