著者の所属・活動拠点の国は、アルジェリアです。
掲載誌:Theory and practice of meat processing
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
肉やひき肉は栄養と水分が多く、微生物が増えやすく、脂質の酸化も起こりやすい食品です。変色や異臭による品質低下に加え、食中毒菌による健康上のリスクもあります。これまで酸化防止には合成の保存料が広く使われてきましたが、安全性への懸念や、表示のシンプルな食品を求める消費者の声を背景に、植物由来の代替素材が探されています。
研究チームは、料理用ハーブとして知られるタラゴン(学名 Artemisia dracunculus)に注目しました。タラゴンはポリフェノールやフラボノイドを含むことが知られています。一方、著者らによれば、アルジェリア産のタラゴンを対象に、成分、抗酸化性、抗菌性、肉の保存への効果をまとめて体系的に調べた研究はこれまでありませんでした。そこで、抽出に使う溶媒の違いによって抽出物の性質がどう変わるかを調べ、さらに冷蔵牛ひき肉に加えたときの効果を検証しました。
何をどう調べたか
研究ではタラゴンの地上部を陰干しして粉末にし、水で薄めた3種類の溶媒(70%メタノール、70%エタノール、70%アセトン)に浸して成分を抽出しました。それぞれの抽出物について、ポリフェノール、フラボノイド、タンニンなどの含有量を測定しました。抗酸化性は、性質の異なる複数の試験(DPPH法、FRAP法、総抗酸化能)で評価しました。抗菌性は、大腸菌、緑膿菌、サルモネラ、黄色ブドウ球菌など5種類の標準菌株に対して、寒天培地上で菌の増殖を抑えた範囲(阻止円)の大きさを測って評価しました。
肉への応用試験には、食品用の抽出溶媒として認められているエタノールで作った抽出物を用いました。30グラムの牛ひき肉に、この抽出液を水で10%、30%、50%に薄めたもの、または原液(100%)を1ミリリットル混ぜました。比較用の対照には蒸留水を加えています。これらを4℃で5日間保存し、菌数、pH、脂質の酸化の程度、肉の色の変化を追跡しました。
主な結果
抽出量が最も多かったのはメタノールでした。しかし、ポリフェノール含有量(抽出物1グラムあたり没食子酸換算139.90ミリグラム)、フラボノイド含有量、総抗酸化能(同271.53ミリグラム)はいずれもアセトン抽出物が最も高い値を示しました。著者らはこの結果から、抽出量の多さと有効成分の豊富さは必ずしも一致せず、溶媒の性質(極性)が抽出される成分を左右すると述べています。
抗菌試験では、どの抽出物も5菌株のうち少なくとも4菌株の増殖を抑え、細胞壁の構造が異なるグラム陽性菌とグラム陰性菌の両方に効果を示しました。ただし、阻止円の大きさは、比較に用いた抗生物質ゲンタマイシンに比べると小さいものでした。
牛ひき肉の試験では、エタノール抽出物の濃度が高いほど菌の増加が抑えられました。原液を加えた肉では、5日目の一般生菌数(空気中で常温付近の温度で増える細菌の総数の目安)が対照より対数値で4.1低くなりました。これは菌数がおよそ1万分の1を下回る水準に相当します。黄色ブドウ球菌は1グラムあたり対数値1.5まで抑えられました。脂質酸化の指標であるTBARS値は対照より61.5%低く、肉の赤みも保存期間を通じて対照よりよく保たれていました。pHについては、対照が5日目に腐敗の目安とされる値を超えたのに対し、抽出物を加えた肉では低く抑えられました。ただし著者らは、この差の一部は抽出液自体の酸性によるものだと説明しています。
研究が示すこと
この研究は、タラゴン抽出物の成分や働きが抽出に使う溶媒によって大きく変わることを示しました。さらに、食品に使いやすいエタノール抽出物でも、冷蔵した牛ひき肉の菌の増加と脂質の酸化を抑える効果が報告されました。著者らは、タラゴン抽出物、とくにエタノール抽出物が、合成保存料に代わる天然の保存素材として有望だと結論づけています。
一方で著者らは、試験の限界も挙げています。官能評価(人が実際に味や香りを確かめる試験)は行っておらず、高濃度ではタラゴン特有のアニスに似た香りが受け入れられやすさに影響する可能性があります。また、対照に加えたのが蒸留水だった点にも触れています。地域で手に入る植物を肉の品質保持に生かす可能性を、具体的な測定値で示した報告といえます。
著者:Soraya Hihat(Department of Food Science, Faculty of Natural Science and Earth and Universe, University Mohamed El Bachir El Ibrahimi)、Noureddine Touati(Department of Food Science, Faculty of Natural Science and Earth and Universe, University Mohamed El Bachir El Ibrahimi)、B. Madagh(Department of Food Science, Faculty of Natural Science and Earth and Universe, University Mohamed El Bachir El Ibrahimi)、Hanane Abed(Laboratory of Health and Environment, University Mohamed El Bachir El Ibrahimi)、Khodir Madani(Laboratory of Biomathematics, Biophysics, Biochemistry and Scientometry, University of Bejaia)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Soraya Hihat, Noureddine Touati, B. Madagh, et al. Solvent-dependent phytochemical, antioxidant, and antibacterial properties of Artemisia dracunculus L. extracts and their biopreservative efficacy in refrigerated minced beef. Theory and practice of meat processing 2026-10-11. DOI: 10.21323/2414-438x-2026-11-3-227-237. 原著ライセンス:CC BY.