著者の所属・活動拠点の国は、中国です。

掲載誌:Journal of Analytical Science & Technology

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的:誤検出の少ない黄色ブドウ球菌の検出

黄色ブドウ球菌は、食中毒の主な原因菌のひとつです。この菌がつくる毒素を含む食品を食べると、数時間のうちに嘔吐や下痢、腹痛などの急性胃腸炎を起こすことがあります。食品の安全を守るには、この菌を素早く確実に見つける方法が欠かせません。

現在の標準的な検査は、菌を培養して数える方法です。結果は信頼できますが、手間と時間がかかります。遺伝子を増やして調べるPCR法は速く高感度ですが、専用の装置や熟練した人手が必要です。また、食品の成分が反応を妨げて、菌がいても見逃すことがあると研究チームは指摘しています。

抗体が標的に結びつく性質を利用する免疫測定法は、比較的簡単で特異性も高い方法です。ただし、よく使われるマウスやウサギの抗体(IgG)には弱点があります。一部のレンサ球菌がもつ「プロテインG」というたんぱく質にも結合してしまい、黄色ブドウ球菌がいないのに陽性と判定する恐れがあるのです。

そこで研究チームは、黄色ブドウ球菌の表面に多く存在する「プロテインA」に注目しました。ネコの抗体(ネコIgG)は、プロテインAには結合し、プロテインGにはほとんど結合しないとされています。著者らは、このネコIgGを菌を捕まえる役割に初めて用い、誤検出の少ない検出法をつくることを目指しました。

検出の仕組み:二種類の抗体で菌をはさむ

この方法では、直径1マイクロメートルの磁性ビーズ(磁石に引き寄せられる微小な粒)の表面にネコIgGを固定します。試料にこのビーズを加えると、黄色ブドウ球菌がプロテインAを介してビーズに捕まります。磁石を使えば、菌が付いたビーズだけを集め、余分なものを洗い流せます。

次に、ニワトリの抗体(IgY)で、やはりプロテインAを認識するものを加えます。この抗体には発色反応を起こす酵素が付いています。菌がビーズと抗体にサンドイッチ状にはさまれると、酵素の働きで液が色づきます。色の濃さを測れば、菌の量を見積もることができます。著者らによると、ニワトリIgYもプロテインGとは非特異的に反応しないとされます。つまり、二つの認識役の両方がプロテインGの影響を受けにくい組み合わせになっています。

研究チームはまず、ネコIgGがプロテインAに強く結合し、プロテインGにはほとんど反応しないことを確かめました。さらに、蛍光で光らせた黄色ブドウ球菌を顕微鏡で観察し、ビーズに菌が結合した複合体ができることも確認しています。そのうえで、ビーズの量や検出用抗体の濃度を調整し、測定条件を最適化しました。

主な結果:感度、速さ、見分ける力

緩衝液中で測定した場合、色の濃さは菌濃度1mLあたり6.3×10²から8.0×10⁴CFUの範囲で、菌の量とよく比例しました。CFUとは、増殖して集落をつくることのできる菌の数の目安です。検出できる最低濃度(検出限界)は1mLあたり5.3×10²CFUでした。試料の前処理から結果を得るまでの時間は90分以内です。

牛乳、水道水、リンゴジュースに菌を加えた試料でも測定が行われました。検出限界はそれぞれ1mLあたり5.3×10²、5.9×10²、6.0×10²CFUと報告されています。研究チームは、食品に含まれるたんぱく質や糖、有機酸などの影響を受けにくい結果だとしています。また、液の酸性度がpH6〜9の範囲では、安定して信号が得られました。

見分ける力(特異性)を調べるため、サルモネラ菌やリステリア菌、レンサ球菌、近縁の表皮ブドウ球菌など、黄色ブドウ球菌以外の菌も調べました。これらの菌は、黄色ブドウ球菌の約25倍の濃度でもほとんど信号を示しませんでした。黄色ブドウ球菌にこれらの菌を混ぜた試料でも、はっきりした信号が得られています。

さらに、プロテインGをもつ菌の代わりに、プロテインGを付けたビーズを用いた比較も行われました。ウサギ抗体を使う従来型の測定では明らかな偽陽性が出ました。一方、この方法では、プロテインGによる誤検出を避けられたと報告されています。

この研究が示すこと

著者らは、限界についても述べています。調べた黄色ブドウ球菌の株のうち、N315という株では信号が明らかに弱くなりました。研究チームは、この株では表面のプロテインAが少ないか、構造が異なる可能性を挙げています。また、プロテインAをもたない株では見逃しが起こりうること、プロテインAをもつ近縁菌のスタフィロコッカス・アルゲンテウスには反応しうることも指摘しています。

それでもこの研究は、抗体を選ぶことで、従来の免疫測定法が抱えていたプロテインGによる誤検出という弱点を回避できることを示しました。ネコとニワトリの抗体を組み合わせ、黄色ブドウ球菌を短時間で特異的に検出する仕組みを示した点に、この研究の意味があります。

原著論文の著者・所属:Shiyi Song(Henan Key Laboratory of the Prevention and Treatment of Gastrointestinal Cancer, Department of Gastroenterology, The First Affiliated Hospital of Henan Medical University, Xinxiang, 453100, PR China)、Xueni Sun(Henan Key Laboratory of the Prevention and Treatment of Gastrointestinal Cancer, Department of Gastroenterology, The First Affiliated Hospital of Henan Medical University, Xinxiang, 453100, PR China; School of Medical Technology, Henan Medical University, Xinxiang, 453003, PR China)、Peili Zhuang(Henan Key Laboratory of the Prevention and Treatment of Gastrointestinal Cancer, Department of Gastroenterology, The First Affiliated Hospital of Henan Medical University, Xinxiang, 453100, PR China)、Ruijiao Li(Henan Key Laboratory of the Prevention and Treatment of Gastrointestinal Cancer, Department of Gastroenterology, The First Affiliated Hospital of Henan Medical University, Xinxiang, 453100, PR China)、Zijin Zuo(School of Medical Technology, Henan Medical University, Xinxiang, 453003, PR China)、Canyu Liu(Henan Key Laboratory of the Prevention and Treatment of Gastrointestinal Cancer, Department of Gastroenterology, The First Affiliated Hospital of Henan Medical University, Xinxiang, 453100, PR China)、Yunwei Lou(Henan Key Laboratory of the Prevention and Treatment of Gastrointestinal Cancer, Department of Gastroenterology, The First Affiliated Hospital of Henan Medical University, Xinxiang, 453100, PR China; School of Medical Technology, Henan Medical University, Xinxiang, 453003, PR China)、Tingmin Chang(Henan Key Laboratory of the Prevention and Treatment of Gastrointestinal Cancer, Department of Gastroenterology, The First Affiliated Hospital of Henan Medical University, Xinxiang, 453100, PR China)、Yun Zhang(Henan Key Laboratory of the Prevention and Treatment of Gastrointestinal Cancer, Department of Gastroenterology, The First Affiliated Hospital of Henan Medical University, Xinxiang, 453100, PR China; School of Medical Technology, Henan Medical University, Xinxiang, 453003, PR China)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Shiyi Song, Xueni Sun, Peili Zhuang, et al. A novel sensing platform for detecting Staphylococcus aureus using feline IgG as a specific recognition element. Journal of Analytical Science & Technology 2026-10-12. DOI: 10.1186/s40543-026-00575-8. 原著ライセンス:CC BY.