この研究は、ベトナムの研究機関の研究論文です。

掲載誌:International Journal of Food Science & Technology

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

何を目的とした研究か

ハイビスカス・サブダリファ(ローゼル、ベトナム語で「ブップ・ザム」)の赤いがくには、アントシアニンと呼ばれる赤い色素成分が豊富に含まれています。この色素は抗酸化作用などの生理的な働きが報告されている一方、加工中や保存中に壊れやすいという性質があります。近年、加水分解コラーゲン(コラーゲンを分解して小さくしたペプチド。水に溶けやすい)がアントシアニンと結びついて分解を抑える可能性が報告されてきましたが、著者らによれば、それらの検証は単純化されたモデル系や限られた条件で行われたものが中心で、実際の飲料製造や長期保存の条件下で同じ効果が保たれるかは明らかではありませんでした。

そこで研究チームは、加水分解コラーゲンを加えたローゼル飲料を作り、コラーゲンの配合量、加熱殺菌(パスチャライゼーション)の条件、そして保存期間が、飲料の理化学的性質・微生物学的な安全性・色・機能性成分・抗酸化活性・官能評価(味や見た目の好ましさ)にどう影響するかを体系的に評価することを目的としたと述べています。

どのように調べたか

ベトナム・ドンタップ省の農場で購入した生のがくを洗浄し、60℃で4時間乾燥させたのち、熱湯で抽出して飲料のベースとしました。この抽出液に加水分解コラーゲンを0〜5%(重量体積比)の6段階で加え、ブドウ糖、ミント抽出物、クエン酸を合わせて配合した試作品を褐色ガラス瓶に充填しています。

評価項目は、pH、可溶性固形分(Brix値、溶けている糖などの量の目安)、粘度、色の数値(明るさ・赤み・黄みと、対照との色差ΔE)、総フェノール含量、総アントシアニン含量、DPPH法とABTS法による抗酸化活性、そして50名の学生パネリストによる9点評価の官能試験です。次に、選んだ配合について70・80・90℃で5〜15分の加熱殺菌条件を比較し、一般生菌数、大腸菌群と大腸菌、酵母・カビの数を調べました。さらに常温(30±2℃)で6か月間保存し、色・総フェノール・抗酸化活性を0・3・6か月時点で、アントシアニンは毎月測定して分解の進み方をモデル化しています。加えて、多数の指標の関係を整理するために相関分析と主成分分析を用いたと報告されています。

主な報告結果

コラーゲンの添加量が増えるにつれ、可溶性固形分は26.13から29.13 °Brixへ、pHは1.95から3.01へ、粘度は4.42 cPから4〜5%添加時の8.49〜8.63 cPへと上昇しました。色については明るさが増し、赤みと黄みは低下し、対照との色差は1%添加の5.09から5%添加の17.48へと段階的に大きくなっています。官能評価の総合受容性は6.58〜7.14の範囲で、3%コラーゲンが最も高い7.14を示しました。著者らは、これらの結果と多変量解析を踏まえ、機能性と見た目・食感・嗜好のバランスが最も取れた配合として3%を以降の試験に選んだと説明しています。

アントシアニン量はコラーゲン量に対して直線的には変化せず、非加熱の試料では1〜4%添加で対照より高い値を示した一方、5%では対照を下回りました。著者らは、中程度の添加量でみられた保持の改善はコラーゲンペプチドとアントシアニンの複合体形成に関する先行報告と整合するものの、本研究での効果は限定的であり、配合検討時に用いた強い加熱(95℃・15分)が保護効果を覆い隠した可能性があるとしています。なお総フェノール含量はコラーゲン添加とともに上昇しましたが、これはコラーゲン由来のペプチドなど還元性の物質が測定試薬と反応するためであり、フェノール化合物そのものの増加を必ずしも意味しないと注意が促されています。

加熱殺菌については、保持時間10分の条件で、一般生菌数が未殺菌の80 CFU/mLから70℃で43、80℃で34、90℃で3 CFU/mLへと有意に減少しました。酵母・カビは未殺菌試料でのみ検出され、いずれの加熱条件でも検出されなくなり、大腸菌群と大腸菌はどの試料からも検出されませんでした。この条件下での色や成分の変化は比較的小さく、アントシアニンは90℃処理後も対照の6.31に対し6.01 mg C3G/50 mLが保たれています。DPPH法の抗酸化活性はやや低下した一方、ABTS法の活性は統計的に変化せず、著者らは二つの測定法が飲料中の異なる抗酸化成分群を反映していると解釈しています。

6か月間の常温保存では、一般生菌数は3か月後に検出限界以下となってその後も検出されず、大腸菌・酵母・カビも検出されませんでした。沈殿や沈降物も生じず、物理的な均一性は保たれています。総フェノール含量とDPPH法の抗酸化活性は比較的安定していましたが、ABTS法の活性は3か月後に低下しました。これに対しアントシアニンは急速に減少し、一次反応の分解速度式に従って半減期は0.68か月と算出されました。色も明るさと赤みが低下し続け、6か月後の色差は11.88に達しています。

この研究が示すこと

著者らの報告によれば、加水分解コラーゲンを3%加えたローゼル飲料は、90℃・10分という比較的穏やかな加熱殺菌で微生物学的な安全性を確保でき、安定剤を加えなくても6か月の常温保存を通じて微生物面・物理面の安定性を保ちました。一方で、色素であるアントシアニンの分解は速く進み、これが長期的な品質を制限する主要な要因だったと結論づけられています。

つまり、コラーゲンの添加は飲料の粘度や抗酸化活性といった性質を確かに変えるものの、モデル系で期待されたほどには、実際の製造と保存の条件下でアントシアニンを守りきれなかった、というのがこの研究から読み取れる姿です。機能性飲料の設計において、安全性や物理的な安定性と、色素の保持とは別々に考えるべき課題であることを、この報告は具体的な数値とともに示しています。

著者:Mai Thi Tran(Institute of Green and Sustainable Technology, Thu Dau Mot University , 06 Tran Van On Street, Ho Chi Minh City, 70000 ,)、Chanh Minh Nguyen(Faculty of Applied Technology, Van Lang School of Technology, Van Lang University , 69/68 Dang Thuy Tram Street, Ho Chi Minh City, 70000 ,)、Hung Tan Huynh(Institute of Innovation in Pharmaceutical and Healthcare Food, Thu Dau Mot University , 06 Tran Van On Street, Ho Chi Minh City ,)、Lien-Thuong T Nguyen(Institute of Innovation in Pharmaceutical and Healthcare Food, Thu Dau Mot University , 06 Tran Van On Street, Ho Chi Minh City ,)、Tam Van Nguyen(Institute of Advanced Technology and Artificial Intelligence, Hung Vuong University of Ho Chi Minh City , 736 Nguyen Trai Street, Ho Chi Minh City, 70000 ,)、Dang Khoa Nguyen(Faculty of Applied Technology, Van Lang School of Technology, Van Lang University , 69/68 Dang Thuy Tram Street, Ho Chi Minh City, 70000 ,)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Mai Thi Tran, Chanh Minh Nguyen, Hung Tan Huynh, et al. Physicochemical Stability and Functional Quality of Hydrolyzed Collagen-Fortified Hibiscus sabdariffa Beverages: Effects of Collagen Concentration, Pasteurization, and Storage. International Journal of Food Science & Technology 2026-09-24. DOI: 10.1093/ijfood/vvag207. 原著ライセンス:CC BY.