この研究は、中国の研究機関の研究論文です。
掲載誌:Frontiers in Microbiology
ライセンス: CC BY 4.0 対象: 公開論文 確認元: Crossref
研究の背景と目的
乳酸菌などの微生物がつくり出す「菌体外多糖(EPS)」は、食品のとろみづけや乳化、ゲル化を助ける成分として食品産業で広く使われてきました。これまでは外部で製造したEPSを原料として加える方法が一般的でしたが、研究チームは、発酵の過程で乳酸菌自身にEPSをつくらせる「その場(in situ)生産」に注目しています。添加物の表示を減らしたいという、いわゆるクリーンラベル食品への需要の高まりに沿う方法だと位置づけられています。
この研究で取り上げられたのは、植物由来の乳酸菌ラクチプランチバチルス・プランタルムの宇宙変異株「LP-Wang25」です。著者らは、この株をヨーグルト製造の補助スターター(主となる発酵菌に加えて用いる菌)として使えるかどうかを確かめることを目的としました。
何をどのように調べたか
研究チームは、LP-Wang25の応用可能性を複数の面から調べています。具体的には、EPSがどれだけつくられるかの定量、どの糖を栄養源として利用できるかの試験、菌が持つ遺伝情報をまるごと読み取る全ゲノム解析、抗酸化活性と抗炎症活性の測定、実際にヨーグルトを発酵させる試験、人による官能評価、そして香りのもとになる揮発性成分の分析です。比較の基準としては、宇宙変異を経ていない元の株(親株)が用いられました。
報告された主な結果
論文によると、LP-Wang25は親株と比べて、増殖が始まるまでの待機時間(遅滞期)が短くなり、EPSの生産量は39.7%多い161.95 mg/Lに達したと報告されています。抗酸化活性と抗炎症活性についても、親株より高まっていたとされています。
全ゲノム解析では、EPSの合成がWzx/Wzyという広く保存された経路を主に通って進むことが示されました。著者らは、この経路そのものが変化したというより、遺伝子の読み出しの調節や代謝の流れの配分が変わったことが増産に関係している可能性が高い、と述べています。
実際にヨーグルトの補助スターターとして使った試験では、EPS含量と粘度が上がり、ホエイ(乳清)の分離が減り、ミルク様の香りと、バターのような香りに関わるアセトインの濃度が高まって、官能評価による受容性も向上したと報告されています。
この研究が示すこと
著者らは、LP-Wang25がクリーンラベル志向のヨーグルト製造に向いた補助スターターの候補であり、流動的な性質(レオロジー)や風味の面での改善に加えて、抗酸化・抗炎症の活性も高い株だと結論づけています。宇宙環境を利用した微生物の育種という手法を、乳製品という身近な加工食品の品質改善に結びつけた点に、この研究の意義があると位置づけられています。
著者:Lingxiang Wen(Key Laboratory of Geriatric Nutrition and Health, Beijing Technology and Business University, Ministry of Education, Beijing, China)、Lingxiang Wen(School of Food and Health, Beijing Technology and Business University, Beijing, China)、Youming Tan(Key Laboratory of Geriatric Nutrition and Health, Beijing Technology and Business University, Ministry of Education, Beijing, China)、Youming Tan(School of Food and Health, Beijing Technology and Business University, Beijing, China)、Sizhe Qiu(State Key Laboratory of Bioreactor Engineering, East China University of Science and Technology, Shanghai, China)、Zhennai Yang(School of Food and Health, Beijing Technology and Business University, Beijing, China)、Hong Zeng(Key Laboratory of Geriatric Nutrition and Health, Beijing Technology and Business University, Ministry of Education, Beijing, China)、Hong Zeng(School of Food and Health, Beijing Technology and Business University, Beijing, China)、Yanbo Wang(Key Laboratory of Geriatric Nutrition and Health, Beijing Technology and Business University, Ministry of Education, Beijing, China)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Lingxiang Wen, Lingxiang Wen, Youming Tan, et al. Enhancing yogurt quality with a high-EPS-producing space mutant Lactiplantibacillus plantarum LP-Wang25: integrated assessment of yogurt rheological behavior, flavoromics, and functional activities. Frontiers in Microbiology 2026-09-01. DOI: 10.3389/fmicb.2026.1943949. 原著ライセンス:CC BY.