加齢とともに関節が衰え、歩行や日常動作に支障が出てくる状態は「ロコモティブシンドローム(運動器症候群)」と呼ばれ、その代表的な原因のひとつが膝関節の変化とされています。膝には体重を支える大きな負荷がかかり続けるため、日本国内でも40歳以上の男性の42.6%、女性の62.4%が何らかの膝の変化を抱えていると推定され、対象となる人数は2,530万人にのぼると報告されています。こうした背景から、コラーゲンペプチドやヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸を配合した機能性食品が、関節の健康維持を目的として利用されるようになってきました。今回紹介する研究は、これらの成分を組み合わせた食品が、膝に痛みを抱える高齢者の「バランスを保つ力」にどのような影響を与えるかを調べたものです。
どのような試験が行われたのか
この研究は、膝関節に痛みがあり、特定の関節疾患(変形性膝関節症など)とは診断されていない50〜79歳の日本人男女60名を対象に行われました。参加者はロコモティブシンドロームのリスク判定(2ステップテストや立ち上がりテスト、25項目の質問票などで評価)でステージ1または2に該当する人に限定されています。試験は無作為化・二重盲検・プラセボ対照という、被験者にも実施者にもどちらの食品を摂取しているか分からない厳密な方法で行われました。
試験食品群(30名)は、豚皮由来のコラーゲンペプチド4,000mg、豚軟骨由来のコンドロイチン硫酸12mg、微生物発酵由来のヒアルロン酸12mgを含む粉末(5g/日)を、プラセボ群(30名)はマルトデキストリンのみからなる同量の粉末を、それぞれ12週間、1日1回水とともに摂取しました。効果を測る主な指標として、(1)脚を伸ばす力(膝伸展筋力)、(2)片脚立ちを目を開けたまま何秒続けられるかを測る「開眼片脚立位時間(OLST)」、(3)椅子から立ち上がって3m歩き、障害物をよけて戻ってくるまでの時間を測る「Timed Up & Go(TUG)テスト」の3つが、開始時・8週・12週の時点で測定されました。試験食品は「Q'SAI Knee Support Collagen」という名称で市販されている製品と同じものが用いられています。
結果からわかったこと
まず60名全員が試験を完了しましたが、試験期間中に服薬があった2名(各群1名)を除いた58名(各群29名)を対象に解析が行われました。その結果、膝伸展筋力とOLSTについては、試験食品群とプラセボ群のあいだに有意な差は見られませんでした。また、TUGテストの所要時間はむしろ試験食品群のほうが8週・12週時点でプラセボ群より長くなるという、想定外の結果も示されています。ただし、開始時からの変化量で比較すると両群に有意差はなかったと報告されています。
そこで研究チームは、参加者を膝の痛みの強さ(VASスケアによる自己評価)に応じて「軽度(40mm未満)」「中等度(40〜60mm)」に分けて改めて解析を行いました。その結果、中等度の痛みを持つ参加者(試験食品群13名、プラセボ群9名)では、OLSTのスコアの伸びが試験食品群のほうが8週・12週の両時点で有意に大きいことが分かりました。一方、軽度の痛みの参加者(試験食品群12名、プラセボ群14名)では、両群のあいだに有意な差は見られませんでした。膝の痛みの程度そのもの(JKOMやJOAスコア、VASによる痛みの評価など)については、両群とも改善が見られたものの、群間で有意な差は確認されなかったとされています。なお、試験食品との関連が疑われる有害事象は報告されていません。
この研究の位置づけと読むうえでの注意
著者らは、片脚立ちのバランス能力が膝の痛みや筋力といった下肢の要因と関連することが過去に報告されていることを踏まえ、痛みの強さで分けた解析によって「中等度の膝の痛みを持つ高齢者」でOLSTの改善という結果を得たとしています。ただし、この論文自体が述べているように、全体集団での主要な指標(膝伸展筋力・OLST)では有意差が確認されず、むしろTUGテストは試験食品群で数値が悪化する意外な結果も出ています。また、痛みの強さで分けた解析はサンプル数がもともとの試験デザインより小さくなっており(中等度群は試験食品13名・プラセボ9名など)、事後的な追加解析である点にも留意が必要です。今回の結果はひとつの臨床試験によるものであり、結論が確立したわけではありません。
研究チームには、Q'sai株式会社(福岡県)に所属する著者と、順天堂大学医学部に所属する著者が含まれています。試験は日本国内の医療機関の倫理委員会の承認を受け、日本人の参加者を対象に実施されました。
まとめ
この研究では、コラーゲンペプチド・コンドロイチン硫酸・ヒアルロン酸を含む食品を12週間摂取しても、膝伸展筋力やバランス能力全体への明確な効果は確認されませんでした。一方で、膝の痛みが中等度だった参加者に限ると、片脚立ちの時間・スコアの伸びが摂取群でより大きかったことが示唆されています。特定の対象者においてバランス能力の維持に役立つ可能性を示すものではありますが、全体としての効果や再現性については、今後さらなる検証が必要といえるでしょう。
※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Yuri Tominaga, Junji Yamasaki, Isao Nagaoka, et al. Effects of collagen peptides, chondroitin sulfate and hyaluronic acid on balance ability in older adults with knee joint pain: A randomized, double-blind, placebo-controlled trial. ファンクショナル・フーズ・イン・ヘルス・アンド・ディジーズ (2026). DOI: 10.31989/ffhd.v16i7.2026. 原著ライセンス: cc-by.