著者の所属・活動拠点の国は、インドネシア、ウズベキスタンです。

掲載誌:Indonesian Private Law Review

ライセンス: CC BY-SA 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的:ハラール認証を国はどこまで管理すべきか

イスラム教の教えで許された食品などの製品を「ハラール」と呼びます。消費者は、原材料や製造工程、流通経路を自分で確かめることがほとんどできません。著者らは、生産者と消費者のこの情報の差を埋める仕組みとしてハラール認証を位置づけています。適切な監督がなければ、豚由来の成分やアルコールなど禁じられた原料の混入、虚偽の表示が起こりうるためです。

研究チームは、この認証制度の管理のあり方を、インドネシアとウズベキスタンの二国で比較しました。視点は二つあります。一つは、世界貿易機関(WTO)の枠組みなど国際貿易上の義務です。もう一つは、19世紀の思想家ジョン・スチュアート・ミルが唱えた「危害原理」です。危害原理とは、国家が個人の自由に介入してよいのは他者への危害を防ぐ場合に限られる、という考え方です。論文は、この二つの枠組みから見た国家の責務と、両国の制度の比較という二つの論点を扱っています。

何をどのように調べたか

この研究は、実験や調査データを集める実証研究ではありません。法令や法理論を検討する「規範的法学研究」と呼ばれる手法をとっています。主な資料は両国のハラール保証に関する法令で、関連する学術論文も参照しています。法令の内容を読み解く方法、制度を国どうしで比べる方法、概念を理論的に整理する方法を組み合わせ、法の原則から具体的な結論を導いています。

比較の対象にこの二国を選んだ理由として、著者らはインドネシアの課題を挙げています。インドネシアでは、規定のあいまいさ、機関どうしの権限の重なり、政策実施のばらつきが残っているとされます。一方、ウズベキスタンはハラール管理を持続可能な開発や観光政策と結びつけており、論文はこれをより統合的なモデルとして参考にしています。また、世界最大のイスラム教徒人口を抱えシャーフィイー学派の影響が強いインドネシアと、ハナフィー学派の伝統が強い中央アジアのウズベキスタンとでは、法的・社会的な背景が大きく異なります。著者らは、この違いから学べる点が多いとしています。

主な結果:共通する目的と異なる統治の形

論文によると、両国はいずれもハラール認証を、イスラム教徒の消費者を守る手段であると同時に、世界のハラール市場で競争力を高める手段として位置づけています。違いが大きいのは制度の組み立て方です。

インドネシアでは、2014年のハラール製品保証法とその施行規則が、国内で流通する製品にハラール認証を求めています。宗教機関であるインドネシア・ウラマー評議会が宗教見解(ファトワ)を通じてハラールかどうかを判断します。国の機関であるハラール製品保証実施庁がその判断に法的効力を与えて認証書を発行し、検査機関が原材料や製造工程を技術的に評価します。著者らは、国家・宗教機関・検査機関が一つの認証の流れの中で協働する「混合型」で、成熟しているものの制度的に複雑だと整理しています。これに対してウズベキスタンは、信頼できる認証機関の確立、機関の認定、国家規格の整備を軸に、段階的・集中的に制度を発展させている途上にあります。国際的に通用する規格との整合も重視しているとされます。

二つの理論的視点からの分析では、次の点が示されました。国際貿易法のもとでは、ハラール認証は透明で、目的に見合った範囲にとどまり、国内品と輸入品を差別しない限り、正当な規制として認められます。逆に、偽装された貿易障壁になってはならないとされます。ミルの危害原理からは、国家の介入は、偽のハラール表示による消費者の欺瞞、禁止物質の混入、不公正な取引といった、具体的で予見できる危害を防ぐのに必要な範囲で正当化されます。著者らはさらに、不必要に複雑で費用のかかる規制は、零細・小規模事業者に過大な負担を負わせ、それ自体が新たな危害になりうると指摘しています。

研究が示す意味

著者らは、ハラール保証を単なる宗教上の手続きではなく、正確な情報を得る権利や詐欺からの保護に関わる消費者保護の問題として捉え直しています。そのうえで、ハラール規制は消費者を守りつつ経済活動の自由を不必要に制限しない限りにおいて、法的にも哲学的にも正当化されると結論づけています。

論文は提言として、インドネシアには権限の重なりの解消と認証手続きの簡素化を、ウズベキスタンには包括的な法的枠組みの整備と国際的な承認の拡大を求めています。両国には規格の調和や認証の相互承認も提案しています。宗教的な正当性、しっかりした規制機関、国際的に通用する法基準をどう両立させるか。この研究は、その問いに対して、異なる背景をもつ二国の比較から一つの見取り図を示しています。

原著論文の著者・所属:Ainul Masruroh(Universitas Wahid Hasyim)、Anto Kustanto(Universitas Wahid Hasyim)、Elfa Murdiana(Universitas Islam Negeri Jurai Siwo Lampung)、Nurul Farimatus Sholihah(Universitas PGRI Semarang)、Azamat Esirgapovich Esanov(Tashkent state university of law)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Ainul Masruroh, Anto Kustanto, Elfa Murdiana, Nurul Farimatus Sholihah, Azamat Esirgapovich Esanov COMPARATIVE HALAL PRODUCT ASSURANCE GOVERNANCE IN INDONESIA AND UZBEKISTAN: BETWEEN INTERNATIONAL TRADE OBLIGATIONS AND MILL’S HARM PRINCIPLE. Indonesian Private Law Review 2026-08-19. DOI: 10.25041/iplr.v7i2.5476. 原著ライセンス:CC BY-SA 4.0.

本紹介記事の文章(題名・見出しを含む)は、CC BY-SA 4.0で提供します。原著論文をもとにNutriMap Japanが日本語で要約・説明を加えています。対象は本紹介記事の文章に限り、ヒーロー画像・サイトのロゴ・画面デザイン・他の記事・データベース全体は含みません。