この研究は、ブラジルの研究機関の研究論文です。
掲載誌:Nutrire
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
なぜ食事調査の「申告のずれ」を調べたのか
食事の内容は、生活習慣病の予防や食事ガイドラインづくりの土台になる重要な情報です。しかし食事調査の多くは、本人が「何を食べたか」を自分で申告する方式に頼っているため、記憶違いや言いづらさによる誤差が入り込みます。その中でもとくに多いとされるのが、実際より少なく申告してしまう「エネルギー摂取量の過少申告」です。研究チームは、こうした申告のずれがどの程度あり、どのような人に多いのかを把握しないまま食事と健康の関係を論じると、解釈を誤りかねないと指摘しています。
ブラジルでは2008〜2009年の家計調査に初めて全国食事調査が組み込まれ、個人単位の食事情報が全国を代表する形で得られるようになりました。研究チームは、2017〜2018年に実施された2回目の全国食事調査のデータを用いて、エネルギー摂取量の申告のずれ(ミスレポーティング)に関連する栄養面・社会人口学的な要因を明らかにすることを目的としました。著者らによれば、ブラジルの全国規模の調査でこの問題の有病率と関連要因を検討したのは、知る限り本研究が初めてです。
誰を対象に、どうやって「過少申告」を見分けたか
用いたのは2017年7月から2018年7月に行われた家計調査(POF)のデータです。全国から抽出された世帯のうち一部の世帯で、10歳を超える居住者全員について個人の食事内容が集められました。食事は1人1回の24時間思い出し法で、前日に食べた飲食物(水を含む)、調理法、分量、食べた時間、家の内外どちらで食べたかまでを順を追って聞き取る方式です。報告された量はグラムやミリリットルに換算され、ブラジル食品成分表を使ってエネルギーや栄養素の量に置き換えられました。今回の分析では、成人に対象を絞るという事前の方針に基づき20歳未満を除き、妊娠中・授乳中の女性も除いた3万6480人が最終的な対象となりました。
申告が妥当かどうかの判定には、エネルギー摂取量を基礎代謝量(安静時に生命維持のために消費されるエネルギー)と比べるゴールドバーグ法(ブラックによる改訂版)が使われました。基礎代謝量は年齢と性別に応じた推定式で算出し、身体活動の実測データがなかったため全員に座位中心の生活を想定した一定の値を当てはめています。その結果、エネルギー摂取量と基礎代謝量の比が0.87未満の人を過少申告者、0.87〜2.75を妥当な申告者、2.75を超える人を過大申告者と分類しました。身長・体重は自己申告値で、そこから算出したBMIにより低体重・標準・過体重・肥満に分けられました。さらに、減量や血圧・コレステロール・血糖などの管理のために食生活を変えているか(ダイエット実施の有無)、居住地域、年齢層、性別、人種、収入、教育年数なども集計し、過少申告との関連をポアソン回帰で推定しています。
報告された主な結果
研究チームの推定では、ブラジルの成人人口のうちエネルギー摂取量の過少申告者は30.5%でした。一方、過大申告者は一人も確認されず、著者らはこれを予期しない結果として挙げています。平均エネルギー摂取量は女性で1日1509.6kcal、男性で1944.7kcalでした。
過少申告者は、妥当な申告者と比べて平均の体重・BMI・基礎代謝量が高く、エネルギー摂取量の平均は低いという特徴がありました。栄養素でみると、たんぱく質(1日50.8g対90.9g)、炭水化物(141.9g対263.4g)、脂質(33.9g対67.4g)、食物繊維(14.6g対24.8g)のいずれも過少申告者のほうが低い値でした。身長には両群で有意な差はありませんでした。
複数の要因を同時に調整したモデルでは、標準体重の人に比べ、過体重の人は過少申告の割合が32%高く(有病率比1.32)、肥満の人は75%高く(同1.75)なっていました。食生活を変えていると答えた人では41%高く(同1.41)、高収入層に対して中間層で12%、低収入層で44%高く、学校教育を受けていない人は12年超の教育を受けた人より25%高い結果でした。逆に、60歳以上の高齢者では13%低く、農村部の居住者では7%低く、北東部では23%、北部では14%低い傾向が示されました。性別については、記述的な集計では女性に過少申告の割合が高かったものの、他の要因を調整した後は関連がみられませんでした。著者らは、当初みえた男女差が他の要因によって少なくとも部分的に説明されうることを示す結果だと述べています。
この30.5%という水準は、同じ手法を使ったポルトガル(28.5%)やアイルランド(33.3%)の全国調査と近く、日本(3.2%)、オーストラリア(23.0%)、米国(25.1%)より高い値でした。論文では、国ごとの差は判定基準や調査手法、食品データベースの違いを反映している可能性にも触れられています。
著者らは限界も挙げています。横断研究であること、ゴールドバーグ法が基礎代謝量の推定値と身体活動水準の仮定に依存する間接的な手法であること、身体活動のデータがないため一定値を当てはめたこと、身長・体重が自己申告であることなどです。また、エネルギーの過少申告は他の栄養素の摂取量を低く見積もる結果にもつながるため、集団レベルの推定値を読む際には注意が必要だとしています。
この研究が示すこと
食事調査の数字は、集団全体で一律にずれるのではなく、体格や食生活への意識、社会経済的な状況によって偏った形でずれうる――本研究が報告しているのはそのことです。著者らは、過少申告者を一律に除外するのではなく、こうした特徴を踏まえて食事データを解釈する必要があると述べています。食事と健康の関係を扱う研究を読むときにも、報告された摂取量が「実際に食べた量」そのものではない可能性を念頭に置く意味を、この結果は伝えています。
著者:Clarisse Vasconcelos de Azevedo(Department of nutrition, School of Public Health, University of São Paulo, São Paulo, 01246-904, Brazil)、Daniel Ferreira Silva(Department of nutrition, School of Public Health, University of São Paulo, São Paulo, 01246-904, Brazil)、Eduardo De Carli(Department of nutrition, School of Public Health, University of São Paulo, São Paulo, 01246-904, Brazil)、Dirce Maria Lobo Marchioni(Department of nutrition, School of Public Health, University of São Paulo, São Paulo, 01246-904, Brazil)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Clarisse Vasconcelos de Azevedo, Daniel Ferreira Silva, Eduardo De Carli, et al. High underreporting of dietary energy intake obtained through 24-hour recalls among Brazilians in a nationally representative survey. Nutrire 2026-10-01. DOI: 10.1186/s41110-026-00551-7. 原著ライセンス:CC BY.