この研究は、イギリス、スイスの研究機関の研究論文です。
掲載誌:npj Biological Timing and Sleep
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
なぜ「実際の職場」で調べたのか
夜勤などの交代制勤務は、欧州連合の就業者の21%が従事しているとされ、スイスでも約60万人が交代制や恒常的な夜勤といった不規則な勤務時間で働いていると論文は紹介しています。夜間の光を浴び、遅い時間に食事をとり、睡眠時間が削られることで、体内時計が外の環境のリズムとずれる「概日リズムのずれ(サーカディアン・ミスアライメント)」が起こります。疫学研究では、夜勤が長く続くと肥満や2型糖尿病、高血圧、メタボリックシンドロームになりやすいことが報告されてきました。
これまで仕組みの解明を担ってきたのは、実験室で夜勤を模擬する厳密な管理下の研究でした。しかし著者らは、そうした環境では現実の夜勤にともなう光や気温の変化、実際の業務負担、心身の疲れ、食事や運動のばらつき、喫煙やカフェインといった要因を再現しきれないと指摘します。そこで研究チームは、ジュネーブ大学病院で行った観察研究「OPTI-SHIFT」において、ウェアラブル機器とスマートフォンアプリを使い、働いている当人の生活のなかで栄養と代謝への影響を測ることを目指しました。主な目的は、連続する日勤の期間と連続する夜勤の期間で、栄養摂取と血糖の動きがどう違うかを調べることです。
どのように調べたか
参加したのは夜勤で働く72人で、96%が医療従事者、82%が女性、年齢の中央値は31歳でした。同じ人について2つの時期を比べる設計で、3連続の夜勤の期間と、3連続の日勤の期間それぞれの前後に来院してもらいます。同じ人の中で比べるため、個人差による影響を避けやすいという利点があります。
測定には複数の道具を組み合わせました。食事はMyFoodRepoというスマートフォンの食事記録アプリで、写真やバーコード、文章とともに食べた時刻を記録します。血糖は皮下に装着する持続グルコースモニター(CGM)で15分ごとに測り、胸に着ける機器で身体活動量、心拍数、心拍変動(自律神経のうち副交感神経の働きを反映する指標)を24時間通して記録しました。あわせて体組成、血圧、血液検査(血糖、コルチゾールなど)、注意力を測る課題(SART)、睡眠や疲労、精神的な健康に関する自己申告の質問票も用いています。
報告された主な結果
食事について、研究チームは夜勤期間の1日あたりの摂取量が日勤期間よりやや少なかったと報告しています。カロリーは平均で164kcal少なく、たんぱく質は9.6g、脂質は8.9g少なくなっていました。一方、炭水化物の摂取量はほぼ変わらず、その結果としてエネルギーに占める炭水化物の割合が高くなっていました。食べる時刻も変化し、夜間の摂取が増えて昼食時の摂取が減っています。自己申告でも、夜勤中は食欲が落ち、食事の回数が減り、食事時刻が不規則になり、夕食が1日の主な食事になったと報告されました。食物繊維は夜勤中の方が少なく、どちらの期間も推奨される1日30gには届いていませんでした。
血糖については、24時間の平均血糖値は夜勤期間の方がやや低い(差は0.19mmol/L)一方で、血糖の振れ幅を示す指標は大きくなっていました。変動係数は1.45ポイント、血糖変動の平均振幅(MAGE)は0.21mmol/L高くなっています。時刻ごとに見ると、夜間の変動が夜勤期間で大きく、昼食を抜きがちなことと関連して早い午後の変動は小さくなっていました。さらに、食事の時刻記録と組み合わせた数理モデルによる解析では、下地となる血糖値の最も低い点が夜勤中は0.29mmol/L低く、24時間のリズムのピークが日勤の午後から夜勤の夜遅い時間へずれ、食後の血糖の上がり幅は平均0.23mmol/L大きいと報告されています。
両方の期間のデータをまとめた探索的な解析では、炭水化物の割合が高い人ほど血糖変動が大きく、たんぱく質の割合が高い人ほど変動が小さいという関連がみられました。夜通し食べていた人では変動がより大きくなっていました。ただし著者らは、これは仮説を生み出すための所見であり、因果関係を示すものではなく、今後の介入研究での確認が必要だと明記しています。
そのほか、夜勤明けの朝は心拍数(3.5拍/分低い)と血中コルチゾール(108nmol/L低い)が低く、これらは多重比較の補正後も残りました。朝の収縮期血圧の上昇は補正後には有意ではなくなっています。24時間の活動量と心拍数のリズムは夜勤で組み替わり、注意力の課題では夜勤後の正答率が下がり誤反応が増え、眠気の申告も高くなりました。睡眠の質の悪さや睡眠不足、休まらない感覚、意図より早い目覚めも夜勤中に多く報告されています。
著者らは限界も挙げています。夜勤と日勤の順番を無作為化できなかったこと、参加者が比較的若く健康でBMIも標準的なため他の集団への一般化には注意が必要なこと、月経周期を評価していないこと、血圧やコルチゾールを連続測定していないこと、夜勤明けの採血は多くが非空腹時だったこと、2つの測定時期が別の季節にまたがった可能性があることなどです。
この報告が示す意味
この研究は、実験室ではなく実際の病院の職場で同じ人を追い、夜勤中に食べる量と時刻が変わり、血糖の平均は下がるのに振れ幅は大きくなるという変化を、連続測定で描き出したものです。著者らは、たとえ糖尿病がなくても血糖変動の大きさは心血管の問題や2型糖尿病の危険因子とされてきた点に触れ、この所見の重要性を述べています。
結論として研究チームは、夜勤が心血管・代謝面と認知面の望ましくない結果と関連していること、栄養素の構成と食事の時刻を見直すことが助けになりうることを示し、それを確かめるための無作為化比較試験が必要だとしています。夜勤という働き方が、体の中で何をどの時刻に処理しているのかを変えている――その具体的な姿が、日々の暮らしのなかで測られたということです。
