著者の所属・活動拠点の国は、フィリピンです。

掲載誌:Zenodo (CERN European Organization for Nuclear Research)

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

フィリピンには「カリンデリア」と呼ばれる小さな大衆食堂が数多くあり、手頃な価格で身近に食事をとれる場として人々の暮らしを支えています。店主の多くは自ら調理を担い、上の世代から受け継いだレシピや調理法に頼っています。こうした方法は食文化を守る一方で、科学的な根拠のない思い込みが混じっている場合もあります。

著者は、科学的根拠がないのに事実のように信じられ、習慣として定着した食べ物に関する考えを「食の言い伝え(フードミス)」と呼んでいます。論文によると、フィリピンでは2013年に食品安全法が制定されましたが、食中毒の報告や安全とはいえない伝統的な扱い方は続いています。対象地域であるマスバテ州マンダオン町では、こうした実態を示す地域のデータが不足していました。そこで研究チームは、同町のカリンデリア店主がどのような調理の言い伝えや実践を持ち、それをどの程度守っているのかを明らかにすることを目指しました。調査結果をもとに、安全な食品の扱い方を伝える手引きを作ることも目的に含めています。

どのように調べたか

調査には、数値で傾向をつかむ量的な方法と、本人の言葉から考え方を読み取る質的な方法を組み合わせた「混合研究法」が用いられました。対象は、町内26のバランガイ(フィリピンの最小行政単位)で営業し、正式に登録されたカリンデリアの店主30人です。調理に直接関わっている人を、研究の目的に合わせて意図的に選んでいます。

店主には、年齢や性別、学歴、宗教、営業年数などを尋ねる質問紙に加えて、それぞれの言い伝えをどのくらい実践しているかを答えてもらいました。調理にまつわる信念や習慣については自由に語ってもらい、その内容を繰り返し現れるテーマごとに整理する「テーマ分析」で読み解きました。なお、この研究は本人の申告に基づいており、食品の検査や細菌の分析は行っていません。

主な結果

回答した店主は女性が8割を占め、多くは中年から壮年期の人でした。大学卒業者やローマ・カトリック信者が多く、営業年数が8年を超える人が大半でした。調理のやり方は、伝統や文化的な信念、個人の経験から強い影響を受けていたと報告されています。

語られた内容は、清潔さと食の安全に関する言い伝え、肉を柔らかくする方法、容器と保存に関する考え、伝統的な調理法、食にまつわる儀式や迷信、伝統的な方法をもう行っていないという声、の六つのテーマに整理されました。たとえば、肉や野菜は洗った水が透明になるまで何度も洗えば菌がいなくなる、ゆでている鍋に氷やフォーク、スプーンを入れると肉が早く柔らかくなる、揚げ油に酢を加えるとカリッと仕上がる、といった考えが挙がりました。マリネには洗いにくいプラスチック容器ではなくステンレス容器を使うべきだという意見や、料理がよく売れるように調理中に祈ったり、出す前に十字を切ったりするという習慣も語られています。

著者らは、先行研究を引きながらこれらの考えを検討しています。洗った水が透明になることを安全の目安にする考えについては、見た目のきれいさは微生物の面での安全性をよく示すものではないと指摘しました。肉を柔らかくする方法についても、食品科学の原理とは合わないとしています。一方、ステンレス容器を好む考えは、理由づけは不完全ながら、安全な扱い方と部分的に一致すると論じています。

言い伝えをどの程度守っているかは、全体として「ときどき実践している」という中程度の水準でした。最もよく実践されていたのは清潔さと保存に関する考えで、肉を柔らかくする言い伝えは最も実践の程度が低いという結果でした。こうした結果を受けて、研究チームはよくある誤解を正し、根拠に基づく安全な扱い方を伝える漫画形式の手引き『Kusina Serye Comics』を作成しました。

研究が示すこと

この研究は、地域の食を支える小さな食堂で、受け継がれてきた言い伝えが今も調理の場に生きている様子を、店主自身の言葉とともに描き出しました。著者は、伝統的な信念は依然として影響力を持つものの、店主たちのあいだでは、より安全で科学的な根拠に基づく食品の扱い方へ少しずつ移りつつあると結論づけています。

原著論文の著者・所属:Celedonio, Althea C.(University of Saint Anthony, Iriga City Dr. Emilio B. Espinosa Memorial State College of Agriculture and Technology, Philippines)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Celedonio, Althea C.. Exploration of the Food Preparation Myths and Practices among Carinderia Owners. Zenodo (CERN European Organization for Nuclear Research) 2026-07-28. DOI: 10.5281/zenodo.21627066. 原著ライセンス:CC BY.