日本関連:この研究は海外機関を中心とする国際共同研究で、日本の研究機関に所属する共著者が参加しています。参加国は中国、日本です。
掲載誌:Foods
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究のねらい
ブドウが熟す時期の気温が高くなると、収穫が早まり、ワインはアルコールが高く酸味が弱くなる傾向があると考えられています。雨の量もブドウの生育や病気の出やすさを通じてワインの成分に影響します。こうした気候の影響は年ごとの変動も大きいため、複数の年のワインを比べることが重要だとされています。
シャルドネは世界中で栽培される代表的な白ワイン用品種です。品種そのものの香りは比較的控えめで、ワインの香りはブドウ由来の成分と、発酵中に酵母がつくる成分の両方によって形づくられます。
研究チームは、東アジアの主要産地である中国の山東半島と日本の中国地方に注目しました。両地域は地理的条件も生育期の気候も異なりますが、複数年にわたって両国の市販シャルドネを直接比べた研究は限られていました。そこで著者らは、同じ分析方法で両地域のワインを比べ、産地や収穫年に関連した違いを記述すること、さらに生育期の気候指標との統計的な関連を探索的に調べることを目的としました。著者らは、広く産地全体の特徴を一般化したり、気候が直接の原因であると結論づけたりすることは目的としていないと明記しています。
何をどのように調べたか
対象は、山東半島の4つのワイナリーと中国地方の4つのワイナリーが造った市販のシャルドネで、2022年と2023年の2つの収穫年を合わせた16本です。各ワイナリー・各年について1本ずつを分析しており、同じ銘柄の別のボトルや別の製造ロットを比べたものではありません。
気候については、ブドウの産地に対応する地点の気象データ(気象再解析データ)から、4月から9月の生育期や8月の成熟期について、平均気温、昼夜の寒暖差、降水量、生育期の暖かさを積算した指標(GDD)などを計算しました。
ワインについては、アルコール、酸度、pH、残糖などの基本成分を測ったほか、ガスクロマトグラフィー質量分析という方法で香り成分を定量しました。さらに、各成分の濃度を人が匂いを感じ取れる最小濃度(閾値)で割った「香気活性値(OAV)」を求め、成分を果実、花、脂肪様などの香りのグループに分けて集計しました。加えて、訓練を受けた16人の評価者が、柑橘、トロピカルフルーツ、ナッツ、トーストなど10項目の香りや味の強さを、銘柄を伏せた状態で評価しました。
主な結果
気候をみると、山東半島の産地は中国地方より一貫して暖かく、両地域とも2023年は2022年より暖かい年でした。一方で雨の傾向は分かれ、2023年は中国地方で降水が増えたのに対し、山東半島では大きく減りました。
基本成分では、中国地方のワインは全体として酸度が高くpHが低く、山東半島のワインはpHが高く酸度が低い傾向でした。2023年のワインの多くは2022年に比べてpHが高く酸度が低く、山東半島のいくつかのワインではアルコールも高くなっていました。
香り成分は38種類が定量され、どのワインでもアルコール類が全体の71.3〜85.8%、エステル類が12.8〜26.2%を占め、発酵由来の成分が骨格をなす典型的な構成でした。品種由来のテルペン類はごく微量でしたが、閾値が非常に低いため少量でも香りに関わりうるとされています。地域別では、中国地方のワインで花の香りをもつ2-フェニルエタノールが多く、エステル類の総量もおおむね高めでした。一方、山東半島のいくつかのワインでは2,3-ブタンジオールが目立って多くみられました。
収穫年による違いもみられました。山東半島のワイン全体でエステル類の総量を年ごとに平均すると、2022年の48.4mg/Lに対して2023年は63.3mg/Lと高くなっていました。これに対し、中国地方のワインでは2023年のエステル類の総量が2022年よりわずかに低くなっていました。
香気活性値では、すべてのワインで果実系の香りの寄与が最も大きく、山東半島のワインは果実系と脂肪様の値がおおむね高く、中国地方のいくつかのワインは花の香りの寄与が比較的強いという結果でした。官能評価でも、中国地方のワインは柑橘の印象が強い傾向があり、山東半島のワインは甘い果実やトロピカルフルーツの印象が強い傾向でした。
気候指標と成分の関連を、偶然の一致を抑える統計的補正をかけて調べたところ、明確な関連として残ったのは、生育期の暖かさの積算値(GDD)が大きいほどテルペン類の総量が少ないという負の関連だけでした。また、香り成分全体を使った分析では、2つの地域のワインははっきり分かれず大きく重なっており、年による変化の大きさや向きもワイナリーごとに異なっていました。
この研究が示すこと
今回調べた市販ワインの範囲では、中国地方のシャルドネは酸がしっかりして花や柑橘の印象が強く、山東半島のシャルドネは果実味が前に出る傾向がみられました。ただし著者らは、これは調べたワインの中でのパターンであり、産地全体の特徴を示すものではないと強調しています。
また、醸造方法、瓶詰め後の経過期間、瓶内での変化などはそろえられておらず、樽の使用や酵母の種類、残糖といった造り手側の要因が、気候以上に味わいに直接影響している可能性もあります。そのため、気候指標と成分の関連は因果関係ではなく探索的なものと位置づけられています。この研究は、気候、成分、香り、官能評価を同じ枠組みで並べることで、東アジアの二つの産地のシャルドネにみられる違いを具体的に描き出した報告といえます。
原著論文の著者・所属:Dongyue Yang(Winegrape and Wine Technological Innovation Center of Shandong Province, Shandong Academy of Grape, Jinan 250100, China)、Yang Yang(Winegrape and Wine Technological Innovation Center of Shandong Province, Shandong Academy of Grape, Jinan 250100, China)、Ruirui Li(Winegrape and Wine Technological Innovation Center of Shandong Province, Shandong Academy of Grape, Jinan 250100, China)、Xiaohong Tang(Winegrape and Wine Technological Innovation Center of Shandong Province, Shandong Academy of Grape, Jinan 250100, China)、Ke Zhong(Winegrape and Wine Technological Innovation Center of Shandong Province, Shandong Academy of Grape, Jinan 250100, China)、Yoshiyuki Murata(Graduate School of Environmental and Life Science, Okayama University, Okayama 700-8530, Japan)、Fumio Fukuda(Graduate School of Environmental and Life Science, Okayama University, Okayama 700-8530, Japan)、Zhiyu Li(Winegrape and Wine Technological Innovation Center of Shandong Province, Shandong Academy of Grape, Jinan 250100, China)、Yuxia Sun(Winegrape and Wine Technological Innovation Center of Shandong Province, Shandong Academy of Grape, Jinan 250100, China)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Dongyue Yang, Yang Yang, Ruirui Li, et al. Regional and Vintage-Associated Differences in Commercial Chardonnay Wines from the Shandong Peninsula and the Chugoku Region: Physicochemical, Volatile, and Sensory Profiles with Exploratory Associations with Growing-Season Climate. Foods 2026-10-12. DOI: 10.3390/foods15203627. 原著ライセンス:CC BY.