この研究は、ルーマニアの研究機関の研究論文です。

掲載誌:Crystals

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

トマトジュースやトマトペースト、トマトピューレは酸が強く、食塩も含まれます。こうした中身は、アルミニウム製の容器の表面を守っている酸化皮膜を少しずつ傷め、アルミニウムのイオンが食品側へ溶け出す原因になります。溶け出した金属は金属的な味や褐色化につながるため、食品を入れる容器の素材選びは品質保持の課題のひとつです。

この研究で著者らが調べたのは、通常のアルミ容器(論文ではACと表記)と、食品用途のステンレス鋼の層を表面に吹き付けたアルミ容器(ASSCと表記)を比べたとき、保存中のトマト製品の状態がどう違うかという点です。著者らは、ステンレス鋼の被覆がアルミニウムイオンの移行を抑え、成分の変化を小さくし、酸化防止剤・防カビ剤・酸味料といった添加物の必要性を下げられるかどうかを確かめることを目的に掲げています。

何を、どう調べたか

著者らはまずアルミ合金の試験片に、電気アーク式の溶射という方法で食品用ステンレス鋼の線材(80T)を吹き付け、合計64枚の被覆試料を作りました。溶射とは、金属を高温で溶かして霧状にし、対象の表面へ吹き付けて層をつくる技術です。できた層は電子顕微鏡で断面を観察し、空孔の割合(ポロシティ)、下地との密着強さ、硬さを測定しています。論文によれば、アルミ合金の空孔率は6.0%から3.8%へ下がり、密着強さは平均32.7MPaでした。空孔が少ないほど、酸素や微生物が表面の層を通り抜けにくくなると著者らは説明しています。

トマト製品としては、食塩1.5%を含むトマトジュース(S1)、2.5%のトマトペースト(S2)、3.5%のトマトピューレ(S3)を用い、2〜8℃、相対湿度75〜80%の条件で3〜12か月保存しました。保存中に測ったのは、可溶性固形分(糖度などを示すブリックス)、滴定で求める酸度、pH、HPLCによるアスコルビン酸(ビタミンC)とデヒドロアスコルビン酸、フォリン・チオカルト法による総ポリフェノール、分光光度計による透過率、そしてICP-MSによるアルミニウム・クロム・マンガン・ニッケル・亜鉛・鉄・カルシウムの濃度です。なお著者らは、この実験が最終包装前の製造ラインでの容器内保存を想定したものであるため、ガラス容器を対照としては用いなかったと述べています。

報告された主な結果

酸度については、通常のアルミ容器では7.65g/100gから4.07g/100gまで大きく下がった一方、ステンレス鋼を被覆した容器では7.65g/100gから5.98g/100gへの比較的小さな低下にとどまったと報告されています。著者らはこの違いを、化学的な安定性が高まったことの現れと解釈しています。pHも、通常容器では4.3から3.5まで動いたのに対し、被覆容器では4.3から4.1の範囲に収まりました。

食塩濃度が高いほどアルミニウムの移行が進むことも示されています。食塩3.5%のピューレでは、通常のアルミ容器で26.4mg/kgのアルミニウムが測定されましたが、ステンレス鋼被覆の容器では9.2mg/kgでした。クロム、マンガン、ニッケル、亜鉛、鉄、カルシウムについても、通常容器で保存した試料のほうが金属濃度が高かったと著者らは述べています。

栄養成分に関しては、被覆容器で保存した試料のビタミンC含量が2.09mg/100gから2.04mg/100gへとほとんど変わらず、総ポリフェノールは110.13mg/100gから98.81mg/100gへのわずかな減少でした。12か月後の総ポリフェノール量を比べると、被覆容器の98.81mg GAE/100gに対し、通常容器では81.74mg GAE/100gだったとしています。見た目に関わる透過率も、被覆容器のほうが変化が小さく保たれました。著者らは、ポリフェノールとビタミンCがいずれも抗酸化性をもつ成分であり、その保持が色の安定にもつながると説明しています。

この結果が示すこと

著者らの結論は、電気アーク溶射でつくった食品用ステンレス鋼の層が、アルミニウムと酸性の食品との接触を減らす機能的な障壁として働き、金属イオンの移行と酸化の進行を抑えたというものです。酸度やpHの変動が小さく、抗酸化成分の減りも少なかったことから、著者らは酸化防止剤や防カビ剤といった添加物への依存を下げる方向につながる結果だと位置づけています。

同時に著者らは、評価したのは溶射による一種類の被覆系のみであり、繰り返しの洗浄や加熱、さまざまな食品との接触といった実際の工業条件下での長期的なふるまいは今後の検討課題として残ると、研究の限界を明記しています。素材の表面に手を加えることで、中身の味・色・栄養成分の変化を保存期間を通じて小さくできる——容器と食品の界面に目を向けたこの研究は、そうした見方を具体的な測定値で裏づけたものだといえます。

著者:Steluța Radu(Department of Food Technologies, Faculty of Agriculture, University of Life Sciences Ion Ionescu de la Brad Iasi, 700028 Iasi, Romania)、Ștefan Lucian Toma(Department of Materials Engineering and Industrial Safety, Faculty of Materials Science and Engineering, Gheorghe Asachi Technical University of Iasi, 700050 Iasi, Romania)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Steluța Radu, Ștefan Lucian Toma. Effects of Aluminium Coated with Stainless Steel on the Nutritional Quality of Tomato Products. Crystals 2026-09-05. DOI: 10.3390/cryst16090579. 原著ライセンス:CC BY.