著者の所属・活動拠点の国は、インドです。

掲載誌:Bioinformation

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

高齢者にとって転倒は大きな健康問題です。論文によると、65歳以上で地域に暮らす人の約3分の1が1年に1回以上転倒し、年齢が上がるほどその割合は高まります。転倒につながる要因の中でも、体のバランスの衰えや、筋肉と神経の連携の低下は、対策によって変えうる重要な要因とされています。

ビタミンDは骨の代謝に関わる栄養素として知られてきましたが、近年は筋肉の働きや姿勢の安定にも関わることが注目されています。一方で、ビタミンDの状態と、客観的に測定したバランス能力との関係は、まだ十分に分かっていないと著者らは述べています。そこで研究チームは、インドの高齢者を対象に、血液中のビタミンD濃度とバランス能力の関係を調べました。

何を調べたのか

研究は、ある一時点のデータを集めて比較する「横断研究」として行われました。対象は、高齢者向け外来に通い、地域で生活する65歳以上の90人です。補助具なしで歩けること、神経や筋肉、平衡感覚の病気がないこと、過去3か月にビタミンDのサプリメントを使っていないことなどが参加の条件でした。

参加者は、血液中の25-ヒドロキシビタミンD(体内のビタミンDの量を示す代表的な指標)の値によって、20 ng/mL未満の「欠乏」、20〜29 ng/mLの「不足」、30 ng/mL以上の「充足」の3グループに30人ずつ分けられました。年齢、性別、体格、糖尿病や高血圧の有無は、3グループでおおむね同程度でした。

バランス能力は、3種類の検査で評価されました。14項目の動作を観察して0〜56点で採点するバーグ・バランス・スケール(45点未満で転倒リスクが高いとされる)、椅子から立ち上がって3メートル歩き、向きを変えて戻って座るまでの時間を測るTUGテスト(12秒を超えると転倒リスクありとされる)、目を開けて片足で立っていられる時間を測る片脚立ちテストです。検査を担当した理学療法士には、参加者のビタミンD値を知らせない形で評価が行われました。

主な結果

3つの検査すべてで、ビタミンDの状態によるはっきりした違いが報告されました。バーグ・バランス・スケールの平均点は、充足グループが49.7点、不足グループが43.1点、欠乏グループが38.4点でした。転倒リスクありとされる45点未満の人の割合は、充足グループの6.7%に対し、欠乏グループでは73.3%に上りました。

TUGテストでも同様の傾向が見られ、平均時間は充足グループが9.6秒と最も短く、不足グループは12.4秒、欠乏グループは15.8秒でした。12秒を超えた人の割合は、充足グループ10.0%、不足グループ43.3%、欠乏グループ80.0%でした。片脚立ちの平均時間も、欠乏グループ6.2秒、不足グループ10.4秒、充足グループ16.9秒と、ビタミンDの状態がよいグループほど長くなっていました。

充足グループと比べた差は、欠乏グループだけでなく、境界的な値の不足グループでも統計的に意味のあるものと報告されています。さらに、参加者全体で見ると、血中ビタミンD濃度が高いほどバランス能力が良いという、強めの正の相関(相関係数0.61)が示されました。

研究が示すこと

この研究は、地域で暮らす高齢者において、血中ビタミンDが十分な人ほどバランス能力が高く、転倒リスクの目安に当てはまる人が少ないという関連を示しました。著者らは、適切なビタミンD状態を保つことがバランスの維持を支え、転倒予防の取り組みに役立つ可能性があると考えています。

ただし、これは一時点のデータを比べた研究であり、示されたのはビタミンD濃度とバランス能力の「関連」です。ビタミンDを増やせばバランスが改善するという因果関係を、この研究自体が確かめたわけではありません。高齢者の転倒を考えるうえで、ビタミンDの状態が注目すべき要素の一つであることを示した報告といえます。

原著論文の著者・所属:Manju Yadav(Department of Rog Nidan evam Vikriti Vigyan, Government Block AYUSH Hospital, Behror, Kotputali-Behror, Rajasthan, India)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Manju Yadav. Linking serum vitamin D and impaired balance among elderly Indian adults. Bioinformation 2026-07-31. DOI: 10.6026/973206300223924. 原著ライセンス:CC BY.