著者の所属・活動拠点の国は、スペイン、トルコです。

掲載誌:Food Chemistry

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的:抽出後の残りかすに眠る成分

レモンなどのかんきつ類を加工すると、皮や搾りかすといった副産物が大量に出ます。こうした副産物にはポリフェノールと呼ばれる成分が含まれていますが、その一部は「非抽出性フェノール類」と呼ばれ、通常の抽出を行っても、比較的新しい抽出技術を用いても、残りかすの中に閉じ込められたままになります。この中には、かんきつ類に多いフラボノイドの一種で、抗酸化作用や神経を保護する可能性が知られているヘスペリジンのような価値の高い成分も含まれます。

研究チームは、こうした取り出しにくい成分を持続可能な方法で回収することが、かんきつ副産物を余すところなく活用する鍵になると考えました。そこで、レモン副産物からまず取り出しやすい成分を回収し、続いて残りかすから取り出しにくいヘスペリジンを、環境負荷の小さい溶媒で回収する手順の最適化に取り組みました。

二段階で成分を回収する方法

第一段階では、水と有機溶媒の混合液に高い圧力をかけて抽出する「加圧液体抽出」という方法で、取り出しやすいフェノール類を回収しました。抽出時間、温度、溶媒の配合といった条件の最適な組み合わせを効率よく探すために、「ボックス・ベーンケン計画」と呼ばれる実験計画法を用いています。著者らは、レモン副産物のこの種の抽出にこの手法を適用したのは今回が初めてだと述べています。

第二段階では、第一段階の後に残ったかすから、取り出しにくいヘスペリジンの回収を試みました。ここでは、物質同士がどれだけ溶け合いやすいかを数値で見積もる「ハンセン溶解度パラメーター」を手がかりに、環境に配慮した溶媒を選びました。さらに、複数の溶媒を混ぜる割合を最適化する「混合計画」という実験計画法で、配合比を決めています。

得られた抽出物に含まれる成分は、液体クロマトグラフィーと質量分析を組み合わせた分析で調べました。あわせて、コンピューター上で化合物が体内でどのように吸収されるかを予測し、酵素とどのように結合しうるかを「分子ドッキング」というシミュレーションで評価しました。

主な結果

論文によると、第一段階の最適条件は、抽出時間11.9分、温度100℃、エタノールと水を40対60の体積比で混ぜた溶媒でした。この条件で、取り出しやすいフェノール類の収量と生理活性が最も高くなったと報告されています。

第二段階では、ベンジルアルコールと1,3-ブタンジオールを67.6対32.4の体積比で混ぜた溶媒を用いた加圧液体抽出により、残りかすの非抽出性フェノール類を効率よく回収でき、取り出しにくいヘスペリジンの含有量が高まったとされています。

成分分析では、抽出物の主成分がヘスペリジンであることが確認されました。また、別の成分であるメチルナリンゲニンルチノシドについては、コンピューターによる予測で、体内に吸収されて利用されやすく、脳を守る関門である血液脳関門を通過しうるという結果が示されました。分子ドッキングでは、これらの成分が、神経の情報伝達物質を分解する酵素であるコリンエステラーゼの働きを強く妨げる可能性が示されたと報告されています。

研究が示すこと

この研究は、一度抽出を終えたレモンの残りかすにも有用な成分が残っており、溶媒の選び方と配合を工夫すれば、それを環境に配慮した方法で回収できることを示しています。著者らは、得られた成分が神経保護に役立つ候補として意義を持つと考えています。ただし、コリンエステラーゼへの作用や体内での吸収、脳への移行は、抄録の範囲ではコンピューター上の予測や解析に基づくものとして報告されています。

原著論文の著者・所属:Gloria Domínguez-Rodríguez(Laboratory of Foodomics, Institute of Food Science Research, CIAL, CSIC, Nicolás Cabrera 9, 28049 Madrid, Spain. Electronic address: [email protected])、Melis Cokdinleyen(Laboratory of Foodomics, Institute of Food Science Research, CIAL, CSIC, Nicolás Cabrera 9, 28049 Madrid, Spain; Faculty of Sciences, Department of Chemistry, Selçuk University, Arciçh, Ismetpasa Cad, Selçuklu, Konya 42250, Turkey)、Luana Cristina Dos Santos(Laboratory of Foodomics, Institute of Food Science Research, CIAL, CSIC, Nicolás Cabrera 9, 28049 Madrid, Spain)、Alejandro Cifuentes(Laboratory of Foodomics, Institute of Food Science Research, CIAL, CSIC, Nicolás Cabrera 9, 28049 Madrid, Spain)、Elena Ibáñez(Laboratory of Foodomics, Institute of Food Science Research, CIAL, CSIC, Nicolás Cabrera 9, 28049 Madrid, Spain)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Gloria Domínguez-Rodríguez, Melis Cokdinleyen, Luana Cristina Dos Santos, et al. Hansen-guided green recovery of non-extractable hesperidin from lemon by-products with antioxidant and cholinesterase inhibitory potential. Food Chemistry 2026-09-26. DOI: 10.1016/j.foodchem.2026.151330. 原著ライセンス:CC BY.