この研究は、ブラジルの研究機関の研究論文です。
掲載誌:Scientia Plena
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の狙い
ブラジルを代表するカクテル「カイピリーニャ」は、本来レモン果汁と砂糖、氷、カシャッサ(またはウォッカ)で作られる飲み物です。手軽さを求める需要に応えて粉末ミックスも市販されていますが、著者らによれば、こうした製品には香料や酸味料、安定剤、固結防止剤、酸化防止剤、着色料といった多くの添加物が使われるのが一般的だといいます。
この研究チームが取り組んだのは、そうした添加物に頼らずに粉末の素材を作る方法です。着目したのが「共結晶化」と呼ばれる技術で、過飽和状態にしたショ糖(砂糖)の液に対象の成分を加え、結晶が形成される過程でその成分を砂糖の構造の中に取り込む手法です。論文では、砂糖はもともとカイピリーニャに欠かせない材料であるため、飲料本来の配合にない別の担体(成分を包む材料)を追加せずに済む点が利点として説明されています。研究の目的は、ショ糖シロップを用いた共結晶化レモン果汁粉末を作って性質を調べ、カイピリーニャ風飲料の材料として使えるかどうかを評価することでした。
どのように作り、何を調べたか
著者らはタヒチレモンを洗浄・殺菌して果汁を搾り、70℃の加熱板で目標の可溶性固形分(糖度の目安となる指標で、単位は°Brix)まで濃縮しました。条件として設定したのは、果汁の濃度2水準(20°Brixと40°Brix)と、シロップ重量に対する果汁の添加量2水準(7%と10%)の組み合わせです。70°Brixに調製した砂糖シロップを128℃前後の過飽和点まで加熱し、わずかに白濁したところで濃縮果汁を一気に加えて撹拌、その後冷水浴で急冷して結晶化させ、得られた結晶の塊を50℃で乾燥させて粉砕しました。搾った後の果皮も乾燥・粉砕して保管し、後の飲料試作に使っています。
得られた粉末については、収率、共結晶化にかかった時間、水分含量、水分活性(微生物が利用できる水の量を示す指標)、溶解時間、吸湿性、色、安息角(粉が自然に積もったときの斜面の角度で、流動性の目安)、かさ密度を測定しました。さらに走査型電子顕微鏡(SEM)で表面の形、赤外分光(FTIR)で含まれる官能基、X線回折(XRD)で結晶構造、示差走査熱量測定(DSC)で熱に対する挙動を、市販ショ糖と比べながら調べています。
最後に官能評価が行われました。マリンガ州立大学の倫理委員会の承認を得たうえで、カイピリーニャを日常的に飲む18〜25歳の未訓練の評価者100名が参加し、ウォッカと水を半々に混ぜたベースに粉末を加えた3種類の飲料——市販の粉末ミックス、40°Brix・果汁7%の共結晶化粉末、同40°Brix・果汁10%の粉末——を、9段階の嗜好尺度で評価しました。共結晶化粉末を使う試料には乾燥レモン果皮1.5gも加えられています。
報告された主な結果
果汁の濃度と添加量は、収率、処理時間、製品の安定性に有意な影響を与えました(吸湿性については有意差なし)。収率が最も高かったのは40°Brix・果汁10%の条件で72.8%、他の条件の平均をおよそ10%上回りました。40°Brixで作った粉末の水分含量は20°Brixのものより約40%低く、水分活性も0.433〜0.449まで下がりました。論文では、水分活性が概ね0.6を下回ると多くの細菌の増殖が抑えられるとされることから、この点も40°Brixを適した条件と判断する根拠になったと説明されています。共結晶化時間が最も短かったのは40°Brix・果汁7%で、果汁を多く加えると希釈によって過飽和度が下がり、結晶化に時間がかかると著者らは述べています。
構造の分析では、SEMで市販ショ糖が規則的な結晶面を持つ一方、共結晶化物は表面が粗く不規則な凝集体になっていることが観察されました。FTIRでは果汁を加えた後にカルボニル基などに対応する新たな吸収帯が現れ、XRDではショ糖の主要なピーク位置が変わらず、新たなピークも出ませんでした。ただしピーク強度は低下しており、著者らはショ糖の全体的な結晶構造は保たれたまま結晶性の程度が下がったと解釈しています。DSCでは、ショ糖の熱分解に関わるとされる2つ目の吸熱ピークについて、果汁7%と10%の試料でそれぞれ212℃・221℃、エンタルピーは240.52 J/kg・259.41 J/kgとなり、共結晶化が果汁成分の熱的な安定性を高め、包み込むことで保護をもたらしたと報告されています。
官能評価では、2種類の共結晶化粉末を使った飲料の間に有意な差は認められませんでした(P > 0.05)。一方、市販品は香り、清涼感、苦味、風味、総合的な受容性のすべての項目で共結晶化試料より高い平均点を示しました(市販品の総合評価7.8に対し、7%が6.4、10%が6.7)。著者らはこの差について、市販品が人工香料を使っているためレモン風味がやや強く出ることによると説明しつつ、共結晶化試料の点数も満足できる水準だったとしています。
この研究が示すこと
この研究は、飲料にもともと含まれる砂糖そのものを包み込む素材として使い、レモン果汁を安定した粉末に変えられることを示しました。得られた粉末は水分活性が低く、素早く溶け、自由に流動する性質を備えており、粉末飲料の材料として扱いやすい特徴を持っていました。
官能評価の点数は市販品には届きませんでしたが、人工的な添加物を使わずに一定の受容性が得られたという結果から、著者らは共結晶化レモン果汁が、原材料表示をできるだけ簡素にしたい「クリーンラベル」の流れに沿った天然の粉末飲料の素材として有望だと結論づけています。
著者:Ana Clara Souza(Universidade Estadual de Maringá/Departamento de Engenharia de Alimentos)、Caroline Eli Pulzatto Meloni(Universidade Estadual de Maringá/Departamento de Engenharia de Alimentos)、Eloize Silva Alves(Universidade Estadual de Maringá/Programa de Pós-Graduação em Ciência de Alimentos)、Janaína Oliveira Gonçalves(Universidade da Costa/Departamento Civil e Ambiental)、Tito Roberto Sant’Anna Cadaval(Universidade Federal do Rio Grande/Escola de Química e Alimentos)、Guilherme Lorencini Schuina(Instituto Federal de Educação, Ciência e Tecnologia de Sergipe)、A. P. Q. LARROSA(Universidade Estadual de Maringá/Departamento de Engenharia de Alimentos)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Ana Clara Souza, Caroline Eli Pulzatto Meloni, Eloize Silva Alves, et al. Characterization and development of co-crystallized lemon juice powder for a caipirinha-type beverage. Scientia Plena 2026-09-18. DOI: 10.14808/sci.plena.2026.080203. 原著ライセンス:CC BY.