この研究は、中国の研究機関の研究論文です。

掲載誌:Microorganisms

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: Europe PMC

何を目的とした研究か

六堡茶は中国・広西の特産である「黒茶」の一種で、微生物による発酵を経てつくられます。論文によると、その品質は長期の保存(熟成)によって整えられていくため、どんな容器に入れて置くかが重要になります。ところが著者らは、現在使われている保存容器には課題が多いと指摘します。透明なガラス瓶は光を通すため茶の成分の酸化が進み、発酵が正常に進みにくい。プラスチック袋や缶、アルミ箔袋は密閉性が高すぎて、蒸れた酸味が出やすく、内部の環境を調整できない。段ボール箱や木箱、陶器の壺は通気性がよいものの、容器ごとに効果の差が大きいとされています。

研究チームが着目したのは、広西・欽州で高鉄分の赤い粘土などから1200℃以上の還元雰囲気で焼かれる泥興陶(Nixing Pottery、以下NP)です。中国の国家級無形文化遺産にあたる陶器で、論文は、微細な孔をもつ構造によって「通気するが水は漏らさない」性質を備えると説明しています。さらに、高温焼成の過程で生じる特定の結晶が自発分極という性質をもち、表面に電場が生じること、遠赤外線の放射率が高いこと、鉄やマンガンなどの価数が変わる金属イオンを含むことが、先行研究として挙げられています。ただし著者らは、泥興陶の物性や構造についての研究は進んでいる一方で、六堡茶の長期保存に使った場合に茶の成分や香りがどうなるかは体系的に調べられていない、と述べています。そこでこの研究は、泥興陶が六堡茶の保存にどう働くのかを確かめることを目的としています。

どのように調べたか

研究チームは、六堡茶の主産地である広西・梧州市蒼梧県の工場から2023年春摘みの茶を集め、産地の基準に沿って加工された同一ロットの茶葉を十分に混合して使いました。原料のばらつきや微生物の初期状態の差を取り除き、容器の違いだけを比べられるようにするためです。この茶葉を泥興陶の容器(NP)とガラス容器(GC)にそれぞれ4.50kgずつ入れ、口を清潔な布で覆って蓋を閉め、室温の乾いた部屋で24か月保存しました。比較対象にガラスを選んだ理由についても論文は説明しています。段ボール箱は業務用倉庫では主流ですが、通気性が安定せず、紙から溶け出す成分や紙自体がもつ微生物が実験の妨げになるため、安定した対照群にならないと判断したとのことです。

保存開始時(0か月)と6・12・18・24か月の5時点で茶を取り出し、水色(すいしょく)の色の数値、水に溶け出す成分(水浸出物)、遊離アミノ酸、茶ポリフェノール、カテキン、カフェイン、茶多糖といった不揮発性成分を国家標準などの方法で測定しました。香りの成分は、加熱した茶粉の上部空間の気体を繊維に吸着させ、ガスクロマトグラフ質量分析計で分離・検出する方法で調べています。なお論文は、香り成分については標準物質による定量を行っておらず、得られた値はピーク面積の相対割合であること、したがって異なる化合物同士を量で直接比べることはできず、同じ化合物を群や時点の間で比べる目的に限って使ったことを明記しています。茶に付着した微生物については、DNAを抽出して細菌とカビ・酵母の遺伝子領域を読み取り、種類の構成と多様性を解析しました。

容器そのものの性質も調べています。電子顕微鏡で断面の構造を、X線回折で結晶の状態を、赤外分光で有機物の残り具合を観察し、含まれる元素も分析しました。加えて、茶ではなく水を入れる実験も行いました。それぞれの容器に脱イオン水9Lを入れ、7日間まで時間を追って水を採り、菌の数(コロニー数)と、核磁気共鳴で測る水分子の集団(クラスター)の大きさの指標を比べています。

報告された主な結果

容器の構造について、論文は次のように報告しています。焼成前の粘土は不規則な大きな孔をもつ緩い構造でしたが、高温焼成後の泥興陶は粒子が密に整い、閉じた、あるいは半分閉じた微細な孔が形成されていました。断面には目立つ割れや空洞がなく、この構造が「通気するが水は漏らさない」性質をもたらしうると著者らは述べています。一方でガラスは孔のない構造で、気体のやりとりを妨げる可能性が示されました。X線回折では焼成後の泥興陶で結晶性が高まり、赤外分光では残留有機物が失われて安定した無機の骨格が形成されたことが示されています。

水を入れた実験では、7日後、ガラス容器の水面には浮遊するコロニーが見え、水は淡い緑色に濁りましたが、泥興陶の容器では浮遊コロニーは観察されませんでした。菌数は、泥興陶では1〜24時間の間0 CFU/mLのままでしたが、ガラスでは24時間後に40 CFU/mLまで増え、3日後には泥興陶82、ガラス455、7日後には泥興陶104、ガラス629 CFU/mLとなりました。水分子クラスターの大きさを反映する指標は、初期の120.866 Hzに対し、泥興陶に1〜24時間置いた水では47.371〜62.153 Hzで、ガラスより有意に小さい値でした。著者らはこれを、表面電場や自発分極、高い遠赤外放射率が水分子間の水素結合に作用した可能性と結びつけて論じています。

