著者の所属・活動拠点の国は、インドネシアです。

掲載誌:International Journal of Economics Business and Innovation Research

ライセンス: CC BY-SA 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

大規模給食で食の安全をどう守るか

インドネシアでは、国民の栄養状態を改善する国家施策として「無償栄養給食プログラム(MBG)」が進められており、栄養充足サービス拠点(SPPG)と呼ばれる施設が給食を作っています。数千食を限られた時間で作る現場では、食材の受け入れから保管、下ごしらえ、加熱、盛り付け、配送までのどの段階でも、細菌などによる汚染、農薬などの化学物質、異物混入といった危険が生じるおそれがあります。

研究チームは、東ジャカルタ・ジャティネガラ地区にある拠点「チピナン・ムアラ2」を対象に、食品衛生管理の手法であるHACCP(ハサップ、危害要因分析・重要管理点)がどのように運用されているかを調べました。この拠点は、献立作成から食材調達、調理、盛り付け、配送までを一括して担う集中調理施設で、1日2,999人分の食事を提供しています。HACCPは、完成品を最後に検査するだけに頼らず、工程の中で特に管理が欠かせない段階をあらかじめ定め、そこで基準が守られているかを継続的に確認する予防的な仕組みです。研究の目的は、実際の生産現場でのHACCPの運用状況、導入にあたっての追い風と課題、そして課題への対応策を明らかにすることでした。

現場の観察と聞き取りによる調査

この研究は、数値の統計分析ではなく、現場の実態を詳しく描き出す質的な事例研究です。著者らは2026年4月から7月にかけて、食材の受け入れから配送までの工程を現地で観察し、HACCPチームや調理担当者に詳しい聞き取りを行いました。あわせて、保管・加熱時の温度記録、HACCP計画書、点検表、作業日誌などの記録類も確認しています。複数の情報源を突き合わせることで、結果の確かさを高めたとしています。

危険の洗い出しでは、生物的(微生物)、化学的、物理的という三つの区分ごとに、起こりやすさと起きた場合の深刻さを評価しました。そのうえで「デシジョンツリー」と呼ばれる判定手順を使い、それぞれの危険を重要管理点(CCP)で管理すべきか、それとも衛生標準作業手順(SSOP)などの前提となる衛生管理で対応できるかを振り分けています。論文は、すべての工程をCCPにする必要はなく、管理を誤ると直ちに安全が損なわれ、かつ明確な数値基準を設定できる段階に資源を集中させることが重要だと説明しています。

加熱温度や洗浄液濃度などの管理基準と課題

報告されたCCPの例として、米の炊飯では最終温度100℃・加熱時間30分以上、調理に使う水や肉・魚・卵などのおかず、合わせ調味料の加熱ではおよそ90℃という基準が定められていました。果物はその後加熱されずに提供されることがあるため、加熱ではなく、食品用の塩素溶液(最大200ppm)で洗浄する方式で管理されています。いずれも温度計や濃度の測定で工程ごとに確認し、基準に届かなければ加熱や洗浄をやり直し、基準を満たさないままの果物は廃棄するといった対応が決められていました。さらに、記録の日々の点検、温度計の校正、定期的な検査室での分析、内部監査を通じて、仕組みが機能しているかを確かめていたと報告されています。

基準から外れた事態が起きた際には、生産の一時停止、経緯の記録、原因の追跡、責任者への報告、製品の隔離、工程のやり直しや廃棄といった手順が用意されていました。著者らは、この運用を支えた要因として、管理者の関与、拠点長が率いる正式なHACCPチーム、職員への事前研修、統一された作業手順書などを挙げています。

一方で課題も明らかになりました。最も大きかったのは人の行動面で、調理経験の違いから標準化された作業への抵抗が当初見られ、保護具の着用や衛生手順を一貫して守らせることが重要だったとされています。また、配送時刻に間に合わせなければならない生産上の圧力と、基準逸脱時に作業を止める必要性との間の緊張、作業スペースの狭さによる清潔区域と汚染区域の区分の難しさ、生産量の多さに伴う記録の負担と記録の抜け・遅れの問題も指摘されました。

HACCPは組織の仕組みでもある

著者らは、HACCPが予防的な管理と、安全な行動が日常業務に根づく「食品安全文化」を強めていたと結論づけています。同時に、温度や衛生の管理といった技術的な対策は、役割分担、研修、意思疎通、記録の規律といった組織運営と切り離せないとも強調しています。

大量の食事を短時間で届ける公共給食の現場では、手順書を整えるだけでは十分ではなく、働く人がそれを毎日守り続けられる体制づくりが安全の土台になる。この事例研究は、その点を一つの拠点の具体的な運用を通して示しています。

原著論文の著者・所属:Vindi Athira(Master of Management Program, Faculty of Economics, Institut Bisnis dan Multi Media ASMI, Jakarta, Indonesia)、Ratnawati Prayogi(Master of Management Program, Faculty of Economics, Institut Bisnis dan Multi Media ASMI, Jakarta, Indonesia)、Audrey G. Tangkudung(Master of Management Program, Faculty of Economics, Institut Bisnis dan Multi Media ASMI, Jakarta, Indonesia)、F.X Irwan Tanamas(Master of Management Program, Faculty of Economics, Institut Bisnis dan Multi Media ASMI, Jakarta, Indonesia)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Vindi Athira, Ratnawati Prayogi, Audrey G. Tangkudung, F.X Irwan Tanamas Implementation of Hazard Analysis and Critical Control Points (HACCP) to Ensure Food Safety in the Free Nutritious Meal Program: A Case Study at the Cipinang Muara 2 Nutritional Fulfillment Service Unit. International Journal of Economics Business and Innovation Research 2026-08-28. DOI: 10.63922/ijebir.v5i05.6330. 原著ライセンス:CC BY-SA 4.0.

本紹介記事の文章(題名・見出しを含む)は、CC BY-SA 4.0で提供します。原著論文をもとにNutriMap Japanが日本語で要約・説明を加えています。対象は本紹介記事の文章に限り、ヒーロー画像・サイトのロゴ・画面デザイン・他の記事・データベース全体は含みません。