血液中のビタミンD濃度が低い高齢者は認知症になりやすいのではないか——この仮説はこれまでも多くの研究で調べられてきましたが、対象の多くは比較的元気に自宅で暮らす60〜70代でした。しかし実際に認知症のリスクが高いのは、複数の病気を抱え、入院を繰り返すような、より虚弱な高齢者層です。今回ポーランド中部の医科大学病院の老年科チームが行った研究は、まさにこの入院高齢者集団に焦点を当て、血清ビタミンD濃度と認知機能検査の結果との関連を調べたものです。
ビタミンDは日光を浴びることで皮膚で作られますが、高齢になると皮膚での合成能力が落ちるほか、外出機会の減少、食事量の不足、多剤併用などが重なり、不足しやすくなることが知られています。論文では、ビタミンD不足が神経の働きに関わる物質(神経栄養因子)の調節や、脳の炎症の抑制、脳血管の機能、アミロイドβというタンパク質の除去など複数の経路を通じて、認知機能の低下に関与している可能性があると説明されています。ただし、これらはあくまで想定される生物学的な仕組みであり、この研究自体がそれを直接証明したわけではありません。
どのように調べたのか
研究チームは2022年10月から2024年3月にかけて、同大学老年科に入院した60歳以上の患者を対象にデータを集めました。最初にスクリーニングされた1,648人のうち、血中ビタミンD濃度のデータが欠けていた61人、認知機能検査の結果が欠けていた48人を除き、最終的に1,539人(女性1,057人、男性482人)を解析対象としました。
認知機能は、広く使われる「MMSE(ミニメンタルステート検査)」と、時計の文字盤を描いてもらう「時計描画テスト(CDT)」の2種類で評価されました。MMSEの点数は年齢と教育年数によって数値を補正する方法(Mungasらの補正式)を用いて調整され、この調整後の点数をもとに「24点未満」を認知機能低下の目安としました。CDTは10点満点で採点され、「6点未満」を成績不良の目安としています。また、電子カルテに記録された診断名(ICD-10コード)などから「認知症と診断されている患者」も別途特定されました。血中のビタミンD濃度は、電気化学発光免疫測定法という手法で測定され、20ng/mL未満を「不足」、20〜29ng/mLを「やや不足」、30〜50ng/mLを「充足」と分類しています。年齢、性別、体格指数(BMI)、血中アルブミン濃度(栄養状態の指標)、うつ症状の程度、脳卒中の既往といった要因の影響を統計的に取り除いたうえで、ビタミンD濃度と認知機能検査の結果との関連が検討されました。
研究でわかったこと
対象者全体の53.3%が「ビタミンD不足(20ng/mL未満)」に該当し、「充足」とされる30ng/mL以上だったのは27.6%にとどまりました。入院している高齢者では、ビタミンD不足がかなり広くみられる状態だったことがうかがえます。
統計解析の結果、血中ビタミンD濃度が高いほど、MMSEが24点未満になる可能性、CDTが6点未満になる可能性、そして認知症と診断されている可能性が、いずれも低い傾向にあることが示されました。具体的には、他の要因の影響を調整したうえで、ビタミンD濃度が10ng/mL上がるごとに、MMSE低下の可能性が約15%、CDT不良の可能性が約11%、認知症と診断される可能性が約18%、それぞれ低くなる計算になったと報告されています。
また、ビタミンD濃度を「10ng/mL未満」「10〜19」「20〜29」「30以上(基準)」の4段階に分けて調べた追加の解析では、10ng/mL未満という重度の不足状態にある人だけが、MMSE低下や認知症との関連で統計的に意味のある差を示し、中間的な不足レベルでは明確な差が見られなかったとされています。この結果から、著者らはビタミンD濃度と認知機能の関連が、一定のライン(閾値)を境に強く現れる可能性があるのではないかと考察していますが、これは横断研究の枠内での考察にとどまる点には注意が必要です。なお、年齢が高いこと、うつ症状が強いこと、脳卒中の既往があることも、いずれの認知機能検査でも悪い結果と関連しており、血中アルブミン濃度が高い(栄養状態が良い)ことは良い結果と関連していました。
脳卒中の既往がある人を除外したり、ビタミンDのサプリメントを摂取している人を除外したりしても、ビタミンD濃度と認知機能との関連は大きく変わらなかったと報告されています。一方で、炎症の指標であるCRP(C反応性タンパク)濃度が正常な人だけに絞って解析すると、同じ方向の関連は見られたものの、統計的な有意差までは確認されませんでした。著者らは、体内の炎症がビタミンD代謝と認知機能の両方に影響しうるため、炎症の有無によって関連の見え方が変わる可能性を指摘しています。
この研究の読み方・注意点
この研究は、ある一時点でのビタミンD濃度と認知機能検査の結果を比較した「横断研究」であり、どちらが原因でどちらが結果かを明らかにするものではありません。著者ら自身も、因果関係は判断できず、今後の追跡調査(前向き研究)が必要だと述べています。また教育年数のデータはMMSEの点数調整に使われた後、解析用のデータベースには別変数として残されなかったため、教育年数そのものを独立した要因として調整に加えることはできなかったという限界も述べられています。加えて、ビタミンDサプリメントの摂取については本人の申告に基づいており、量や期間などの詳しい情報は把握されていません。この研究はポーランドの一つの病院の入院患者を対象にしたものであり、著者の所属機関に日本の研究機関は含まれていません。
今回の結果は、入院している高齢者においてビタミンD濃度の低さと認知機能検査の成績の悪さが同時に見られやすい、という関連を示したものであり、ビタミンDを摂取すれば認知機能が改善するということを証明したものではありません。一つの観察研究として位置づけたうえで、今後の研究の積み重ねを見守る必要があります。
※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Ganna Kravchenko, Serena S. Stephenson, Julia Dmuchowska, et al. Serum 25-hydroxyvitamin D and cognitive performance in hospitalized older adults: a cross-sectional study from Central Poland. フロンティアーズ・イン・ニュートリション (2026). DOI: 10.3389/fnut.2026.1887375. 原著ライセンス: cc-by.