茶の保存については、24か月後、泥興陶の茶は濃い赤色で表面に目立つ白い異物はなかった一方、ガラスの茶の表面には淡い白色の層が付着しており、著者らは異常な菌のコロニーが生じた可能性を推測しています。容器内の温度は泥興陶がガラスより0.2〜0.6℃低い程度で有意差はありませんでしたが、相対湿度は泥興陶が57〜58%、ガラスが65〜67%と差がありました。水色は、泥興陶では明るさを示すL*値が全体として上昇し、24か月時点でガラスより明るく、赤みも強い値を示しました。

成分では、水浸出物、遊離アミノ酸、茶ポリフェノールはいずれの容器でも保存に伴って減りましたが、減少はガラス群でより大きく、泥興陶群では緩やかでした。茶多糖は保存に伴って増え、その傾向は泥興陶群で顕著でした。カテキンは泥興陶に置いた茶で有意に減少し、著者らはテアフラビンなどの誘導体を生じる酸化重合によるものと考えられると述べています。カフェインは保存期間を通じてわずかな変動にとどまり、条件によらず安定性が高い成分と位置づけられました。

香り成分は合計128種が同定され、アルコール類、アルデヒド類、ケトン類が主体でした。エステル類は保存初期(6か月)で泥興陶のほうが多く、その後は大きく減少し、代わりにアルコール類やアルデヒド類、ケトン類が増えていきました。注目されているのが1-オクテン-3-オールという成分です。泥興陶の茶では緩やかな増加でしたが、ガラスの24か月試料では22.32%という異常な急増が見られました。論文は、この成分が少量なら生臭さやかび臭さを抑えるが、多すぎると古びた腐敗臭につながるとし、ガラスでの急増は微生物や成分の過度な分解に起因する可能性を指摘しています。ケトン類では、イオノンの前駆体であり六堡茶の重要な香気成分とされる化合物が、24か月の泥興陶試料でケトン全体の59.53%を占め、ガラスより有意に高い値でした。主成分分析では泥興陶とガラスの試料が段階ごとに異なるまとまりを示し、ガラスの6・12・18か月は互いに重なる部分があって熟成の進み方が比較的遅いことが示唆されました。

この研究が示すこと

著者らは、この結果が単一の製造元・単一の収穫期・均一化した一つのロットの茶を用いた実験に基づくものであることを明示しています。原料のばらつきを排して容器の比較精度を高めた設計ですが、その分、得られた知見は特定のロットと条件に固有のものであり、他の黒茶や市販の六堡茶全般にそのまま広げることはできないと述べています。また微生物と成分の相関解析についても、多重検定の補正を行っていないため、結果は記述的・探索的なものとして慎重に読むべきだとしています。

そうした前提のうえで、この研究が示したのは、保存容器が「入れておく箱」以上の役割を果たしうるということです。通気しながら水を通さない微細な孔の構造、保たれた湿度、そして測定された菌数や水分子クラスターの違いを通じて、泥興陶の内側では成分の減り方も香りの変わり方もガラスとは別の道筋をたどりました。無形文化遺産として受け継がれてきた陶器の性質を、茶の保存という具体的な場面で測り直した報告であり、著者らは六堡茶の保存技術の参考になるとともに、天然の鉱物に由来する包装材料を考えるうえでの手がかりにもなりうると位置づけています。

著者:Mao J(Guangxi Key Laboratory of Advanced Microwave Manufacturing Technology, State Key Laboratory of Non-Food Biomass Energy, Guangxi Academy of Sciences, Nanning 530007, China.)、Wu Y(Guangxi Key Laboratory of Advanced Microwave Manufacturing Technology, State Key Laboratory of Non-Food Biomass Energy, Guangxi Academy of Sciences, Nanning 530007, China.)、Chen X(Guangxi Key Laboratory of Advanced Microwave Manufacturing Technology, State Key Laboratory of Non-Food Biomass Energy, Guangxi Academy of Sciences, Nanning 530007, China.)、Huang Z(Guangxi Key Laboratory of Advanced Microwave Manufacturing Technology, State Key Laboratory of Non-Food Biomass Energy, Guangxi Academy of Sciences, Nanning 530007, China.)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Mao J, Wu Y, Chen X, et al. Effects of Nixing Pottery Storage on Microbial Community Characteristics, Quality, and Volatile Components of Liupao Tea. Microorganisms 2026-09-14. DOI: 10.3390/microorganisms14092050. 原著ライセンス:CC BY.