著者の所属・活動拠点の国は、中国です。
掲載誌:Frontiers in Cell and Developmental Biology
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
低タンパク質飼料と卵質をめぐる課題
採卵鶏の飼料では、タンパク質原料の価格の高さや、排せつ物に含まれる窒素による環境負荷を背景に、飼料中のタンパク質を減らす工夫が注目されています。ただし、これまでの報告では、タンパク質を減らすと卵の重さや産卵成績が下がる場合と、ほとんど影響がない場合の両方がありました。
研究チームが着目したのは、N-カルバミルグルタミン酸(NCG)という物質です。NCGは、体内でアミノ酸の一種であるアルギニンを作る働きを高めることが知られています。これまでに、鶏の卵胞の発達を促すことなども報告されていました。
この研究の目的は、低タンパク質飼料にNCGを加えたときに、産卵成績や卵質がどう変わるかを調べることです。あわせて、卵白のタンパク質を作って分泌する卵管の部位で何が起きているのかも探りました。
5つの飼料で7週間飼育し、卵と卵管を調べる
実験には、300日齢の採卵鶏(北京1号系統)150羽を用いました。鶏は次の5群に分けられました。通常の飼料の対照群、タンパク質を減らした低タンパク質群、そして低タンパク質飼料にNCGを0.06%、0.12%、0.18%加えた3群です。飼育期間は予備飼育の1週間を含めて7週間でした。
研究チームは、飼料の摂取量、産卵率、卵の重さ、飼料効率を記録しました。卵質としては、卵殻の厚さと強度、卵白の高さ、ハウユニットを測りました。ハウユニットは卵白の高さと卵の重さから求める指標で、卵白の質を表します。血液の成分も分析しました。
さらに、対照群、低タンパク質群、0.06% NCG群について、卵管の中で卵白タンパク質を分泌する部分を顕微鏡で観察しました。同じ部位では、RNAシーケンスという方法で、どの遺伝子がどの程度働いているかを網羅的に比べています。0.06% NCG群を詳しい解析の対象に選んだのは、成績や卵質、血液の結果が最も良好だったためです。
0.06%のNCGで卵重と卵白の指標が向上
論文によると、低タンパク質群と0.12%・0.18% NCG群では、対照群と比べて飼料摂取量、飼料効率、産卵率に統計的に意味のある差はみられませんでした。一方、0.06%と0.18%のNCGを加えた群では、低タンパク質群より卵が有意に重くなりました。
卵白の高さとハウユニットは、0.06% NCG群でほかの群より有意に高くなりました。卵殻の強度は0.06%と0.18%のNCG群で低タンパク質群より高い値でしたが、統計的に意味のある差ではありませんでした。
血液では、0.06%と0.18%のNCG群で、低タンパク質群に比べてアルブミン(血中の主要なタンパク質)と一酸化窒素の濃度が有意に高くなりました。顕微鏡観察では、0.06% NCG群の細胞の形が対照群に近く、分泌腺の内腔には卵白タンパク質が豊富にみられたと報告されています。ただし、著者らはこの観察が数値による計測ではない点を限界として挙げています。
遺伝子の働きを比べると、働きが大きく変わった遺伝子は、対照群と低タンパク質群の間で547個、対照群と0.06% NCG群の間で581個でした。低タンパク質群と0.06% NCG群の間では28個でした。これらの遺伝子は、細胞内でタンパク質を加工・輸送する経路や、細胞の増殖や成長に関わるPI3K-AKT経路、MAPK経路などに多く関係していました。一部の遺伝子は別の方法(定量PCR)でも測定され、多くがRNAシーケンスと同様の傾向を示しました。
研究が示す意味
著者らは結果を次のように解釈しています。低タンパク質飼料ではタンパク質の合成や分泌に関わるPI3K/AKT/mTOR経路が抑えられ、NCGを加えるとSOCS3やAPOLD1などの遺伝子を通じてこの経路が働き、卵管での卵白タンパク質の産生が調整される可能性がある、というものです。ただし、この仕組みの詳細はまだ解明されていないと著者ら自身が述べています。
この研究は、タンパク質を減らした飼料でも、少量のNCGを加えることで卵の重さや卵白の質が改善しうることを、採卵鶏で示しました。あわせて、その背景として卵白を作る卵管の遺伝子の働きの変化を示した報告です。
原著論文の著者・所属:Mi Wang(Collaborative Innovation Center for Prevention and Control of Zoonoses, Jinzhou Medical University; College of Animal Husbandry and Veterinary Medicine, Jinzhou Medical University)、Qiulin Liu(College of Animal Husbandry and Veterinary Medicine, Jinzhou Medical University)、Di Han(Liaoning Provincial Department of Agriculture and Rural Affairs, Liaoning Provincial Agricultural and Rural Development Service Center, Shenyang, China)、Jiabo Li(College of Animal Husbandry and Veterinary Medicine, Jinzhou Medical University)、Xing Wang(College of Animal Husbandry and Veterinary Medicine, Jinzhou Medical University)、Wei Ma(Collaborative Innovation Center for Prevention and Control of Zoonoses, Jinzhou Medical University; College of Animal Husbandry and Veterinary Medicine, Jinzhou Medical University)、Chunqiang Wang(Collaborative Innovation Center for Prevention and Control of Zoonoses, Jinzhou Medical University; College of Animal Husbandry and Veterinary Medicine, Jinzhou Medical University)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Mi Wang, Qiulin Liu, Di Han, et al. N-carbamylglutamate (NCG) supplementation in low-protein diets improving egg quality by regulating protein metabolism pathway of oviduct in laying hens. Frontiers in Cell and Developmental Biology 2026-09-03. DOI: 10.3389/fcell.2026.1897620. 原著ライセンス:CC BY.