この研究は、トルコの研究機関の研究論文です。
掲載誌:Journal of Clinical Medicine
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的:AMHの値は年齢以外の何と関係するのか
卵巣の中に残っている卵胞(卵子を包む小さな袋)の量は「卵巣予備能」と呼ばれ、女性の妊娠しやすさを考える際の重要な手がかりとされています。その目安として広く使われているのが、血液中の抗ミュラー管ホルモン(AMH)です。AMHは発育途中の小さな卵胞から分泌されるため、残っている卵胞が多いほど値が高くなる傾向があります。また、月経周期の中での変動が小さいことから、不妊治療の場面などで重視されています。
AMHの値を最も強く左右するのは年齢であることが知られています。一方で、ビタミンD、ビタミンB12、葉酸、鉄といった栄養素も、ホルモンの合成、DNAの合成、酸化ストレスの調整などを通じて卵巣の働きに影響するのではないかという考えがあります。たとえばビタミンDについては、AMHの遺伝子の働きを調節する部分にビタミンDが作用する配列があることが報告されています。しかし、実際の患者でこれらの栄養素とAMHの関係を調べた研究の結果は一致していません。
著者らによると、これまでの研究の多くは一つの指標だけを扱っていたり、不妊治療中の女性など限られた集団を対象にしていたりしました。そこで研究チームは、通常の診療でAMH検査を受けた生殖年齢の女性を対象に、ビタミンD、ビタミンB12、葉酸、フェリチン(体内の鉄の貯蔵量の目安)、血中脂質とAMHとの関係を同時に調べ、その強さを年齢とAMHの関係と比べることを目的としました。
何を調べたか:通常診療の検査記録を振り返って分析
研究チームは、大学病院の産婦人科で通常の診療の一環としてAMH検査を受けた女性の電子カルテを振り返って調べました。ある一時点の記録をもとに関係を見る「横断研究」です。対象は18〜45歳の女性に限りました。妊娠中の人、がんの既往がある人、急性感染症や炎症性の病気がある人、慢性の腎臓病・肝臓病や血液の病気がある人、データが欠けている人は除外しました。また、AMHが10 ng/mLを超える人も除外しています。最初に確認した300人のうち36人が除外され、264人が分析の対象となりました。
調べた項目は、年齢、AMH、ビタミンD(血中の25-ヒドロキシビタミンD)、ビタミンB12、葉酸、フェリチン、中性脂肪、総コレステロール、HDLコレステロール、LDLコレステロールです。鉄の状態については、全員分がそろっていたフェリチンを指標としました。研究のために新たに採血したわけではなく、すべて病院の検査室で通常の診療として測定された値です。
分析では、二つの値がどの程度そろって増減するかを示す「相関係数」を計算しました。相関係数は−1から1までの値をとり、0に近いほど関係が弱いことを表します。著者らは、データの偏りを補正した値でも同じ計算を行いました。さらに、年齢の影響を差し引いたうえで各指標とAMHの関係を見る「偏相関」という分析も行いました。年齢の影響が大きいために、ほかの関係が隠れてしまう可能性を確かめるためです。
主な結果:年齢とは明確な関係、栄養や脂質の指標とはほぼ関係なし
対象者の平均年齢は34.61歳、AMHの中央値は0.96 ng/mLでした。年齢とAMHの間には、年齢が高いほどAMHが低いという明確な関係がみられました。相関係数は−0.508(順位にもとづく方法では−0.547)で、データの偏りを補正すると−0.553となりました。
これに対し、ビタミンD、ビタミンB12、葉酸、フェリチン、中性脂肪、HDL、LDL、総コレステロールは、いずれもAMHと統計的に意味のある関係を示しませんでした。相関係数の大きさはどれも0.20未満で、データの補正の有無にかかわらず結果は同じでした。
年齢の影響を差し引いた分析では、これらの関係はさらに0に近づきました。すべての指標で偏相関の大きさは0.10未満にとどまり、最も大きかったビタミンDでも0.094で、統計的に意味のある水準には達しませんでした。つまり、年齢の影響を取り除けば栄養素とAMHの関係が見えてくる、ということもありませんでした。
著者らは、今回の人数でどの程度の関係なら見つけられたかも確認しています。その結果、年齢の影響を差し引いた偏相関が0.172程度であれば80%、0.200であれば91%の確率で検出できる規模だったと報告しています。なお、対象者のビタミンDの状態をみると、不足とされる20 ng/mL未満の人が113人(42.8%)、やや不足とされる20〜29 ng/mLの人が90人(34.1%)、充足している人が61人でした。
この研究が示すこと
著者らは、卵巣予備能の主な決め手はやはり年齢であり、今回調べたビタミン、葉酸、フェリチン、脂質の値は、AMHと統計的にも臨床的にも意味のある関係を示さなかったと結論づけています。これらの栄養素が卵巣予備能に何らかの生物学的な影響を持つとしても、加齢による卵胞の減少の影響に比べれば非常に小さいと考えられる、というのが論文の見方です。
ただし、この研究は一時点の診療記録を振り返って関係を調べたもので、原因と結果を確かめたものではありません。鉄の状態はフェリチンのみで評価しており、季節によって変わるビタミンDの値も季節ごとに分けて分析していないなど、著者ら自身が限界も挙げています。それでも、通常の診療で測定される栄養関連の検査値では、AMHの個人差のほとんどを説明できないことを示した点に、この研究の意味があります。
著者:Mete Hakan Karalök(Department of Obstetrics and Gynecology, Faculty of Medicine, Istanbul Atlas University, Istanbul 34403, Türkiye)、Bağnu Dündar(Department of Biochemistry, Faculty of Medicine, Istanbul Atlas University, Istanbul 34403, Türkiye)、Ayhan Parmaksız(Department of Biostatistics, Faculty of Medicine, Istanbul Health and Technology University, Istanbul 34445, Türkiye)、Tuğba Elgün(Biruni University Research Center (B@MER), Biruni University, Istanbul 34015, Türkiye)、Sevgi Koçyiğit Sevinç(Department of Biophysics, Faculty of Medicine, Kutahya Health Sciences University, Kutahya 43100, Türkiye)、Asiye Gök Yurttaş(Department of Biochemistry, Faculty of Medicine, Istanbul Atlas University, Istanbul 34403, Türkiye)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Mete Hakan Karalök, Bağnu Dündar, Ayhan Parmaksız, et al. Routine Vitamin and Iron Biomarkers Do Not Explain Variation in Anti-Müllerian Hormone: Implications for Ovarian Reserve Testing in Clinical Practice. Journal of Clinical Medicine 2026-09-29. DOI: 10.3390/jcm15197571. 原著ライセンス:CC BY.