著者の所属・活動拠点の国は、カナダです。

掲載誌:Canadian Food Studies / La Revue canadienne des études sur l alimentation

ライセンス: CC BY-SA 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的と背景

カナダ東部のニューファンドランド・ラブラドール州は、人口約50万人が広い範囲に散らばって暮らし、農村部に住む人の割合が高い地域です。論文によると、同州の農村部では都市部に比べて慢性疾患のリスクや有病率が高く、たとえば糖尿病の有病率もすべての年齢・性別の層で都市部を上回っていると報告されてきました。

著者らは、食生活に関わる健康課題には個人への働きかけだけでなく、人々の食品選択に影響する店や価格、情報といった「食環境」への対策が必要だと述べています。一方で、店舗での健康的な食品販売の取り組みについては研究の質やばらつきに課題があり、特に実際の農村の店でどのように効果が生まれるのかは十分に分かっていませんでした。

そこで研究チームは、州の非営利団体Food First NLと協力し、「Great Things in Store(GTiS)」という地域参加型のプロジェクトを実施しました。この研究の目的は、農村の小規模な食料品店が自ら設計した健康的な食品販売の取り組みについて、実行のしやすさと影響を左右する中心的な要因を明らかにすることです。

何をどのように調べたか

参加を希望した35の小売店のうち条件を満たしたのは8店で、そこから立地や経営形態の異なる3店が選ばれました。ただし1店は取り組みを続ける余力が足りないとして途中で自ら辞退したため、分析は2店を対象としています。ここでいう農村とは、人口1000人未満で人口密度の低い地域を指します。

各店には取り組みに必要な購入や経費のために1万7500ドルが提供され、内容は店側が自由に決めました。事前に地域住民も参加する集会を開き、健康的な食品を買いやすくする要因や妨げる要因を話し合ったうえで、2023年前半に計画を立て、同年7月から2024年1月までの半年間にわたって実施しました。

研究チームは、取り組みの前(2022年11月)と後(2024年2月)に店主へ聞き取り調査を行いました。分析には「リアリスト評価」という手法を用いています。これは「何が、誰にとって、どんな状況でうまくいくのか」を探るもので、状況(Context)、仕組み(Mechanism)、結果(Outcome)の頭文字をとった「CMO」という組み合わせで、取り組みがどのように働いたのかを説明します。なお、ここでの影響は、食品の入手しやすさや価格、客の態度や購買行動などについての店主の認識として捉えられています。

2つの店の取り組みと見えてきた5つの要因

1店目は、州都セントジョンズから60キロほど離れた人口約650人の町にあり、1886年から同じ一族が営む老舗です。この店は、売れ行きの悪い野菜や果物の購入を促すために健康的なレシピカードを店内に6週間置き、さらに商品をネットで注文して、店から30キロ以内への配達や店頭受け取りができるウェブサイトを2023年12月に始めました。

2つ目の店は、州都から140キロほど離れた人口約300人の町で2017年に開業した店です。電動の肉用のこぎり、業務用の真空包装機、計量して値段を出すはかり、冷凍庫を購入し、食品を小分けにして販売することで、買いやすくし、食品の廃棄を減らすことを目指しました。

分析からは、取り組みの成否を左右する5つの要因が浮かび上がりました。1つ目は「地域への思いと住民からの声」です。小さな町では店主と住民の距離が近く、直接の声が取り組みの選択や成果の判断につながっていました。1店目が配達サービスを始めたのも、高齢者などにとって来店が負担になっていると聞いたためでした。2つ目は「宣伝と情報の伝わり方」で、2店目の店主は口コミを「小さな火」と表現し、ブロッコリーを置き始めると「ブロッコリーがあるって聞いたよ」という客が来たと語っています。

3つ目は「まとめ買い」です。1日に約500件の売り上げがある1店目では、大量に仕入れることで品質と価格の面で利点があったと店主は話しています。一方、客の少ない2店目では、通常の卸業者の最低発注量に縛られて余った分が傷みやすく、40ポンドのキャベツ1箱が、傷んだ部分を捨てると売り物になるのは24ポンドだけだった例が紹介されています。取り組み後は地元の農家から牛肉を4分の1頭単位で仕入れ、自店で切り分けて包装することで、より良い価格を確保できたと店主は述べています。

4つ目は「食品流通の中での店の立場」です。大手食料品チェーンと結びついた加盟店の仕組みに入っている1店目は、安定した仕入れ先から比較的安く多様な商品を得られていました。一方、こうしたつながりのない2店目は供給や価格が安定せず、近くの店と共同で仕入れるなど、地元の関係者とのつながりを築いて対応していました。5つ目は「店の成熟度」で、歴史ある1店目は既存の人員や車両、電子化された在庫管理を生かして近代化を図り、開業間もない2店目は設備をそろえることで本格的な食料品店へ移行しようとしていました。

研究が示すこと

著者らは、5つの要因すべてに共通するのは店と地域の「小ささ」だと指摘しています。町の人口、1日の売り上げ件数、店の広さ、流通の中での立場、店の歴史など、さまざまな意味での小ささが互いに影響し合い、取り組みの成果が店の運営や客との関係にどう表れるかを形づくっていました。

この研究は2つの店を詳しく調べた事例研究であり、店主の語りから要因を整理したものです。そのうえで論文は、健康的な食品販売の取り組みの成否が食品そのものだけでなく、地域とのつながりや仕入れの仕組み、店の置かれた状況といった要素に左右されることを示しています。農村の店で健康的な食品を買いやすくするには、それぞれの店の事情に合ったやり方を考えることが大切だということが、この研究から伝わってきます。

原著論文の著者・所属:Rebecca LeDrew(Memorial University of Newfoundland)、Peter Wang(Memorial University of Newfoundland)、Holly Etchegary(Memorial University of Newfoundland)、Kris Aubrey-Bassler(Memorial University of Newfoundland)、Delphine Grynszpan(Memorial University of Newfoundland)、Shabnam Asghari(Memorial University of Newfoundland)、Rachel Prowse(Memorial University of Newfoundland)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Rebecca LeDrew, Peter Wang, Holly Etchegary, Kris Aubrey-Bassler, Delphine Grynszpan, Shabnam Asghari, Rachel Prowse A realist evaluation of healthy food retailing interventions in small food stores in rural Newfoundland and Labrador, Canada. Canadian Food Studies / La Revue canadienne des études sur l alimentation 2026-08-27. DOI: 10.15353/cfs-rcea.v13i2.763. 原著ライセンス:CC BY-SA 4.0.

本紹介記事の文章(題名・見出しを含む)は、CC BY-SA 4.0で提供します。原著論文をもとにNutriMap Japanが日本語で要約・説明を加えています。対象は本紹介記事の文章に限り、ヒーロー画像・サイトのロゴ・画面デザイン・他の記事・データベース全体は含みません。