著者の所属・活動拠点の国は、ポーランドです。
掲載誌:Nutrients
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
乳がんの患者ではビタミンDが不足していることが多く、病気の経過や治療成績に影響する可能性が指摘されています。一方で、患者ごとのビタミンDの状態が何によって左右されるのかは十分に分かっていません。日光や食事、体格、年齢が関わることは一般の人で知られていますが、がん患者に特有の心理的な負担や睡眠、腫瘍の性質がどの程度関わるのかは、これまであまり同時に検討されてきませんでした。
ポーランドの研究チームは、乳がんの女性を対象に、血液中のビタミンDの指標である25-ヒドロキシビタミンD(25(OH)D)の濃度と関連する環境的・臨床的な要因を探りました。特に、食事の傾向、心理的苦痛、睡眠の問題、そして腫瘍の分子サブタイプに注目しています。分子サブタイプとは、ホルモン受容体やHER2というたんぱく質の有無、がん細胞の増殖の活発さなどによって乳がんをいくつかの型に分ける分類です。
何をどう調べたのか
研究は、ある一時点のデータを集めて分析する横断研究として行われました。2018〜2019年にポーランド・ルブリンのがんセンターで手術を終えた浸潤性乳がんの女性101人が参加し、手術後2〜8週間の受診時に朝の空腹時に採血して25(OH)D濃度を測定しました。
あわせて、体格指数(BMI)、閉経の有無、採血の季節、屋外での運動、睡眠の問題を調べました。食事は、野菜や果物、全粒穀物、魚などの健康的な食品をどれだけとるかを示す指標(pHDI-10)と、加工肉やファストフード、甘い飲み物などをどれだけとるかを示す指標(nHDI-14)で評価しました。心理的苦痛は、0(苦痛なし)から10(極度の苦痛)までの目盛りで本人が答える「苦痛の温度計」で測りました。これらの候補要因を統計モデルに入れ、ほかの要因の影響をそろえたうえでビタミンD濃度と独立して関連する要因を絞り込みました。
主な結果
参加者の56.4%は25(OH)D濃度が30 ng/mL未満で、ビタミンDが十分とはいえない状態でした。全体の中央値は26.0 ng/mLです。分子サブタイプ別では、中央値がHER2陽性型で39.0 ng/mL、ルミナルA型で30.0 ng/mLと高めだったのに対し、トリプルネガティブ型で20.0 ng/mL、ルミナルB型で24.0 ng/mLと低めでした。サブタイプ全体として差が統計的に認められた一方、個々の型どうしを比べると明確な差は確認されず、著者らはこの比較の検出力が十分でなかった可能性を指摘しています。
複数の要因を同時に考慮した分析では、選ばれた要因の組み合わせでビタミンD濃度のばらつきの約半分(49.9%)を説明できました。BMIが1高いごとに25(OH)D濃度は約0.7 ng/mL低く、睡眠の問題がある人ではない人より約6.3 ng/mL低い傾向でした。苦痛の温度計の点数が1点高いごとに約2.3 ng/mL低く、心理的苦痛との関連が最も強く表れました。健康的な食事の指標が高いほど濃度は高く、1点あたり約0.25 ng/mLとわずかな差でした。さらに、ルミナルB型はルミナルA型より約5.9 ng/mL低いという結果でした。トリプルネガティブ型も低い傾向がみられましたが、統計的に確かな差とはいえませんでした。年齢、閉経の有無、採血の季節などは最終的なモデルには残りませんでした。
結果が示すこと
著者らは、乳がん患者のビタミンDの状態は、体重、心の負担、睡眠、食事といった見直しうる生活面の要因と腫瘍の性質が複雑に絡み合って決まっていると考えています。そのうえで、ビタミンDの状態の確認や生活面への支援を日常のがん診療に取り入れることを提案しています。
ただし、著者ら自身が強調しているように、今回示されたのは関連であり、原因と結果を示したものではありません。ビタミンDの状態を大きく左右するサプリメントの使用や日光を浴びた量を直接調べたデータは分析に含められず、これらが今回の関連の一部を説明している可能性も残ります。今回の結果は、乳がん患者のビタミンD不足の背景には生活と病気の両面にわたる複数の要因が関わっていそうだという手がかりとして受け止めるのがよさそうです。
原著論文の著者・所属:Dorota Weber(Faculty of Health Sciences, WSEI University, 20-209 Lublin, Poland)、Robert Łuczyk(Faculty of Medical and Health Sciences, University of Siedlce, 08-110 Siedlce, Poland)、Anna Pacian(Department of Health Education, Faculty of Nursing Development, Medical University in Lublin, 20-059 Lublin, Poland)、Teresa Kulik(Faculty of Health Sciences, WSEI University, 20-209 Lublin, Poland)、Monika Baryła-Matejczuk(Institute of Psychology and Human Sciences, WSEI University, 20-209 Lublin, Poland)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Dorota Weber, Robert Łuczyk, Anna Pacian, et al. Environmental and Clinical Determinants of Vitamin D Status in Breast Cancer Patients: A Multivariable Analysis. Nutrients 2026-08-03. DOI: 10.3390/nu18152512. 原著ライセンス:CC BY.