著者の所属・活動拠点の国は、ポーランドです。
掲載誌:Nutrients
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
新生児敗血症は、感染症が疑われるか確認された赤ちゃんの全身で強い炎症反応が起きる状態で、世界的に新生児の病気や死亡の主な原因となっています。生後72時間以内に起こる「早発型」と、それ以降に起こる「遅発型」があり、特に出生体重が1000グラム未満の超低出生体重児は、免疫が未熟なうえ人工呼吸や点滴などの医療処置を受けることが多いため、リスクが高いとされています。
ビタミンDは骨やカルシウムの代謝で知られる栄養素ですが、免疫の調節にも関わることが分かっています。細菌などに対する最初の防御を担う「抗菌ペプチド」の産生を高めたり、免疫細胞の働きに影響したりすることが報告されています。母親のビタミンDが不足すると赤ちゃんの蓄えも少なくなり、早産児は特に不足しやすいことも知られています。
ただし、ビタミンDの状態と新生児敗血症の関係を調べた研究の結果はまちまちで、測定方法や敗血症の定義も研究ごとに異なります。そこで著者らは、この分野で何が調べられ、何が分かっていて、何がまだ分かっていないのかを体系的に整理する「スコーピングレビュー」を行いました。スコーピングレビューは、個々の研究の結果を統合して効果の大きさを出すのではなく、研究全体の範囲や傾向、知識の空白を地図のように描き出すための手法です。
どのように調べたか
研究チームは、医学文献データベースのMEDLINE(PubMed経由)とEMBASEを用い、2025年10月までに発表された研究を検索しました。臨床試験の登録サイトも確認しています。対象は生後28日以内の早産児または正期産児を扱った研究で、2人の評価者がそれぞれ独立に文献を選び、意見が分かれた場合は話し合いや3人目の評価者への相談で決めました。
最終的に45件の研究が対象となりました。研究デザイン、母親や赤ちゃんのビタミンDの測り方と不足の基準、敗血症の定義、提案されている生物学的な仕組み、研究の流れや残された課題などを抜き出して整理しています。スコーピングレビューの性格上、個々の研究の質の正式な評価は行っていません。
主な結果
対象研究の大半は観察研究で、最も多かったのは病気の子とそうでない子を比べる症例対照研究(20件、44.4%)でした。ランダム化比較試験は2件にとどまりました。研究が行われた国はインドとトルコ(各9件)、エジプト(7件)などに偏っており、西ヨーロッパや北米からの報告は少数でした。研究数は2018年以降に大きく増えています。
多くの研究で、敗血症の新生児は健康な新生児に比べて、血中のビタミンD(25-ヒドロキシビタミンDという指標)の濃度が低いと報告されていました。母親と赤ちゃんのビタミンD濃度には一貫して正の相関がみられ、ビタミンDが低いことは、敗血症の重症度、敗血症性ショック、入院の長期化、死亡率の高さとも関連していたと報告されています。また早産児は正期産児よりビタミンD濃度が低い傾向があり、早産とビタミンD不足が感染しやすさに重なって影響する可能性を示唆する研究もありました。
一方で、ビタミンDと敗血症の間に有意な関連を見いだせなかった研究や、結論がはっきりしない研究もありました。ビタミンD不足の基準は研究によって1ミリリットルあたり10ナノグラム未満から30ナノグラム未満まで幅があり、細菌培養で確定した敗血症を扱った研究は6件のみで、多くは臨床的に疑われた例を対象としていました。
仕組みの面では、ビタミンDが抗菌ペプチドの産生を促すことや、炎症を引き起こす物質を抑える方向に働くことなどが提案されていました。ただし著者らは、これらの多くは間接的な血液の指標の分析に基づいており、免疫の働きを直接確かめた研究は不足していると指摘しています。
この研究が示すこと
著者らは、ビタミンD濃度の低さと新生児敗血症との間に関連がある可能性を示す報告が多い一方、根拠の大半が観察研究であるため、ビタミンD不足が敗血症の原因であるとは言えないと結論づけています。敗血症そのものがビタミンD濃度を下げる「逆の因果関係」や、早産や低出生体重といった別の要因が両方に関わっている可能性も否定できないとしています。
また、現時点の証拠では、敗血症を防ぐ目的でビタミンDの補充を日常的に行うことを支持するには不十分だと述べています。このレビューは、関連を示唆する報告が積み重なりつつある一方で、測定方法や定義の不統一、研究地域の偏り、ランダム化試験の少なさといった課題がこの分野に残っていることを明らかにしたものといえます。
原著論文の著者・所属:Dominika Paw(Medical University of Warsaw)、Renata Bokiniec(Medical University of Warsaw)、Krzysztof Włodarczyk(Medical University of Warsaw)、Alicja Kołodziejczyk-Nowotarska(Medical University of Warsaw)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Dominika Paw, Renata Bokiniec, Krzysztof Włodarczyk, et al. Vitamin D and Neonatal Sepsis: Current Evidence, Biological Mechanisms, and Future Directions—A Scoping Review. Nutrients 2026-08-03. DOI: 10.3390/nu18152517. 原著ライセンス:CC BY.