著者の所属・活動拠点の国は、チリ、アイルランドです。

掲載誌:Gels

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的:ゲルを作るときのpHに注目

アルギン酸ナトリウムは主に褐藻から得られる多糖で、カルシウムなどのイオンに触れるとゲルになる性質があります。アルギン酸の溶液をカルシウム塩の液に滴下すると、表面から固まって小さな粒(ビーズ)ができます。この方法は食品分野で、成分を包み込む技術として研究されてきました。

ビーズにたんぱく質を加えて構造を補強する方法も知られており、従来は乳由来のホエイたんぱく質がよく使われてきました。一方で、環境負荷や植物性食品への関心の高まりから、植物性たんぱく質で置き換えることにも関心が集まっています。

研究チームが注目したのは、ゲルを作るときの液の酸性度(pH)です。たんぱく質は、等電点と呼ばれる特定のpHで全体の電荷がほぼゼロになり、それより酸性側ではプラス、アルカリ性側ではマイナスの電荷を帯びます。アルギン酸はマイナスの電荷を持つため、pHによってたんぱく質との引き合い方や反発の仕方が変わると考えられます。ただし、ゲル化時のpHを酸性にするか中性にするかで、等電点の異なる植物たんぱく質の閉じ込め方や消化中の放出がどう変わるかは、体系的には十分調べられていませんでした。

そこで著者らは、pH4と pH7でビーズを作り、アルギン酸とたんぱく質の相互作用、ビーズの形、そして模擬的な消化の過程でのたんぱく質の保持と分解がどう違うかを調べました。

何を調べたか:3種類の植物たんぱく質

使われたのは、業界の基準的な存在である大豆たんぱく質、低アレルゲン性が評価され利用が広がるエンドウたんぱく質、そして搾油後の残さから得られる新しい原料としての麻(ヘンプ)たんぱく質の3種類です。麻たんぱく質は、麻の実から油を搾った後の粕から研究チームが抽出しました。

論文によると、等電点は大豆が約4.5、エンドウが約4.7、麻が約5です。そのためpH4では、大豆とエンドウは電荷がほぼゼロに近く、麻はプラスの電荷を保ってアルギン酸と引き合いやすい状態になります。pH7では3種類ともマイナスの電荷を帯び、アルギン酸と反発し合う条件になります。

研究チームは、各たんぱく質の水への溶けやすさや電荷を測ったうえで、アルギン酸と混ぜた液をpH4またはpH7に調整し、塩化カルシウムの液に注射針から滴下してビーズを作りました。続いて、ビーズの大きさと球形にどれだけ近いかを測定しました。さらに、胃と腸の消化を試験管内で再現する模擬消化試験で、ビーズからのたんぱく質の放出と、消化酵素による分解の程度を調べました。

主な結果:溶けやすさ、ビーズの形、消化中の放出

溶けやすさでは、精製したエンドウたんぱく質が、調べたpH2〜7の範囲全体で大豆や麻より有意に高い値を示しました。いずれのたんぱく質もpH2で最もよく溶け、その値はエンドウ67.7%、麻43.8%、大豆35.9%でした。また、どのたんぱく質も等電点付近で溶けにくくなりました。

ビーズの平均直径は2.32〜2.76ミリメートルでした。全体として、pH7で作ったビーズのほうが小さく、麻と大豆では有意な差がみられました。球形の度合いは多くの条件で球とみなせる基準に届かず、ビーズは「やや球形」に分類されました。エンドウたんぱく質をpH7で用いたビーズは統計的に最も球形に近かったものの、著者らは、pH7のほうが全般に球形のビーズを作れるとまでは結論できないとしています。

模擬消化では、pH4とpH7のどちらで作ったビーズでも、放出されたたんぱく質は胃の段階で消化酵素ペプシンによって大きく分解されました。分解産物の多くは5キロダルトン未満の小さな断片となり、その中でも0.3キロダルトン未満のものが大きな割合を占めました。腸の段階ではすい臓由来の消化酵素によってさらに分解が進みました。たんぱく質の種類による違いもあり、大豆では大きな断片の減少がより顕著でした。

ゲル化時のpHによる違いとして、pH4で作ったビーズは、pH7で作ったビーズより腸の段階でのたんぱく質の放出量が多いと報告されています。大豆とエンドウでは、pH4のビーズから出たたんぱく質のほうが分子量の小さい断片の割合が高い傾向でした。一方、麻たんぱく質ではpH4とpH7で分解産物の大きさの分布がほとんど変わりませんでした。

研究が示すこと

著者らは、ゲル化時のpHが、たんぱく質とアルギン酸の相互作用の強さだけでなく、その性質も変えると結論しています。pH4の麻たんぱく質ではプラスとマイナスの電気的な引き合いが中心となる一方、等電点付近にある大豆とエンドウでは、水素結合や疎水性相互作用、局所的な電荷の偏りがより重要になるとしています。

こうした相互作用の違いと、pHによるたんぱく質の溶けやすさの変化が、最終的なたんぱく質の放出の違いと関連していました。この研究は、ビーズを作るときのpHが、アルギン酸を使った包み込みの仕組みでたんぱく質の保持と放出を左右する重要な製造条件であることを示しています。なお、観察された放出の違いを生む微細な構造の仕組みは、構造を直接観察する研究でさらに明らかにする余地があると著者らは述べています。

原著論文の著者・所属:Juan Cumilaf(Doctorate in Sciences Engineering with Specialization in Bioprocesses, Faculty of Engineering and Science, Universidad de La Frontera, Temuco 4811230, Chile)、Ever Hernández-Olivas(Moorepark Research Centre, Teagasc, Fermoy, Co., P61 C996 Cork, Ireland)、André Brodkorb(Moorepark Research Centre, Teagasc, Fermoy, Co., P61 C996 Cork, Ireland)、Mónica Rubilar(Department of Chemical Engineering, Faculty of Engineering and Science, Universidad de La Frontera, Temuco 4811230, Chile)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Juan Cumilaf, Ever Hernández-Olivas, André Brodkorb, et al. Effect of Gelation pH on the Entrapment and In Vitro Gastrointestinal Digestion of Plant Proteins in Alginate Beads. Gels 2026-08-13. DOI: 10.3390/gels12080717. 原著ライセンス:CC BY.