この研究は、ギリシャの研究機関の研究論文です。
掲載誌:Foods
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
なぜチーズの塩が問題になるのか
チーズづくりに使われる食塩(塩化ナトリウム、NaCl)は、単に塩味をつけるための材料ではありません。論文によれば、食塩は風味づけのほか、微生物のコントロール、水分の調整、組織(テクスチャー)の形成、製品の安全性、そして日持ちのよさといった複数の役割を同時に担っています。
一方で、食事から取るナトリウムが多すぎることと、血圧の上昇や心血管疾患との関連が指摘されてきました。著者らは、こうした背景からナトリウムを減らした食品への需要が高まっていると述べています。
ただしチーズの場合、配合を変えるのは簡単ではありません。論文は、食塩を減らすと水分活性(微生物が利用できる水の状態を表す指標)、微生物の生態、酸の生成、タンパク質の分解、脂質の分解、組織、風味の形成、そして消費者の受け入れやすさが同時に変化してしまう点を難しさとして挙げています。
この総説が検討した範囲
この論文は、新たな実験を行った報告ではなく、これまでの科学的な知見を批判的に評価した総説(レビュー)です。著者らが掲げた目的は、チーズにおけるナトリウム低減の各手法について、どこまで根拠が積み上がっているのかを見きわめることです。
検討の対象として挙げられているのは、食塩そのものを単純に減らす方法、一部を別のミネラル塩に置き換える方法、風味を補って物足りなさを感じさせにくくする方法、塩の加え方や加工工程を変える技術、そして保存性を補う別の手立てです。
さらに論文は、これらの手法が微生物の入れ替わり(微生物の遷移)、熟成中の化学変化、生地の流動や変形のしかた、安全性、日持ち、消費者の受容にどのような仕組みで影響するのかにとくに注目したとしています。工場での実施を妨げる課題として、工程の再現性、規制への適合、繰り返し使う塩水(ブライン)へのミネラルの蓄積、原料コスト、環境面の配慮も評価の対象に含まれています。
報告された結論と、その意味
著者らが現時点の根拠から導いた結論は、どのチーズにも一律に通用する単独の方法は存在しない、というものです。安全で受け入れられるナトリウム低減を実現するには、塩の置き換え、工程の管理、微生物の管理、風味・食感の調整を、チーズの種類ごとに組み合わせる必要があると述べられています。
この整理が示しているのは、チーズの減塩が「塩を少し減らす」という一点の調整では済まないということです。食塩が担ってきた複数の役目を、それぞれ別の手立てで引き受け直す作業になる、という見方が論文から伝わってきます。
著者:Charikleia Tsanasidou(Department of Agricultural Development, Agri-Food and Natural Resources Management, School of Agricultural Development, Nutrition & Sustainability, National and Kapodistrian University of Athens, Evripos Campus, 34400 Athens, Greece)、Loulouda A. Bosnea(Dairy Research Department, Hellenic Agricultural Organization-DIMITRA, Katsikas, 45221 Ioannina, Greece)、Antonia Terpou(Department of Agricultural Development, Agri-Food and Natural Resources Management, School of Agricultural Development, Nutrition & Sustainability, National and Kapodistrian University of Athens, Evripos Campus, 34400 Athens, Greece)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Charikleia Tsanasidou, Loulouda A. Bosnea, Antonia Terpou. Rethinking Salt in Cheese: Advances, Challenges, and Strategies for Sodium Reduction. Foods 2026-09-23. DOI: 10.3390/foods15193395. 原著ライセンス:CC BY.