著者:Friedrich C. Jassil(Centre for Obesity Research, University College London, London, UK)、Nicholas Edward Phillips(Department of Cell Physiology and Metabolism, Faculty of Medicine, University of Geneva, Geneva, Switzerland)、Alexandra Hemmer(Service of Endocrinology, Diabetology, and Metabolism, Department of Medicine, Geneva University Hospitals, Geneva, Switzerland)、Céline Joris(Service of Endocrinology, Diabetology, and Metabolism, Department of Medicine, Geneva University Hospitals, Geneva, Switzerland)、Andrew D. Biancolin(Department of Cell Physiology and Metabolism, Faculty of Medicine, University of Geneva, Geneva, Switzerland)、Steffen Lutz Hartmeyer(Laboratory of Integrated Performance in Design (LIPID), School of Architecture, Civil and Environmental Engineering (ENAC), EPFL (École Polytechnique Fédérale de Lausanne), Lausanne, Switzerland)、Victor Dorribo(Department of Occupational and Environmental Health, Center for Primary Care and Public Health (Unisanté), University of Lausanne, Épalinges, Switzerland)、Stephen H. Perrig(Service of Neurology, Geneva University Hospitals, Geneva, Switzerland)、Laurence Genton(Clinical Nutrition Unit, Service of Gastro-enterology, Hepatology and Nutrition, Geneva University Hospitals, Geneva, Switzerland)、Virginie Sterpenich(Department of Neuroscience, Faculty of Medicine, University of Geneva, Geneva, Switzerland)、Marcel Salathé(Digital Epidemiology Lab, School of Life Science, School of Computer and Communication Sciences, EPFL (École Polytechnique Fédérale de Lausanne), Lausanne, Switzerland)、Jacques André Pralong(Faculty of Medicine, University of Geneva, Geneva, Switzerland)、Marilyne Andersen(Laboratory of Integrated Performance in Design (LIPID), School of Architecture, Civil and Environmental Engineering (ENAC), EPFL (École Polytechnique Fédérale de Lausanne), Lausanne, Switzerland)、Claude Pichard(Clinical Nutrition Unit, Service of Gastro-enterology, Hepatology and Nutrition, Geneva University Hospitals, Geneva, Switzerland)、Charna Dibner(Department of Cell Physiology and Metabolism, Faculty of Medicine, University of Geneva, Geneva, Switzerland)、Tinh‐Hai Collet(Diabetes Centre, Faculty of Medicine, University of Geneva, Geneva, Switzerland)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Friedrich C. Jassil, Nicholas Edward Phillips, Alexandra Hemmer, et al. The nutritional and metabolic impact of night shift work in a real-world setting. npj Biological Timing and Sleep 2026-09-29. DOI: 10.1038/s44323-026-00107-y. 原著ライセンス:CC BY.