著者の所属・活動拠点の国は、オーストラリア、ベトナムです。

掲載誌:Journal of Contemporary Asia

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

ベトナムでは、鶏は食べ物であるだけでなく、社会や文化のなかで大きな役割を担ってきました。一方で近年は、工業的な大規模生産による鶏肉産業が比較的短い間に急拡大しています。この論文は、ベトナム北部での研究をもとに、鶏が持つ社会的・文化的な役割と、産業的な鶏肉生産のブームとが、互いにどのように関わり合っているのかを考察したものです。

「ケア」と「社会的再生産」という視点

著者らが分析の土台としたのは、フェミニズムの研究で発展してきた「社会的再生産」と「ケア」の考え方です。社会的再生産とは、家族や人間関係、共同体の暮らしが日々維持され、受け継がれていく営みを指します。ケアとは、その営みを支える世話や気づかいの働きのことです。

論文は、鶏という生き物が、人間の社会のなかだけでなく、超自然的な世界との関わりにおいても、さまざまな形のケアの働きに組み込まれていると報告しています。そして、そうした働きが社会的再生産に役立っていると論じています。

白いブロイラーと色のついた鶏

論文によると、産業の拡大の鍵となったのは、生産量の多い新しいブロイラー(食肉用の鶏)品種の導入でした。鶏肉産業で広く使われている白いブロイラーは産業的な生産を象徴する存在になっていますが、人と人との社会的なやりとりや儀礼にはふさわしくないと考えられています。

そのため白いブロイラーは、多くの場合、既存の人間関係の外側での大量消費に回されています。これに対して、色のついた鶏は家庭の食事や儀礼、社会的なやりとりに好んで用いられていると論文は報告しています。

研究が示すもの

著者らは、商品化の動きと、人と動物の関係が持つ象徴的・文化的な側面とが、絶えず影響し合っている様子を描いています。色による区別は、鶏がケアの役割を担い続けることを可能にしてきました。しかし論文は、その色の区別自体が、新たな商品化の取り組みにも取り込まれつつあると指摘しています。

この研究は、同じ鶏でも品種や色によって社会のなかでの意味が異なり、産業化と文化的な価値づけが切り離せない形で絡み合っていることを伝えています。

原著論文の著者・所属:Sango Mahanty(Crawford School of Public Policy, The Australian National University)、Cầm Hoàng(Institute of Cultural Studies, Vietnam Academy of Social Sciences)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Sango Mahanty, Cầm Hoàng. The Unbearable Whiteness of Industrial Chickens: Care, Commodification, and Varietal Politics in Vietnam. Journal of Contemporary Asia 2026-10-05. DOI: 10.1080/00472336.2026.2736838. 原著ライセンス:CC BY.