著者の所属・活動拠点の国は、中国です。

掲載誌:Journal of Food Composition and Analysis

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

高麗人参は食品素材やサプリメントとして広く使われており、加工法によって成分や性質が変わることが知られています。生の人参を蒸して乾燥させたものが紅参で、蒸す工程を繰り返して黒く仕上げたものは黒参と呼ばれます。蒸す過程で、人参の代表的な成分であるジンセノサイド(人参に含まれるサポニンの一群)が、もとの量が少ない「レアジンセノサイド」へ変わることが報告されてきました。

著者らによると、これまでの研究の多くは成分を一種類ずつ調べるか、高温で蒸した人参を対象にしていました。そこで研究チームは、比較的穏やかな温度で蒸した黒参を対象に、ジンセノサイド、糖類、アミノ酸の三つをまとめて比較しました。さらに、それらの成分が人参の根のどの組織に分布するかも可視化しようとしました。

何をどのように調べたか

比較したのは8種類の試料です。生の高麗人参、紅参、アメリカ人参と、高麗人参とアメリカ人参をそれぞれ凍結乾燥したもの、そして3種類の黒参です。黒参は、生の高麗人参、アメリカ人参、紅参を、70℃・湿度60%の条件で16日間蒸し続けて作りました。蒸す日数による変化を追った結果、レアジンセノサイドの合計量が最も多くなったのは、生の高麗人参とアメリカ人参由来の黒参では11日目、紅参由来では15日目でした。この時点の試料が以降の比較に使われました。

成分の分析には、混合物を成分ごとに分けたうえで分子の質量を測る液体クロマトグラフィー質量分析(UPLC-MS)を用いました。ジンセノサイド19種、糖類9種、アミノ酸21種の計49成分の量を測ったほか、より多くのジンセノサイドを網羅的に探索しました。得られたデータは、多数の成分の情報をまとめて試料の違いを判別する統計手法(PLS-DA)で解析しました。

また、DESI-MSIと呼ばれる質量分析イメージングも用いました。これは薄く切った組織の表面に溶媒を吹き付けて分子を取り出し、その場で質量を測ることで、どの成分が組織のどこにあるかを画像として示す方法です。この方法で、生の高麗人参と黒参の断面を比較しました。

主な結果

論文によると、8試料全体で224種のジンセノサイドが見つかり、そのうち19種は標準物質で確認され、残りは分子が壊れる際のパターンや既存の文献をもとに推定されました。224種のうち128種は3種類の黒参でのみ検出され、著者らは蒸す工程で生じた成分と考えています。量の測定では、黒参でRg3、Rg5、Rk1などのレアジンセノサイドが多くなりました。著者らは、糖の結合がはずれて極性の高い主要なジンセノサイドが極性の低いレアジンセノサイドへ段階的に変わる経路を提案しています。

糖類では、黒参でブドウ糖と果糖が他の試料より多く、ショ糖などのオリゴ糖は大きく減っていました。ショ糖は生の高麗人参の1gあたり8.44mgから、黒参では0.06mgに低下したと報告されています。アミノ酸では、アルギニンなどの塩基性アミノ酸が黒参で少なく、アルギニンは生の人参の67.91mg/g、凍結乾燥人参の71.71mg/gから、黒参では13.99mg/gに減りました。著者らは、糖とアミノ酸が反応して褐色の物質を生むメイラード反応の関与を考えていますが、その反応生成物は直接測っていないため、ほかの熱による分解なども関わりうるとしています。

3種類の黒参を比べると、紅参をさらに蒸した黒参でレアジンセノサイドが必ずしも多くなるわけではなく、アメリカ人参由来の黒参で、高麗人参由来の黒参に比べてRg3が2.83倍多いなど、複数のレアジンセノサイドが多くなっていました。統計解析では、3種類の黒参とそれ以外の5試料がはっきり二つのグループに分かれました。両者を区別する主要な指標として、7種のレアジンセノサイド、果糖、ショ糖、アルギニンの計10成分が挙げられました。

イメージングでは、黒参のレアジンセノサイドに対応する信号が、根の師部と形成層で強く、木部では弱く、中心部の髄ではほとんど見られませんでした。生の人参ではこれらの信号はかなり弱いものでした。二糖や三糖の信号は蒸した後に弱まり、分布範囲も狭くなりました。アルギニンは主に師部に分布し、黒参では生の人参より少なくなっていました。なお著者らは、これらの画像は組織による取り出しやすさの違いも受けるため、絶対量ではなく相対的な分布として解釈すべきだとしています。

研究が示すこと

この研究は、穏やかな温度で繰り返し蒸す工程によって、ジンセノサイドの変換、糖の分解、アミノ酸の減少が連動して起こり、黒参特有の成分構成が生まれることを、成分の量と組織内の分布の両面から示しました。著者らは、これらの知見が黒参を食品素材として開発する際や、食品産業での品質管理に役立つとしています。

原著論文の著者・所属:Simeng Shao(Jilin Ginseng Academy, Changchun University of Chinese Medicine, Changchun, 130117, China; Public Experimental Center, Changchun University of Chinese Medicine, Changchun, 130117, China)、Yi Wu(Public Experimental Center, Changchun University of Chinese Medicine, Changchun, 130117, China)、Peng Yu(College of pharmacy, Changchun University of Chinese Medicine, Changchun, 130117, China)、Xilin Wan(Jilin Ginseng Academy, Changchun University of Chinese Medicine, Changchun, 130117, China)、Hongmei Yang(Public Experimental Center, Changchun University of Chinese Medicine, Changchun, 130117, China)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Simeng Shao, Yi Wu, Peng Yu, et al. Unraveling metabolic heterogeneity in black ginseng using integrated UPLC-MS and DESI-MSI with multivariate data analysis. Journal of Food Composition and Analysis 2026-08-26. DOI: 10.1016/j.jfca.2026.109482. 原著ライセンス:CC BY.