著者の所属・活動拠点の国は、中国です。
掲載誌:Foods
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
冷蔵の鶏肉は、保存中にしみ出る肉汁や微生物の増殖、脂質の酸化によって品質が落ちやすい食品です。そのため、鮮度を保つ包装の工夫が求められています。研究チームが注目したのは、カニの殻などから得られる多糖類のキトサンと、生分解性の合成高分子であるポリビニルアルコール(PVA)の組み合わせです。キトサン単独の膜は水に弱く強度も低く、PVAは水に溶けやすく抗菌性に乏しいという弱点があります。両者を混ぜた複合フィルムは、この弱点を補えると考えられています。
著者らはこの複合フィルムに、生薬「冬凌草」の主な有効成分であるオリドニンを加えました。オリドニンは、これまでの報告で食中毒菌などの増殖を抑えることが示されています。一方、オリドニンを包装フィルムや食べられるコーティングに使った研究は少ないとされます。本研究の目的は、オリドニンが膜の性質と抗菌性にどう影響するかを調べ、冷蔵鶏むね肉での保存効果を確かめることでした。
何を調べたか
研究チームは、PVAとキトサンの混合液にオリドニンを加えました。濃度は0、25、50、75、100μg/mLの5段階です。この液を皿に流し込んで乾かし、フィルムを作りました。そのうえで、厚さ、光の透過率、引っ張り強さと伸び、水のはじきやすさ、吸水性、水蒸気の通しやすさ、表面の微細な構造などを調べました。抗菌性は、黄色ブドウ球菌、リステリア菌、大腸菌に対して評価しました。
保存試験では、鶏むね肉への使い方を2通り比べました。1つは、あらかじめ作ったフィルムで肉を包む方法です。もう1つは、膜を作る前の液に肉を30秒浸し、乾かして表面に薄い膜を作るコーティングの方法です。比較用には、市販のポリエチレンフィルムなどの群を設けました。肉は4℃で10日間保存し、2日ごとに次の項目を測りました。生菌数(生きた細菌の数)、pH、揮発性塩基窒素(腐敗に伴って増える成分の量)、TBARS(脂質の酸化の進み具合を示す指標)です。
主な結果
オリドニンを加えても、フィルムの厚さは変わりませんでした。光の透過率はオリドニンが増えるほど低下し、著者らはこれを光を遮る性質が加わったものと解釈しています。引っ張り強さと伸びは75μg/mLで最も高くなりました。オリドニンを含まない膜の26.15MPa・105.13%に対し、31.30MPa・165.88%でした。100μg/mLではかえって低下しました。水をはじく角度(接触角)はわずかに大きくなりましたが、どの膜も水になじみやすい性質の範囲にとどまっています。吸水率と水蒸気の通しやすさは、オリドニンの添加によって低下しました。論文は、75μg/mLの膜が3種類の細菌すべてに対してはっきりした抗菌活性を示したと報告しています。
鶏むね肉の保存試験では、生菌数が対照群では4日目に腐敗の目安とされる6 log CFU/g近くまで増えました。これに対し、オリドニン入りコーティングの群は8日目まで目安を下回りました。揮発性塩基窒素は、コーティング群が8日目まで、フィルムで包んだ群が6日目まで、基準の25mg/100g以内に収まりました。脂質の酸化の指標も、6日目の値が対照群で約0.70mg/kgでした。これに対し、コーティング群は約0.31、フィルム群は約0.37にとどまりました。
著者らは、液に浸すコーティングのほうが、フィルムで包む方法よりも全体にやや優れていたとまとめています。理由として、オリドニンが肉の表面へ直接届きやすいこと、液が肉の表面に密着して隙間や残った酸素が減ることを挙げています。生菌数をもとに、対照群と比べて保存期間が4日延びたと見積もっています。
研究が示すこと
この研究は、生薬由来の成分オリドニンを加えることで、PVAとキトサンの複合膜の強さや耐水性が向上し、抗菌性も備わることを示しました。さらに、冷蔵鶏むね肉の品質低下を遅らせる結果も得られています。使い方によって効果に差が出た点も、包装材の設計を考えるうえでの手がかりになります。一方で著者らは、膜から食品へ移る成分の安全性や移行の挙動はまだ評価が必要だと述べています。
原著論文の著者・所属:Lunji Wang(College of Food and Bioengineering, Henan University of Science and Technology, Luoyang 471023, China)、Lintong Yang(College of Food and Bioengineering, Henan University of Science and Technology, Luoyang 471023, China)、Jiayi Zhao(College of Food and Bioengineering, Henan University of Science and Technology, Luoyang 471023, China)、Huijuan Li(College of Food and Bioengineering, Henan University of Science and Technology, Luoyang 471023, China)、Min Jiu(College of Food and Bioengineering, Henan University of Science and Technology, Luoyang 471023, China)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Lunji Wang, Lintong Yang, Jiayi Zhao, et al. Oridonin-Loaded Polyvinyl Alcohol/Chitosan Composite Films and Coatings: Characterization, Antibacterial Activity, and Preservation Efficacy on Chilled Chicken Breast. Foods 2026-10-21. DOI: 10.3390/foods15203756. 原著ライセンス:CC BY.