この研究は、ザンビア、イギリスの研究機関の研究論文です。
掲載誌:World Nutrition
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的:離乳期の食事を地域の文脈から理解する
生後6か月から23か月までの時期は、母乳だけの栄養から、母乳に加えてほかの食べ物を与える「補完食」(いわゆる離乳食)へ移る大切な時期です。成長が速いため、エネルギーや鉄、亜鉛などの栄養素を十分に含む食事が必要になります。しかし、資源の限られた多くの地域では、食事に含まれる食品の種類の幅(食事の多様性)が十分でないことが課題とされています。論文の序論によると、ザンビアの全国調査では、6〜23か月児のうち、世界保健機関(WHO)などが定める「最低限受け入れ可能な食事」の基準を満たしていたのは12%にとどまっていました。
研究チームは、ザンビアのルサカ州ルフンサ郡にある、干ばつの起きやすいチニュニュ地区を対象に、6〜23か月児がどのような食事をとっているのか、そしてその食べ方を形づくっている社会的・文化的・経済的な要因は何かを、住民の語りから明らかにすることを目指しました。この地区については、幼い子どもの食事パターンに関する知見が限られていたといいます。
調べ方:写真と話し合い、聞き取りから見えるもの
調査は2018年4月30日から5月4日にかけて行われました。参加者は、2歳未満の子どもを持つ18〜49歳の母親24人、その義母7人、夫3人、地域のリーダー4人の計38人です。
母親たちは「フォトボイス」と呼ばれる方法に参加しました。これは、参加者自身が身近な課題を写真に撮り、その写真をもとに話し合うことで、自分たちの経験や考えを言葉にしてもらう手法です。母親と義母はそれぞれグループで話し合い、夫と地域のリーダーには個別に詳しい聞き取りが行われました。
集めた語りは、あらかじめ定めた枠組みに沿ってデータを整理・解釈する「フレームワーク分析」という方法で分析されました。研究チームは、WHOの乳幼児の食事に関する推奨や指標と照らし合わせながら、食事のパターンや与え方の特徴を整理しました。
主な結果:穀物のおかゆ中心の食事と、それを取り巻く事情
論文によると、子どもの食事はトウモロコシなどの穀物を使ったおかゆが中心で、落花生、砂糖、塩を加えて作られることが多く、塩と水だけで作る例もありました。おかゆは薄い状態で与えられることが多いと語られました。ザンビアの主食で、穀物の粉などを練って作る「シマ」に、野菜スープや肉のスープを添えて与えることも広く報告されました。たんぱく質源としては落花生が主に挙げられ、著者らは、落花生に頼ることが食事の多様性を狭めていた可能性があると述べています。
食べ物を与え始める時期にはばらつきがあり、生後3〜4か月で始めたという声がある一方、6か月を過ぎても子どもが食べ物を嫌がり、遅れる例も語られました。早い開始は若い未婚の母親に多いとされました。食事の回数は不規則だという報告が多くありました。肉や肝臓は手に入るときに与えられるものの、子どもに与えられるのはスープだけということも多く、一部の民族集団では肉や魚を世帯主のためにとっておく慣習があることも語られました。野菜は主に、家庭の食事用に調理した野菜から取った野菜スープとして、シマに添えて与えられていると報告されました。さらに、甘い飲み物、膨化させたシリアル、キャンディーなどの市販品も子どもに与えられていると報告され、市販食品への依存の高まりも望ましい補完食を妨げていると受け止められていました。子どもを丈夫にするために汚れた湯浴みの水を飲ませるといった、衛生面で問題のある習慣も語られました。
こうした食べ方の背景として、参加者たちは貧困、母親の重い家事・育児負担、そして家計の決定に関わる力の偏りを挙げました。土地や牛、お金は主に男性が管理し、女性は小家畜や自給用の作物を管理する一方で、家事や子どもの食事を含む世話の多くを担っていたと語られています。ただし、こうした役割分担は民族集団によって異なり、男女で家事や資源を分かち合う集団もあると報告されました。また、母親たちは推奨される食べさせ方をおおむね知っていると語っており、知識があっても実践が難しい状況がうかがえました。参加者からは、水の供給の改善、地域での健康教育、自分たちで食料を育てる取り組み、栄養クラブや共同の調理会といった改善案も出されました。
この研究が伝えること
著者らは、チニュニュの子どもたちの補完食は推奨される水準に届いておらず、それが個々の知識不足だけでなく、貧困、男性中心の資源管理、母親の負担、干ばつ、文化的な慣習などが絡み合った結果として形づくられているとみています。そのうえで、女性の意思決定の力を強めること、栄養と食品の安全に関する教育、落花生以外の豆類を含め、地元で手に入る手頃な食品で食事の幅を広げることなど、地域の事情に合わせた取り組みが補完食の改善につながりうると論じています。
なお、この研究は一つの農村地域の参加者による自己申告の語りに基づくもので、著者ら自身も、結果は他地域にそのまま当てはまるものではなく、因果関係を示すものではなく、地域の文脈を理解するための知見として受け止めるべきだとしています。数字だけでは見えにくい、子どもの食卓の背後にある家族や地域の事情を、当事者の言葉から描き出した点に、この研究の意義があるといえます。
著者:Priscilla Funduluka(Mukuba University, Kitwe, Zambia)、Mercy Mukuma(University of Zambia, Lusaka, Zambia)、Regina Murphy Keith(University of Westminster, London, United Kingdom)、Phoebe Albina Bwembya(University of Zambia, Lusaka, Zambia)、N. Mwila(University of Zambia, Lusaka, Zambia)、Twambo Hachibamba(University of Zambia, Lusaka, Zambia)、Chiza Kumwenda(University of Zambia, Lusaka, Zambia)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Priscilla Funduluka, Mercy Mukuma, Regina Murphy Keith, et al. Unveiling Dietary Patterns among children aged 6-23 months: A Framework Analysis for perspectives in Chinyunyu Community, Rufunsa District, Zambia. World Nutrition 2026-09-30. DOI: 10.26596/wn.202617349-59. 原著ライセンス:CC BY.