この研究は、イタリアの研究機関の研究論文です。

掲載誌:Journal of Stored Products Research

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

オレンジやレモンなどのかんきつ類は、収穫したあとに貯蔵・輸送される間にカビによる腐敗が起こりやすい果物です。なかでもPenicillium digitatum(ペニシリウム・ディジタツム)というカビが引き起こす「緑かび病(グリーンモールド)」は、著者らによれば収穫後のかんきつでもっとも被害の大きい病気とされています。このカビは果皮の傷から入り込み、傷のまわりが水っぽく軟らかく腐ったあと、白いカビが広がり、やがて粉状の胞子を大量につくります。胞子は空気中を漂って周囲の果実へ広がるため、選果場や貯蔵中に被害が連鎖しやすいと説明されています。

この病気は従来、合成殺菌剤(代表的なものがイマザリル)で管理されてきました。しかし論文は、残留基準の厳格化、環境への配慮、消費者の意識、さらに殺菌剤が効きにくくなったカビの集団が報告されていることなどを背景に、代替手段が探されてきたと述べています。とくに有機栽培では使える薬剤の選択肢がいっそう限られます。

研究チームが注目したのは、レモンの皮を原料とした培地を乳酸菌Lactiplantibacillus plantarum(ラクチプランチバチルス・プランタルム)の一種で発酵させ、菌体を取り除いた液(論文ではLM+LABと表記)です。これは生きた微生物を含まない「無細胞・非生存」の製剤で、発酵中につくられた成分そのものが働くタイプのものです。先行研究ではこの種の製剤に予防的な効果があることが示されていましたが、感染が起きたあとに使っても効くのかどうかは分かっていませんでした。本研究は、その点を確かめることを目的としています。

何を、どのように調べたか

実験にはシチリア島東部の有機園で収穫されたスイートオレンジ(品種タロッコ)が使われました。比較された処理は、乳酸菌発酵レモン製剤(LM+LAB)のほか、基準となる合成殺菌剤イマザリル、生きた酵母を使う生物的防除剤Candida oleophila(カンジダ・オレオフィラ)strain O、リン酸カリウム系の製剤、亜リン酸、そして無処理の対照(滅菌水)の六つです。処理はいずれも、果実を該当する液に2分間浸したうえで表面が乾くまで自然乾燥させる方法で行われました。

この研究の要は、処理と感染の前後関係が逆になる二通りの試験を組んだことにあります。一方は「処理を先に行う試験」で、果実をまず処理液に浸して乾かし、そのうえでP. digitatumを接種しました。予防として使う場面を想定したものです。もう一方は「処理をあとに行う試験」で、先にP. digitatumを接種し、20℃で4時間おいてから処理液に浸しています。カビがすでに入り込んだあとに使う場面を想定したもので、この条件でも効果が残るかどうかが本研究の中心的な問いでした。

接種の手順は両試験に共通で、表面を消毒した果実の赤道部にあたる部分に深さ2ミリの傷を一つつけ、そこにP. digitatumの胞子液を20マイクロリットル滴下する方法がとられました。つまり同じ接種方法を用いながら、それを処理の前に行うか後に行うかだけを変えて比較した設計です。

処理と接種を終えた果実は、冷蔵貯蔵を想定して6℃で7日間保管し、その後は店頭での販売期間を想定して18℃に移し、接種から14日後まで観察されました。評価したのは、発病した果実の割合(発病率)を7日目・10日目・14日目に測ること、14日目に感染果の表面から胞子を回収して数え、無処理と比べてどれだけ減ったか(胞子形成の抑制率)を求めること、そして接種していない果実を使って、重量減少・果実の硬さ・果汁の糖度・pH・酸度といった品質に影響が出ないかを調べることです。各処理・各タイミングについて30個ずつ3グループ、計90個の果実が使われ、試験は独立に2回繰り返されました。

報告された主な結果

6℃で保管していた7日目の時点では、どの区でも緑かび病の症状は見られませんでした。症状は18℃に移してから現れ、10日目から14日目にかけて多くの区で発病が増えています。

無処理の果実では、14日目の発病率が、処理を先に行う試験で約78%、処理をあとに行う試験で約79%に達しました。これに対し、乳酸菌発酵レモン製剤を接種の前に使った場合、14日目の発病率は78%から38%へ下がりました。接種の4時間後に使った場合は、79%から15%へと下がっています。胞子の形成量も抑えられ、抑制率はそれぞれ約43%と約64%でした。

全体としてもっとも高い防除効果を示したのはイマザリルでした。ただし論文は、乳酸菌発酵レモン製剤が合成殺菌剤以外の処理のなかでは一貫して効果の高い部類に入ったと報告しています。接種のあとに使った場合、この製剤の発病率の低減はイマザリルや酵母のCandida oleophilaと統計的に差がなく、胞子形成の抑制については酵母よりも強く働きました。ここで論文は、発病率と胞子形成が別々の側面を表す指標だと説明しています。発病率は目に見える腐敗を防げたかを、胞子形成の抑制はカビの繁殖と次の感染源となる胞子の量を抑えられたかを示すものだからです。

一方、リン酸カリウム系製剤と亜リン酸は部分的な効果にとどまり、14日目の発病率はいずれも無処理と統計的な差がありませんでした。

果実の品質については、14日間の貯蔵を通じて重量減少がどの区でもゆるやかに進み、硬さはわずかに低下しましたが、処理による違いは検出されませんでした。糖度、果汁のpH、酸度についても、各時点で処理間に有意な差はなく、果皮の傷みや処理剤の付着も目視では確認されませんでした。

この研究が示すこと

この研究は、レモンの皮という加工副産物を乳酸菌の発酵によって活用した製剤が、かんきつの緑かび病に対して一定の効果をもつことを、確立された化学的・生物的な比較対象と並べて示したものです。とくに意味があるのは、処理を先に行う場面だけでなく、カビの侵入が始まったあとに処理した場面でも効果が保たれた点だと著者らは述べています。

この製剤が生きた微生物を含まない点も、論文が指摘する特徴です。発酵の過程ですでにつくられた成分が働くため、効果は処理後すぐに現れ、微生物が果皮の傷の上で増えて定着できるかどうかに左右されにくいと説明されています。先行研究では、乳酸や酢酸、フェニル乳酸などの酸性成分が発酵液から見つかっており、こうした複数の成分が組み合わさって働いている可能性が示唆されています。

著者らは、この結果からLM+LABがかんきつ緑かび病の管理にとって有望な天然由来の資材であると結論づけています。

著者:Federico La Spada、Mario Riolo(Department of Agriculture, Food and Environment (Di3A), University of Catania, Catania, 95123, Italy)、Alessandra Benigno(Department of Agricultural, Food, Environmental and Forestry Science and Technology (DAGRI), Plant Pathology and Entomology Section, University of Florence, Florence, Italy)、Salvatore Moricca(Department of Agricultural, Food, Environmental and Forestry Science and Technology (DAGRI), Plant Pathology and Entomology Section, University of Florence, Florence, Italy)、Antonella Pane(Department of Agriculture, Food and Environment (Di3A), University of Catania, Catania, 95123, Italy)、So Cacciola(Department of Agriculture, Food and Environment (Di3A), University of Catania, Catania, 95123, Italy)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Federico La Spada, Mario Riolo, Alessandra Benigno, et al. Postharvest control of citrus green mold caused by Penicillium digitatum using a LAB-activated lemon-peel-derived formulation. Journal of Stored Products Research 2026-09-09. DOI: 10.1016/j.jspr.2026.103241. 原著ライセンス:CC BY.