食物繊維は腸内細菌によって発酵され、酢酸や酪酸などの短鎖脂肪酸を生み出すことが知られていますが、同じ種類の食物繊維をとっても、効果の出方には個人差が大きいことが課題とされてきました。誰にどの食物繊維が合うのかをあらかじめ見極める確立された方法はこれまで存在していませんでした。この研究は、その個人差に対応するための新しいスクリーニング手法を試験的に検証したものです。
「My Dietary Fiber Finder」という発想
研究チームは、個人の腸内細菌の働きに基づいて最適な食物繊維を予測する、体外(ex vivo)での機能スクリーニング基盤「My Dietary Fiber Finder(MyDFF)」を開発しました。参加者ごとに、便由来の腸内細菌を用いて複数の食物繊維を実際に発酵させ、糖化指数(saccharification index、SI)と呼ばれる指標を算出します。この指数が参加者ごとに最も高かった食物繊維を「M-PDF(個別最適化繊維)」、最も低かった食物繊維を「L-PDF(非個別化繊維)」として、その後の摂取試験に用いています。
試験は健康な日本人成人8名を対象としたクロスオーバーデザインで実施されました。各参加者が自分自身の対照ともなる形で、M-PDFとL-PDFをそれぞれ摂取する期間を設け、合計72件の縦断的な観察データが得られています。なお本研究の著者らは神戸大学大学院医学研究科および大学院農学研究科の研究センターに所属しており、日本国内の研究チームによる取り組みであることがうかがえます。
個別化した食物繊維で発酵指標が上昇
あらかじめ計画されていた参加者ごとの解析(Dunnett検定)では、M-PDF摂取によって便中の揮発性脂肪酸(酢酸・プロピオン酸・酪酸の合計、VFA)濃度がベースラインより有意に増加した参加者は8名中2名、短鎖脂肪酸(SCFA)合計濃度が有意に増加した参加者は8名中1名でした。一方、個別化していないL-PDFでは、有意な増加を示した参加者は0名でした。
事後的な集団レベルの解析では、M-PDFで総VFAと総SCFAの両方がベースラインに対して有意に増加した一方(いずれもp<0.01)、L-PDFでは有意な増加は見られませんでした。さらに参加者内でM-PDFとL-PDFを比較すると、8名中7名でM-PDFの反応がL-PDFを上回っており、平均差は32.4μmol/g(95%信頼区間8.7〜56.1、p=0.014、効果量を示すコーエンのdは1.14)でした。
ただし、発酵試験で得られたSIの差(M-PDFとL-PDFの差)の大きさと、実際に体内で観察されたVFA反応の差の大きさとの間には、統計的に意味のある相関は認められませんでした(ピアソンの相関係数r=0.082、p=0.85)。つまり、この体外試験は「どちらの繊維が優れているか」の傾向をある程度捉えられた可能性がある一方で、「どれだけ効果が出るか」という反応の大きさそのものを定量的に予測するには至らなかった、と著者らは述べています。
また、探索的に行われた16SリボソームRNA遺伝子シーケンス解析では、いずれの介入期間でも腸内細菌叢全体の構成に集団レベルでの有意な変化は見られませんでした。別途行われた4名の検証用ドナーでは、個々人の発酵プロファイルは3〜9か月の追跡期間を通じて比較的安定していたことも報告されています。
この研究の位置づけと読むうえでの注意
本研究は8名という少人数を対象にした概念実証(プルーフ・オブ・コンセプト)段階の試験であり、著者ら自身も体外試験のSI差が体内での反応量そのものを予測できなかった点を限界として挙げています。また、腸内細菌叢全体の構成への影響は今回の観察期間では確認されませんでした。研究は臨床試験登録(jRCTs051220163)のもとで実施されていますが、著者らはこの機能ベースの枠組みが個別化されたプレバイオティクス設計の可能性を支持するものであり、より大規模な検証研究が必要だと結論づけています。
まとめ
この研究では、個人の腸内細菌の発酵能力を事前に調べて食物繊維を選ぶという発想が試され、少人数ながら個別化した繊維の方が便中の短鎖脂肪酸を増やしやすい傾向が示されました。一方で、効果の大きさまで正確に予測できるかどうかは今後の課題として残されています。一つの予備的な研究であり、結論が確定したものではない点に留意が必要です。
※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Ro Osawa, Ro Osawa, Jun Inoue, et al. Function-based personalization of dietary fiber selection enhances gut microbial fermentation: a proof-of-concept crossover trial. フロンティアーズ・イン・ニュートリション (2026). DOI: 10.3389/fnut.2026.1907988.