著者の所属・活動拠点の国は、中国です。
掲載誌:Fermentation
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
乳酸菌は、糖を乳酸などの有機酸に変えて発酵食品を酸性にします。酸性になると望ましくない微生物が増えにくくなり、製品も安定しやすくなります。食品発酵に使う乳酸菌を選ぶときは、この「酸を作る力」に加えて、酸などのストレスへの強さ、安全性、ほかの菌を抑える働きが重要な基準になります。ただ、これらの性質をあわせ持つ乳酸菌は、まだ十分に調べられていないと著者らは述べています。
これまで報告された乳酸菌や、体によい働きが期待される菌(プロバイオティクス)の候補の多くは、一般的な発酵食品や乳製品、動物の腸などから得られてきました。研究チームが注目したのは、高原地帯で伝統的に作られるヤクのヨーグルトです。原料や製法、地域の微生物環境が独特なため、一般的な乳製品とは異なる乳酸菌が見つかる可能性があります。一方で著者らは、由来が珍しいことは発酵の性能が優れていることを意味しないとし、菌株ごとに性質を一つずつ確かめる必要があると指摘しています。
そこで研究チームは、青蔵高原地域の牧畜地帯で作られた自家製ヤクヨーグルトから乳酸菌を分離しました。その性質を実験で調べ、酸を作る力の背景にある遺伝子を、ゲノム(全遺伝情報)と遺伝子の働き方の両面から探ることを目指しました。
何を調べたか
研究チームは、ヤクヨーグルトから3つの乳酸菌株を分離しました。まず、胃のような酸性条件や、腸で分泌される胆汁酸塩への耐性を比べました。あわせて、菌どうしが集まる性質や菌の表面の性質といった、付着に関わる特徴、ほかの菌を抑える働き、赤血球を壊す性質(溶血性)の有無、抗生物質への反応も調べています。いずれも試験管やシャーレの中での実験です。
この予備的な比較で総合的に優れていた株が、ペディオコッカス・アシディラクティシ(Pediococcus acidilactici)という種の「PA-X1」でした。研究チームはPA-X1について、培養中の増え方と酸性度の変化、乳酸の量、糖(ブドウ糖)の減り方を測定しました。さらに、ゲノム全体を解読して糖の取り込みや分解、乳酸づくりに関わる遺伝子を調べました。最後に、ブドウ糖を多くした条件や酸性の条件で、それらの遺伝子がどの程度働くかも測定しています。
主な結果
PA-X1を24時間培養すると、培養液の酸性度を示すpHは3.75まで下がり、L-乳酸の濃度は1リットルあたり8.53グラムに達しました。ブドウ糖は培養開始時の1リットルあたり20.0グラムから6.00グラムに減り、24時間で約70%が消費されたと報告されています。
酸への強さでは、PA-X1はpH3.0の条件で94.64%の生存率を示し、比較した2株を上回りました。胆汁酸塩の濃度が最も高い0.3%の条件でも生存率は73.36%で、他の2株(約9〜14%)より高い値でした。
PA-X1の培養液の上澄みは、試した3種類の菌(大腸菌、サルモネラ菌、黄色ブドウ球菌)すべての増殖を実験条件下で抑えました。ただし著者らは、上澄みを中和せずに試験したため、抑制が酸性度や有機酸によるものか、ほかの物質によるものかは区別できないと述べています。安全性に関する予備的な試験では、3株とも溶血性を示しませんでした。またPA-X1のゲノムからは、データベース検索で、他の菌から取り込まれたとみられる薬剤耐性遺伝子は見つかりませんでした。
ゲノム解析では、糖を細胞内に取り込む仕組み(PTSと呼ばれる輸送系)、ブドウ糖を分解してピルビン酸という物質にする解糖の経路、ピルビン酸を乳酸などに変える代謝に関わる遺伝子が、数多く確認されました。遺伝子の働きを調べると、ブドウ糖を1リットルあたり40グラムに増やした条件では、糖の取り込みに関わるptsI、ptsH、crrの3遺伝子の働きが大きく高まりました。酸性の条件では、解糖や乳酸づくりなどに関わる遺伝子(pgk、eno、tpiA、ldhA、ldhL、ackAなど)の働きが、程度の差はあるものの高まったと報告されています。
研究の意味
著者らは、実験で見られた性質、ゲノムの特徴、遺伝子の働き方を合わせて考察しています。その結果、PA-X1の酸を作る力は、糖の取り込み、解糖、ピルビン酸の代謝、有機酸の生成と関係している可能性があると結論づけました。これは関係を示唆するものであり、個々の遺伝子が酸づくりにどれだけ寄与するかを直接確かめたものではありません。
研究チームは、PA-X1が酸を作る力、ストレスへの強さ、ほかの菌を抑える働きをあわせ持つことから、発酵食品づくりに使う「スターター」(発酵のもとになる菌)の候補になりうると述べています。今回の成果は、ヤクヨーグルトという独特な伝統食品に由来する乳酸菌の性質を、実験とゲノムの両面から示したものです。
原著論文の著者・所属:Xiudi Zhang(College of Life Science and Technology, Gansu Agricultural University, Lanzhou 730070, China)、Fuqiang Xu(College of Life Science and Technology, Gansu Agricultural University, Lanzhou 730070, China)、Xia Liu(College of Life Science and Technology, Gansu Agricultural University, Lanzhou 730070, China)、Xiaohua Du(College of Life Science and Technology, Gansu Agricultural University, Lanzhou 730070, China)、Yanbin Zhu(Institute of Animal Husbandry and Veterinary, Tibet Autonomous Regional Academy of Agricultural Sciences, Lhasa 850009, China)、Yuan Gao(College of Life Science and Technology, Gansu Agricultural University, Lanzhou 730070, China)、Changhui Xu(Agricultural and Animal Husbandry Science and Technology Extension Service Center of Riwoqe County, Qamdo 855600, China)、Miaoyin Dong(College of Life Science and Technology, Gansu Agricultural University, Lanzhou 730070, China)、Fengyu Mao(College of Life Science and Technology, Gansu Agricultural University, Lanzhou 730070, China)、Yaxiong Ren(College of Life Science and Technology, Gansu Agricultural University, Lanzhou 730070, China)、Dawa Jiangcuo(Agricultural and Animal Husbandry Science and Technology Extension Service Center of Riwoqe County, Qamdo 855600, China)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Xiudi Zhang, Fuqiang Xu, Xia Liu, et al. Probiotic Potential and Acidification Capacity of Pediococcus acidilactici PA-X1 Isolated from Fermented Yak Yogurt: Phenotypic and Genomic Characterization. Fermentation 2026-10-20. DOI: 10.3390/fermentation12100486. 原著ライセンス:CC BY.