中国茶の一種である茯茶(ふちゃ)は、冠突散囊菌(Eurotium cristatum)というカビの一種を使って発酵させることで独特の風味と色合いを持つお茶として知られています。この発酵は大きく分けて、茶葉を固体のまま発酵させる方法と、茶の抽出液を使って液体状態で発酵させる方法の2通りが存在します。同じ菌を使っていても、発酵の進め方が違えば、できあがるお茶の中身も変わってくるのではないか——この素朴だが検証されてこなかった疑問に取り組んだのが今回の研究です。

研究チームは、陝西省科学院陝西省微生物研究所(陝西省秦嶺生態安全重点実験室)と陝西省科学院陝西省農業生物研究所に所属する研究者らによって構成されています。

何と何を比べたのか

研究では、液体発酵によって作られた茶浸出液(LFt-D7)と、固体発酵によって作られた茯茶を水で抽出した液(SFt-D7)の2つを比較しました。さらに、発酵させていない滅菌済みの茶抽出液(SHt-D0)を基準(対照群)として加え、3つのグループで色や成分の違いを調べています。分析には液体クロマトグラフィー・タンデム質量分析(LC-MS/MS)という手法が使われ、非揮発性の代謝物(お茶の中に溶け込んでいるさまざまな化学成分)が幅広く調べられました。

色と成分にどのような違いが見られたか

まず見た目の色については、液体発酵で作られたLFt-D7が、対照群のSHt-D0や固体発酵のSFt-D7と比べて、より濃い赤褐色を呈していたと報告されています。色を数値化するCIELAB表色系(明るさや色味を数値で表す国際的な指標)で見ても、LFt-D7は他の2群との差が大きかったとされています。成分面では、茶の赤みや色に関わるとされるテアフラビンとテアブラウニンの含有量がLFt-D7で高く、一方でテアルビジンの含有量は低い結果だったと述べられています。

LC-MS/MSによる網羅的な解析では、統計的な基準(VIP値が1超かつp値が0.05未満)を満たした成分の候補(レベル2アノテーション)が、LFt-D7と対照群の比較で221個、SFt-D7と対照群の比較で180個、LFt-D7とSFt-D7の比較で203個見つかったとされ、3つのグループがそれぞれ異なる代謝物プロファイルを持つことが示されています。さらに絞り込んだ分析では、固体発酵で作られたSFt-D7は遊離アミノ酸の量がかなり少なかったと報告されています。対照的に、液体発酵のLFt-D7では遊離アミノ酸のプールがより大きく保たれ、定量されたフラボノイド総量も最も高く、その中でもフラバノール(フラボノイドの一種)の寄与が大きかったとされています。加えて、アルカロイドやフェノール酸に関連するとされる一部の成分についても、LFt-D7で相対的なシグナル強度が高かったと述べられています。また、こうした代謝物のまとまり(モジュール)と、色素の指標やCIELABの色パラメータ、遊離アミノ酸総量、フラボノイド総量との間に統計的な関連(Mantel解析による共変動)が見られたことも報告されています。

この研究をどう読むか

この研究は、液体発酵と固体発酵という2つの完成された調製ルートが、最終的にできあがるお茶の可溶性成分において異なる化学的プロファイルを生み出すことを示したものです。ただし、これは特定の実験条件のもとで得られた比較結果であり、色や成分の違いが茶の風味や、飲用した際の体への働きに直接どうつながるかについては、この要旨の範囲では言及されていません。健康への効果を示すものではなく、あくまで発酵方法の違いによる化学組成の比較データとして理解するのが妥当です。一つの研究であり、結論が確定したわけではない点にも留意が必要です。

まとめ

同じ菌を使った発酵でも、液体で発酵させるか固体で発酵させるかによって、茯茶の色合いやアミノ酸・フラボノイドをはじめとする成分バランスが異なることが、詳細な化学分析によって明らかにされました。今後、こうした違いが茶の品質や特性の管理にどう活かされていくかは、さらなる研究の蓄積が待たれるところです。

※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Yan Wang, Lisha Zhen, Yan Li, et al. Preparation-Route-Associated Differences in Color and Non-Volatile Metabolite Profiles of Eurotium cristatum-Fermented Fu Tea. フーズ (2026). DOI: 10.3390/foods15152719. 原著ライセンス: cc-by.