著者の所属・活動拠点の国は、アメリカ、フィリピン、ネパールです。

掲載誌:BMC Public Health

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的:学校の食環境を変えられるか

フィリピンの学齢期の子どもは、低栄養と過体重・肥満が同時に存在する「栄養不良の二重負荷」に直面しています。論文によると、2019年に評価された約1270万人の子どものうち13.2%が発育阻害または消耗症の状態にありました。また、5〜10歳の肥満の割合は2013年の9%から、2021年には10〜14%に上昇しました。著者らは、その背景の一つとして食事の多様性の乏しさを挙げています。学校給食に占める果物と野菜の割合はおよそ5〜6%にとどまり、加工度の高い高エネルギー食品の摂取が増えているといいます。

フィリピンでは、教育省が学校食堂で扱う食品について方針を定めています。中心となるのは2017年の教育省令第13号(DO13)で、食品を緑・黄・赤の信号色に分類しています。緑は毎日提供してよい食品、黄は週1〜2回まで、赤は提供しない食品です。ただし、資源の不足、監視体制の弱さ、校外の売り手との競合などにより、こうした方針は現場で十分に実行されていません。

そこで研究チームは、学校菜園の改善、食堂メニューの改善、調理担当者への栄養研修を組み合わせた試行的な取り組み「Fueling Bright Futures」を評価しました。目的は三つです。取り組みの効果を確かめること、関係者の視点から運営上の課題を探ること、そして他の学校へ広げられるかを検討することです。

どのように調べたか

研究の舞台は、フィリピン・カビテ州にある公立小学校3校です。規模は小・中・大と異なり、いずれも教育省の統合的な学校栄養モデルに参加していて、菜園と食堂をすでに備えていました。調査期間は2024年4月から2025年2月までの11か月間です。

取り組みは四つの要素で構成されています。一つ目は、気候の変化に強い在来作物などを使って菜園の作物を多様化し、収穫物を食堂に届ける仕組みを強めることです。二つ目は、DO13に沿った食堂メニュー改善への技術支援です。三つ目は、調理担当者と食堂管理者への栄養研修、四つ目は、校長ら管理職への働きかけです。

評価には、数値データと聞き取りなどの質的データを組み合わせる「混合研究法」が用いられました。数値面では、菜園の機能を点検表で採点し、食堂の献立を信号色の分類に沿って取り組みの前後で比較しました。質的な面では、各校で食堂職員や教員、管理職と話し合う場を設け、計13人から意見を聞き取りました。さらに、教育省や保健省、国際機関などから約50人の関係者が集まる参加型ワークショップを2回開きました。そこでは、介入の拡大可能性を評価する枠組み「ISAT」を使い、21人の代表者が各評価領域を0〜3点で採点しました。

主な結果:前進と残る課題

菜園は3校とも良好に機能しており、機能スコアは18点満点中14〜16点でした。どの菜園でも少なくとも3種類の野菜・豆類と1種類の果樹が育てられていました。食堂の管理者は、アマランサス、バナナ、キャッサバ、パパイヤ、ナス、ササゲなどの収穫物を料理に取り入れていました。一部の学校では果物の種類が減りましたが、野菜の種類は全体として増えたと報告されています。

食堂の献立では、DO13を完全に満たした学校はありませんでした。それでも、計画上の献立には明確な改善が見られました。A校では週あたりの「緑」の品目が2から11に増えました。B校では「黄」が30から9に、「赤」が10から2に減り、C校では「赤」が13から4に減りました。料理そのものも見直され、加工肉を植物性たんぱく質に置き換えたり、卵や菜園の野菜を加えたり、伝統料理の塩・油・砂糖を控えたりする工夫が行われました。

一方で、研究チームは信号色の分類だけでは見えない差にも注目しました。A校で増えた「緑」の品目は、取り組み終了時点でその55%が袋入りの包装食品でした。これに対し、B校では緑に占める包装食品の割合が20%から9%に下がり、C校でも62%から58%へとわずかに下がりました。B校とC校では、新鮮な菜園由来の食品への移行が見られたことになります。聞き取りでは、改善を妨げる要因として、資金不足、調理時間の不足、設備の不十分さ、菜園の収穫の不安定さが挙がりました。校外の売り手が基準に合わない食品を売る「ベンダーリーケージ」も、改善の効果を弱める要因として指摘されました。

関係者の話し合いからは、食べ物の受け止め方が少しずつ変わった様子も報告されています。子どもたちは、当初は雑草だと思っていた植物が食べられると知りました。野菜をなじみのある料理に混ぜ込むことで、受け入れが進みました。校外の売り手より校内の食堂で買う傾向が強まったという声もありました。ISATの採点では、取り組みの忠実性と適応、普及と受容性、提供体制と人材の各領域が3点満点中2.3点でした。これに対し、実施のための基盤(道具・設備・資金)と持続可能性は1.7点にとどまりました。全体として取り組みは有望で拡大に値すると判断され、段階的に対象校を広げることが提言されました。

この研究が示すこと

この研究は、菜園・食堂・研修を結びつけることで、資源の限られた公立学校でも食堂で出される食べ物の質と多様性を改善できる可能性を示しました。同時に、その成果は学校ごとに大きく異なりました。著者らは、校長のリーダーシップ、菜園の多様さ、設備、保護者や地域の関わりといった条件が、方針への形式的な適合を新鮮な食品の提供にまで結びつけられるかどうかを左右したと考察しています。

なお、研究は1州の3校のみを対象とし、期間も短く、自己申告に基づくデータも含まれます。そのため、結果をどこまで一般化できるか、長期的な効果があるかについては限界があると著者らは述べています。それでもこの事例からは、学校の食環境を変えるには、良い方針を定めるだけでなく、現場で使いやすい道具や設備、そして関係者が責任を分かち合う体制が欠かせないことが読み取れます。

原著論文の著者・所属:Mai A. Hoang(Helen Keller Intl, New York, NY, USA)、Patricia Isabel A. Matienzo(Helen Keller Intl, Manila, Philippines)、Diana Jean Umali(International Institute of Rural Reconstruction, Cavite, Philippines)、Ma. Shiela Anunciado(International Institute of Rural Reconstruction, Cavite, Philippines)、Lisa Littrell(Helen Keller Intl, New York, NY, USA)、Susan del Rio(International Institute of Rural Reconstruction, Cavite, Philippines)、Aman Sen Gupta(Helen Keller Intl, Kathmandu, Nepal)、Tom van Mourik(Helen Keller Intl, New York, NY, USA)、Lauren DeVol(Johns Hopkins Bloomberg School of Public Health, Baltimore, MD, USA)、Rolf Klemm(Helen Keller Intl, New York, NY, USA; Johns Hopkins Bloomberg School of Public Health, Baltimore, MD, USA)、Emilita Monville-Oro(International Institute of Rural Reconstruction, Cavite, Philippines)、Dolly Reario(Helen Keller Intl, Manila, Philippines)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Mai A. Hoang, Patricia Isabel A. Matienzo, Diana Jean Umali, et al. Fueling Bright Futures: a mixed-methods case study on integrating gardens, canteens, and nutrition training in philippine public schools. BMC Public Health 2026-07-29. DOI: 10.1186/s12889-026-28430-w. 原著ライセンス:CC BY.