著者の所属・活動拠点の国は、メキシコです。
掲載誌:Frontiers in Animal Science
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
食肉用の鶏(ブロイラー)の飼育では、動物の福祉を高める目的で、止まり木や台などを飼育場所に置く「環境エンリッチメント」が使われています。著者らによると、どの形が好まれるのか、行動や生産成績、肉質にどう影響するのかについて、これまでの研究結果はまちまちでした。また、開放型の鶏舎で、エンリッチメントが行動や脚の健康、肉質に与える影響を調べた情報は限られていました。
そこで研究チームは、生きている間の評価と、と畜後の肉の評価を組み合わせました。形の異なるエンリッチメントがブロイラーの脚の健康、行動、肉質にどのような影響を与えるのかを調べることが目的です。
何を調べたか
研究では、ふ化直後のコブ500種の雄300羽を、外気や自然光の影響を受ける開放型鶏舎で49日齢まで飼育しました。エンリッチメントは14日齢から置き、7日間の慣らし期間を設けました。21日齢で鶏を、何も置かない対照群、1段の止まり木の群、2段の止まり木の群、台(プラットフォーム)の群の4つに分けました。3種類の器具は、いずれも長さ90cm、高さ15cmにそろえ、形だけを変えています。
脚の状態は、体の表面温度を画像で測る赤外線サーモグラフィーで評価しました。測った部位は、左右の飛節(すねと足の間の関節)と足裏で、時期は21日齢と49日齢です。体表面温度の変化は、血流や炎症などと関係する手がかりとして使われています。行動は28日齢と42日齢の午前と午後に記録しました。対象は、止まり木に止まる、休む、食べる、飲む、羽づくろいです。さらに、と畜後のもも肉を0〜4℃で最長15日間保存し、pH、かみ切りに必要な力(硬さ)、色、電気伝導度、保水性(肉が水分を保持する能力)を調べました。
主な結果
飛節の表面温度は、全体として21日齢より49日齢のほうが低くなりました。例えば左の飛節では、平均36.42℃から34.87℃に下がっています。一方、2段の止まり木の群では、21日齢の時点ですでに他の群より飛節の温度が低く、年齢による差はみられませんでした。著者らは、この群の低い温度について、表に出ない関節の異常の可能性を示すものと解釈しています。足裏の温度変化も含めて、2段の止まり木は炎症反応と関係していた可能性があると論文は述べています。ただし著者らは、サーモグラフィーだけでは病的な変化を確定できず、組織の検査などによる確認が必要だとしています。
行動では、どの群でも成長とともに止まり木などを使う頻度が減りました。とくに台の群では、ほぼゼロにまで減りました。器具の利用は台が最も少なく、次に少なかったのは2段の止まり木でした。著者らは、材質や高さ、寸法といった設計の特徴が鶏の好みに影響したとみています。羽づくろいは午前より午後に多くみられました。食べる・飲む行動には群による差はありませんでした。
体重は群の間で差がなく、平均で21日齢に0.46kg、49日齢に2.76kgでした。また、体重が重い個体ほど体表面の温度が低いという、弱い負の相関が報告されています。
肉質では、硬さに群や保存期間による差はありませんでした。pHや色には、一部の群で保存中の変化がみられました。保水性については、2段の止まり木の群と台の群で、保存の後半に値が高くなりました。著者らは、2段の止まり木が硬さを損なわずに保存後半の保水性を高め、肉の加工特性として最もバランスがよかったと評価しています。台は利用が少なかったものの、鶏が餌や水に向かう途中で台を回り込んだり乗り越えたりする「障害物」として働き、運動量が増えた可能性があるとしています。
研究が示すこと
この研究では、エンリッチメントは体重には影響しませんでした。一方で、一部の行動、脚の状態を示す温度、肉質には違いがみられました。著者らは、保水性の向上を福祉の向上の証拠と受け取るべきではないと注意を促しています。そのうえで、肉質の結果と、行動やサーモグラフィーの結果をあわせて考える必要があるとしています。また、今回の結果は成長の速いコブ500種と特定の器具設計に基づくものであり、他の品種や設計にそのまま当てはまるとは限らないことも、著者らは限界として挙げています。
止まり木や台を置くことが鶏にとって良いかどうかは、ひとつの指標だけでは判断しにくいことがわかります。生きている間の状態と肉の性質を組み合わせて評価することが大切だということを、この研究は示しています。
原著論文の著者・所属:Roberto Carlos Hernández-Sánchez(Universidad Nacional Autónoma de México, Facultad de Estudios Superiores Cuautitlán)、Francisco Ernesto Martinez-Castañeda(Universidad Nacional Autónoma del Estado de México, Instituto de Ciencias Agropecuarias y Rurales)、Juan Omar Hernández-Ramírez(Universidad Nacional Autónoma de México, Facultad de Estudios Superiores Cuautitlán)、Monica Paola Salcedo-Gómez(Universidad Nacional Autónoma de México, Facultad de Estudios Superiores Cuautitlán)、Victor-Manuel Díaz-Sánchez(Universidad Nacional Autónoma de México, Facultad de Estudios Superiores Cuautitlán)、Daniela Guadalupe Valencia-Viramonte(Universidad Nacional Autónoma de México, Facultad de Estudios Superiores Cuautitlán)、Iván Gerardo Olivares-Hernández(Universidad Nacional Autónoma de México, Facultad de Estudios Superiores Cuautitlán)、Janeli Solís-Garfias(Universidad Nacional Autónoma de México, Facultad de Estudios Superiores Cuautitlán)、María de la Luz Zambrano-Zaragoza(Universidad Nacional Autónoma de México, Facultad de Estudios Superiores Cuautitlán)、Elein Hernández-Trujillo(Universidad Nacional Autónoma de México, Facultad de Estudios Superiores Cuautitlán)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Roberto Carlos Hernández-Sánchez, Francisco Ernesto Martinez-Castañeda, Juan Omar Hernández-Ramírez, et al. Integrating infrared thermography, behavioral assessment, and meat quality analysis to evaluate the effects of environmental enrichment in broiler chickens. Frontiers in Animal Science 2026-10-16. DOI: 10.3389/fanim.2026.1976355. 原著ライセンス:CC BY.