著者の所属・活動拠点の国は、インドです。

掲載誌:Cureus

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的:医療者の栄養知識と食習慣を確かめる

インドでは働き方の変化や消費文化の広がりにより、食生活が大きく変わってきました。塩分や糖分の多い超加工食品が手に入りやすくなったことも、その一因とされています。こうした状況を受けて、インド国立栄養研究所(NIN)は2024年に「インド人のための食事ガイドライン」を公表しました。このガイドラインは、伝統的な食の知恵と現代科学を統合し、野菜の摂取を増やすこと、砂糖を減らすこと、加工されていない食品を中心にすることなどを重視しています。調理法や調理器具についての助言も含まれています。

医師や医学生は、地域の人々に栄養の知識を伝える立場にあり、生活習慣の手本としても見られます。ところが、医療従事者が栄養ガイドラインをどの程度理解しているかを調べた研究は少なく、2024年の改訂内容を反映したものはありませんでした。また、これまでの研究は医学生だけ、あるいは現役の医師だけを対象とすることが多く、両者を比べることはほとんどありませんでした。

そこで研究チームは、ウッタル・プラデーシュ州ピルクワにある私立のGSメディカルカレッジに関わる医療従事者を対象に、栄養の知識、新しいガイドラインへの理解、そして日々の食習慣や運動習慣を評価しました。

調査の方法:知識・理解・実践を点数化

調査は、ガイドライン公表からおよそ1年後の2025年5月から11月に、オンラインの自記式アンケートで行われました。ある一時点の状態を調べる「横断研究」と呼ばれる手法です。対象は医学生、研修医やレジデント(専門研修中の若手医師)、教員、診療医などで、研究チームはこれを、教育や研修の途中にある「研修中グループ」と、教員や診療医などの「定着グループ」に分けました。回答は234件集まり、属性情報が不完全な12件を除く222人分が分析されました。

質問はNINの2024年ガイドラインに沿って作られ、三つの点数で評価されました。一つ目は22問からなる「栄養知識スコア」、二つ目はそのうち2024年版で強調された内容に関する9問からなる「ガイドライン理解スコア」、三つ目は9項目の生活習慣がガイドラインに沿っているかを見る「健康的実践スコア」です。さらに、平均点を満点で割った「正答率」を算出して、分野ごとの達成度を比べました。

この大学では学部生が寮で生活するため、ふだんの食事を自宅の台所でとるか、寮の食堂でとるかによって違いがあるかも調べられました。回答者のうち約54%が自宅の食事、残りが寮の食堂の食事を主にとっていました。

主な結果:基礎知識は半分ほど、実践にもばらつき

栄養知識スコアの平均は22点満点中10.8点で、正答率は49.2%でした。回答者の55%が「平均的」の評価にとどまり、4分の3を超えて正解した「良好」は6人(2.7%)だけでした。個別の問いでは、ヒマワリ油がオメガ3系の多価不飽和脂肪酸の良い供給源ではないことを正しく答えた人は15.3%、切った野菜を調理前に念入りに洗うべきではないことを知っていた人は36.5%でした。

一方、2024年版ガイドラインの内容に関する理解は比較的高く、正答率は71.2%でした。ただし、健康な成人に推奨される野菜摂取量が1日400グラムであることを知っていたのは28.4%、食事と運動によって糖尿病のリスクを80%減らせるというガイドラインの記述を知っていたのは15.8%にとどまりました。知識とガイドライン理解のどちらでも、女性、30〜40代、教員のグループで平均点が有意に高かったと報告されています。

実践面では、健康的実践スコアの正答率は53.2%でした。発芽豆を週3回より多く食べている人は6.8%、ヨガを週3回より多く行っている人は16.2%、45分を超える早歩きや運動を週3回より多く行っている人は42.3%でした。

食事の場所による違いも見られました。自宅の台所で食事をとる人は、寮の食堂を利用する人に比べて栄養知識スコアと実践スコアが有意に高くなっていました。研修中か定着しているかと、食事の場所の両方を同時に考慮した分析では、立場による実践スコアの差は意味のあるものではなく、寮の食堂を利用していることが実践スコアの低さと関連していました。ただし、この二つの要因で説明できたのは実践スコアのばらつきの13.7%ほどでした。

結果が示すこと

著者らは、医療従事者であっても栄養知識は十分とはいえず、とくに研修中の若い世代で知識が実践に結びついていないと結論づけています。新しいガイドラインの内容は比較的よく知られている一方で基礎的な知識が不足していることから、著者らは、最新情報の伝達に偏り、栄養を総合的に学ぶ教育が不足している可能性を指摘しています。また、自宅の食事と比べて寮の食堂を利用する人の実践が劣っていたことから、施設の食環境の重要性にも目を向けています。

この研究は一つの医科大学で行われたもので、著者ら自身も結果を医療従事者全体へ一般化することはできないと述べています。それでも、栄養を人々に伝える立場にある医療者自身の知識と習慣にすき間があることを具体的な数字で示し、医学教育のなかで栄養をどう教えるか、学ぶ場の食環境をどう整えるかという課題を浮かび上がらせた点に、この研究の意味があります。

原著論文の著者・所属:Rajesh Sharma(Community Medicine, GS Medical College and Hospital, Pilkhuwa, IND)、Vaishali Gautam(Community Medicine, GS Medical College and Hospital, Pilkhuwa, IND)、Himanshu Agrawal(Pharmacology, GS Medical College and Hospital, Pilkhuwa, IND)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Rajesh Sharma, Vaishali Gautam, Himanshu Agrawal. A Study of Nutritional Knowledge, Awareness, and Food Habits Among Indian Medical Professionals in the Context of the National Institute of Nutrition Guidelines, 2024. Cureus 2026-08-24. DOI: 10.7759/cureus.115122. 原著ライセンス:CC BY.