著者の所属・活動拠点の国は、インドネシアです。

掲載誌:Jurnal Medika.

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

魚が身近にあることと、安全に食べられることは別の問題

魚は質の良いたんぱく質に加え、オメガ3脂肪酸やビタミン、ミネラルを含む食品です。水揚げ地の近くに暮らす沿岸の世帯にとっては、家族の食事の質を高めるために手に入れやすい食材でもあります。ただし著者らは、魚が身近にあるだけでは、選び方、扱い方、調理、保存が安全に行われるとは限らないと指摘しています。手指の衛生が不十分なこと、生の食材と加熱済みの食品の間で汚染が移ること(交差汚染)、加熱不足、不適切な保存などがあると、魚料理の健康上の価値が損なわれ、食中毒などの食品由来の病気のリスクも高まります。

研究チームは、インドネシア・ジョグジャカルタ特別州バントゥル県のデポック海岸で、漁業世帯の住民を対象にした地域貢献活動を行いました。デポック海岸は漁業と魚料理の店で知られる地域です。活動の目的は、食品の安全と健康的な魚の調理について、参加者の知識と実践的な技能を高めることでした。具体的には、魚の鮮度と安全な原材料の選び方の理解、家庭での衛生と交差汚染の防止への意識、安全な下ごしらえ・調理・盛り付け・保存の技能を高め、家族の食事でこれらを実践するよう促すことを目指しています。

段階を踏んで寄り添う「構造化メンタリング」

プログラムには漁業世帯の住民10人が参加しました。講義だけで終わらせず、指導者が段階的に寄り添いながら実践まで支える「構造化メンタリング」という方式をとっています。流れは、地域の代表者との打ち合わせと必要事項の把握、学習前の確認テストと自己申告による実践状況の記録、対話型の講習、実演、少人数での指導付き実習、家庭での実践とその後のフォローアップ、最終評価という順です。最初の段階では、よく買う魚や普段の保存・調理方法、使える水や調理設備、家族の好む料理などを聞き取り、教材や実習の献立を地域の実情に合わせました。

講習の柱には、世界保健機関(WHO)が示す「食品をより安全にするための5つの鍵」が使われました。清潔を保つこと、生の食品と加熱済みの食品を分けること、よく加熱すること、安全な温度で保つこと、安全な水と原材料を使うこと、の5つです。著者らは、家庭で覚えておける簡潔さがありながら、魚の調理で起こる主な危険を十分に押さえられる枠組みだと説明しています。

実演では、海の新鮮な匂い、澄んで輝く目、魚種に応じた赤やピンクのえら、押すと戻る弾力のある身、傷のない皮といった鮮度の目安を一つだけで判断せず総合的に見ることを伝えました。そのうえで、手洗い、作業台の清掃、生の魚に使った器具と加熱後の料理に使う器具を分けることなど、作業の順序を目に見える形で示しました。実習では、蒸した魚と野菜のパティや野菜入りの魚スープ、焼き魚など、地元で手に入る魚に合わせた料理を作り、指導者がチェックリストを使ってその場で助言しました。家庭では少なくとも一つの安全な調理の習慣を繰り返し、困ったことを簡単な記録カードに書き留めるよう勧めています。

教材では、油や塩、うま味調味料を控えめにし、野菜と組み合わせ、蒸す・ゆでる・焼くといった調理法を選ぶことも扱いました。WHOの指針に沿って、加熱済みの食品を室温に2時間以上置かないことも伝えています。冷蔵庫がない、または当てにならない家庭には、すぐ食べきれる量だけを作るよう勧めるなど、助言を各家庭の設備に合わせる工夫も示されています。

報告された実施の様子と、まだ示されていないこと

著者らによると、少人数で行ったことで、指導者は実習中に一人ひとりの様子を観察でき、参加者は身近な疑問を気軽に尋ねることができました。たとえば、買った魚をどう保存するか、生の魚を切ったまな板で野菜を切ってよいか、調理した魚を食卓にどのくらい置いておけるか、子どもが食べてくれる魚料理をどう作るか、といった質問です。

実習では、各家庭の設備が同じだとは想定せず、費用がかからず実行しやすい行動に重点が置かれました。容器を分ける、石けんと安全な水で手を洗う、調理済みの料理に覆いをする、まな板や包丁を使うたびに洗う、冷蔵が難しければ食べきれる量だけ作る、といった方法です。著者らは、交差汚染の多くは清潔への意識が足りないからではなく、作業の流れが意識的に組み立てられていないことから起こると述べ、手順を見える形で示すことの大切さを強調しています。また、加熱済みの料理を生の魚を載せていた皿に置きかけたときに、その場で汚染の経路を説明して清潔な皿を選んでもらうといった即時の助言は、抽象的な説明よりも行動に結びつきやすいとしています。

一方で、この論文は活動報告とプログラムの手順を示すものとして書かれており、学習前後のテスト、観察、フォローアップの数値データは示されていません。著者らは、確認されたデータがないため効果を示す数値をあえて作らなかったと明記しています。参加者が10人と少ないため、結果は地域でのプログラム改善には役立つものの、ほかの漁業世帯や沿岸地域に一般化はできないことも限界として挙げています。テストの点数は短期的な学びを測るもので、家庭での日常の行動が続くかどうかを直接示すものではない点にも触れています。

地元の魚を安全で栄養のある家族の食事に

著者らは、食品の安全と栄養を別々の話題としてではなく、一体のものとして扱った点をこの活動の強みとしています。魚は単なるたんぱく源でも、単なる危険を含みうる原材料でもなく、安全な扱いと好ましい調理によって初めて恩恵が生かされる地元の食材として位置づけられました。

この報告が示しているのは、効果が確かめられた結果ではなく、WHOの5つの鍵に基づく講習に実演、指導付きの実習、フォローアップを組み合わせることで、魚を安全に選び、扱い、調理し、保存する力を家庭で育てるための、実行可能な一つのモデルです。魚が豊富な沿岸地域でも、それを家族の安全で栄養ある食事に変えるには、日々の台所での具体的な手順を支えることが欠かせないという視点が伝わってきます。

原著論文の著者・所属:Andi Adam Malik(Prodi Budidaya Perairan Fakultas Pertanian Peternakan dan Perikanan Universitas Muhammadiyah Pare-pare)、Wuri Ratna Hidayani(Prodi S1 Kesehatan Masyarakat Sekolah Tinggi Ilmu Kesehatan (STIKes) Respati)、Ratri Ciptaningtyas(Fakultas Ilmu Kesehatan, UIN Syarif Hidayatullah)、Diah Kartikawati(Prodi Teknologi Hasil Pertanian,, Fakultas Teknologi Pertanian, Universitas 17 Agustus 1945 Semarang)、Efrina Efrina(Program Studi Seni Kuliner dan Pengelolaan Jasa Makanan Fakultas Teknik Universitas Negeri Jakarta)、Mulono Apriyanto(Magister Pertanian, Universitas Lancang Kuning)、Sara Haumahu(Jurusan Ilmu Kelautan, Fakultas Perikanan dan Ilmu Kelautan Universitas Pattimura)、Alfonsina Martina Tapotubun(Program Studi Teknologi Hasil Perikanan, Universitas Pattimura)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Andi Adam Malik, Wuri Ratna Hidayani, Ratri Ciptaningtyas, et al. Food Safety Education and Healthy Fish Processing for Coastal Communities to Support Household Nutrition Security: A Structured Mentoring Program. Jurnal Medika. 2026-08-30. DOI: 10.31004/j7ke5m44. 原著ライセンス:CC BY.