著者の所属・活動拠点の国は、インドネシアです。
掲載誌:SCIENCE Jurnal Inovasi Pendidikan Matematika dan IPA
ライセンス: CC BY-SA 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
身近な文化から数学を見つける
数学は抽象的で難しいと受け取られがちです。研究チームはその一因として、授業が実生活と結び付けられることが少ない点を挙げています。そこで注目したのが「民族数学(エスノマセマティクス)」です。これは、地域の暮らしや伝統文化の中に潜む数学的な考え方を見いだし、学習に生かそうとする研究分野です。
著者らは、インドネシアのバンカ地方に由来する甘い厚焼き菓子「マルタバック・マニス」と、伝統音楽ダンブスの伴奏に使われる打楽器「ルバナ」の二つを取り上げました。論文によると、これまでの同種の研究は料理か楽器のどちらか一方だけを扱うことが多く、料理と楽器を同じ研究で組み合わせた例はありませんでした。研究の目的は、この二つの文化的な対象に含まれる数学の概念を探り、両者に共通する概念を整理することです。整理した結果は、生活に根ざした数学教材の開発につなげることが想定されています。
店主と楽器職人への聞き取りと観察
研究は、現場の様子をありのままに記述する質的研究として行われました。人々の暮らしや文化を現地で観察する民族誌的な手法を用いています。調査地はインドネシアのプマタンシアンタル市で、期間は2024年2月から4月です。情報提供者は、マルタバック・マニスの販売者2人と、伝統楽器を製作する職人1人の計3人です。いずれも製作に直接携わる経験を基準に選ばれました。
研究チームは、菓子と楽器の形、作り方、提供の仕方や演奏の仕方を観察しました。あわせて情報提供者への詳しい聞き取りと文献調査を行い、得られた情報を整理・分析しています。
円、分数、対称性、比が現れる
マルタバック・マニスについて、著者らはまず焼き型に注目しました。焼き型は平面で見れば円、立体で見れば円柱です。焼き上がった菓子は平たい円柱で、中心、半径、直径、弧、弦、扇形といった円の要素を観察できるとしています。論文の例では、直径20センチの小さい型で焼いたものは8切れに、直径26センチの大きい型で焼いたものは12切れに切り分けられます。切り分けた一切れの底面は扇形になり、ここに分数の考え方が現れます。材料の配合にも「小麦粉2分の1キロ」「塩小さじ4分の1」のような分数が使われています。
トッピングをのせた生地は、円の直径を折り目として半分に折られます。著者らはこれを、直径を対称軸とする線対称(折り返すとぴったり重なる性質)の例として説明しています。さらに、複数枚を作るときに必要な小麦粉や卵の量を変数で表す例を示し、文字式や方程式といった代数の考え方にも触れています。
ルバナは、木の枠にヤギや牛の皮を張り、釘で留めて作る打楽器です。観察した楽器はおおよそ直径40センチ、枠の高さ8センチでした。打面は円、胴体は円柱とみなせます。職人は円周を四つに等分したうえで釘の本数を決めます。論文では、釘が32本の場合、円周125.6センチを32で割った約3.9が釘の間隔になり、一周360度を32で割った11.25度ずつ回転させると、釘の並びが元と同じに見えると説明しています。著者らはこれを回転対称(ある角度だけ回すと元の形と重なる性質)の例としています。演奏面では、4分の4拍子や4分の3拍子のような規則的なリズムに比や規則性の考え方が表れています。奏者どうしが拍の数え方をそろえることで、調和のとれた演奏になるとしています。
二つの対象を比べると、平面図形と立体図形、比、対称性という三つの概念が共通して見つかりました。
暮らしの中の数学を教材の手がかりに
研究チームは、屋台の菓子作りや伝統楽器の製作・演奏といった日常の営みに、学校で習う数学の基本的な概念が自然に含まれていると結論づけています。料理と楽器という性質の異なる二つの対象を組み合わせたことで、図形、分数、代数、比、対称性まで幅広い内容を拾い上げられた点を、著者らは本研究の新しさとしています。
一方で、この研究は概念を探り出して整理する段階のものです。教材として授業で使ったときの効果については、今後の実験的な研究で確かめることを著者らは提案しています。身近な菓子や楽器が抽象的な数学と子どもたちの日常をつなぐ入り口になりうること、そして地域文化を学びの場で受け継ぐ一つの方法になりうることを示した研究といえます。
原著論文の著者・所属:Rosherina Angeli(Pendidikan Matematika, Fakultas Keguruan dan Ilmu Pendidikan, Universitas HKBP Nommensen Pematangsiantar)、Resianna Dwipitri Situmorang(Pendidikan Matematika, Fakultas Keguruan dan Ilmu Pendidikan, Universitas HKBP Nommensen Pematangsiantar)、Rahel Jesika Simbolon(Pendidikan Matematika, Fakultas Keguruan dan Ilmu Pendidikan, Universitas HKBP Nommensen Pematangsiantar)、Dita Keysia Rotua Situmeang(Pendidikan Matematika, Fakultas Keguruan dan Ilmu Pendidikan, Universitas HKBP Nommensen Pematangsiantar)、Iyan Romando Purba(Pendidikan Matematika, Fakultas Keguruan dan Ilmu Pendidikan, Universitas HKBP Nommensen Pematangsiantar)、Betaria Dosma Saroha(Pendidikan Matematika, Fakultas Keguruan dan Ilmu Pendidikan, Universitas HKBP Nommensen Pematangsiantar)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Rosherina Angeli, Resianna Dwipitri Situmorang, Rahel Jesika Simbolon, Dita Keysia Rotua Situmeang, Iyan Romando Purba, Betaria Dosma Saroha EKSPLORASI ETNOMATEMATIKA PADA MARTABAK MANIS BANGKA DAN ALAT MUSIK REBANA PENGIRING DAMBUS. SCIENCE Jurnal Inovasi Pendidikan Matematika dan IPA 2026-08-15. DOI: 10.51878/science.v6i3.13348. 原著ライセンス:CC BY-SA 4.0.
本紹介記事の文章(題名・見出しを含む)は、CC BY-SA 4.0で提供します。原著論文をもとにNutriMap Japanが日本語で要約・説明を加えています。対象は本紹介記事の文章に限り、ヒーロー画像・サイトのロゴ・画面デザイン・他の記事・データベース全体は含みません。