著者の所属・活動拠点の国は、ブラジルです。
掲載誌:Food Chemistry
ライセンス: CC BY 4.0 対象: 公開論文 確認元: 論文PDF
研究の目的:デンプンを「酸化」して性質を変える
デンプンは食品や医薬品に広く使われる素材です。ただ、手を加えない天然のデンプンには、熱に弱い、かき混ぜる力に弱い、消化のされ方を調節しにくいといった弱点があります。そこで、化学的・物理的な処理で構造を変え、使いやすい性質を持たせる「加工デンプン」がつくられてきました。
その方法の一つが酸化処理です。従来は次亜塩素酸ナトリウムや過酸化水素といった薬剤が使われてきましたが、論文によると、反応の制御が難しいことや副生成物が課題とされています。一方、オゾンは反応後すぐに酸素へ分解して有害な残留物を残さないため、代わりの方法として注目されています。
研究チームは、ブラジル北東部で広く栽培・消費されている赤米のデンプンを材料に選びました。そして、オゾン処理と化学酸化剤による処理、さらに両者を組み合わせた「二重酸化」が、デンプンの構造、熱に対する性質、加熱したときの粘り、試験管内での消化されやすさにどのような違いをもたらすかを調べました。
何を比べたのか
比較したのは5種類の処理です。オゾンのみ(比較の基準)、次亜塩素酸ナトリウムのみ、過酸化水素のみ、そしてオゾンと次亜塩素酸ナトリウムの組み合わせ、オゾンと過酸化水素の組み合わせです。条件をそろえるため、いずれもデンプン20グラムを液250ミリリットルに分散させ、30℃で50分間かき混ぜながら反応させました。
処理後のデンプンについて、研究チームは多くの項目を測定しました。たとえば、酸化によってデンプン分子に生じる「カルボニル基」と「カルボキシル基」という化学構造の量、分子の広がりの大きさ、粒の形、結晶の状態、水と一緒に加熱したときに粒が膨らんで秩序を失う「糊化(こか)」の温度、加熱・冷却中の粘りの変化などです。
消化されやすさは、消化酵素を使った試験管内の実験で評価しました。開始から20分以内に分解される部分を「速く消化されるデンプン」、120分後も分解されずに残る部分を「難消化性デンプン(レジスタントスターチ)」として区別しています。
主な結果:組み合わせ処理で分解が最も強く進んだ
酸化で生じた化学構造は、薬剤によって傾向が異なりました。過酸化水素のみではカルボニル基が最も多く(100グラムあたり0.71ミリ当量)、カルボキシル基は最も少ない結果でした。次亜塩素酸ナトリウムのみでは逆に、カルボキシル基が最も多く(同0.80ミリ当量)、カルボニル基は最も少なくなりました。オゾンを組み合わせると、過酸化水素ではカルボキシル基が0.33ミリ当量に増え、次亜塩素酸ナトリウムではカルボキシル基0.55、カルボニル基0.35ミリ当量と、両者がより釣り合った構成になりました。
分子の広がりの大きさは、オゾンのみの処理で最も大きく、二つの組み合わせ処理で最も小さくなりました。とくにオゾンと次亜塩素酸ナトリウムの組み合わせでは、デンプンの主成分の一つであるアミロペクチンの値が約50%小さくなっており、研究チームはこれを分子が切断されて短くなった表れと解釈しています。顕微鏡で見ると、組み合わせ処理では粒の表面が強く削られたり、断片が集まったりする様子が観察されました。ただし、粒の大きさにはばらつきがあり、平均直径に統計的な差は認められませんでした。
加熱したときの粘りは、オゾンのみの処理で最も高く保たれ、化学酸化剤単独ではより低下し、組み合わせ処理で最も低くなりました。著者らは、オゾンを先に作用させることでデンプンが反応しやすくなり、後から加える薬剤の作用が強まったと考えています。また組み合わせ処理では、糊化が始まる温度などが上がる一方、糊化に必要な熱量は小さくなったと報告されています。
消化されやすさについて、論文は、酸化によってデンプンの規則正しい構造が崩れて酵素が作用しやすくなり、速く消化されるデンプンが増え、難消化性デンプンが減ったと報告しています。
この研究が示すこと
この研究は、オゾンと化学酸化剤を組み合わせると、どちらか一方だけの場合よりもデンプンの分解が強く進み、その結果として粘りや熱への反応、試験管内での消化のされ方が大きく変わることを示しました。著者らは、組み合わせ方によって分解の程度を調整し、目的に合った性質のデンプンをつくれる可能性があると述べています。また、オゾンを前処理として使えば化学酸化剤の必要量を減らせるとして、従来の一段階の化学酸化より効率的な方法になりうると結論づけています。なお、消化に関する結果は試験管内の実験によるものです。
原著論文の著者・所属:Raphael Lucas Jacinto Almeida(Department of Chemical Engineering, Federal University of Rio Grande do Norte, Avenida Senador Salgado Filho, Lagoa Nova, Natal, RN 59078-970, Brazil. Electronic address: [email protected])、Newton Carlos Santos(Department of Food Engineering, Federal University of Campina Grande, Rua Aprígio Veloso, 882 - Universitário, Campina Grande, PB 58429-900, Brazil)、Raphael da Silva Eduardo(Department of Chemical Engineering, Federal University of Campina Grande, Rua Aprígio Veloso, 882 - Universitário, Campina Grande, PB 58429-900, Brazil)、Ellen Cristina Nabiça Rodrigues(Department of Food Engineering, Federal Institute of Education, Science and Technology of Pará, Rodovia BR-316, Km 363 - Saudade, Castanhal, PA, 68740-970, Brazil)、Victor Herbert de Alcântara Ribeiro(Department of Agricultural Sciences, Federal University of Paraiba, Rodovia PB-079, Km 12, S/N, Zona Rural, Bananeiras, PB 58220-000, Brazil)、Virgínia Mirtes de Alcantara Silva(Department of Food Quality and Safety Management, State University of Campinas, Rua Monteiro Lobato, 80, Cidade Universitária "Zeferino Vaz", Campinas, SP 13083-862, Brazil)、Ana Carolina Nóbrega Leite(Department of Agricultural Engineering, Federal University of Campina Grande, Rua Aprígio Veloso, 882 - Universitário, Campina Grande, PB 58429-900, Brazil)、Rebeca de Almeida Silva(Department of Renewable Energy Engineering, Federal University of Pernambuco, Avenida Prof. Moraes Rego, 1235. Cidade Universitária, Recife, PE 50670-901, Brazil)、Yuri Barbosa Iguchi(Department of Veterinary Medicine, Federal Institute of Education, Science and Technology of Piaui, Rodovia BR-343, Km 3,5 - Zona Rural, Uruçuí, PI 64160-000, Brazil)、Aldira Oliveira de Carvalho e Silva Neta(Department of Food Engineering, Federal Institute of Education, Science and Technology of Pará, Rodovia BR-316, Km 363 - Saudade, Castanhal, PA, 68740-970, Brazil)、Karoline Queiroz Correia Menezes(Department of language, Federal Institute of Education, Science and Technology of Piaui, Rodovia BR-343, Km 3,5 - Zona Rural, Uruçuí, PI 64160-000, Brazil)、Marcio Nannini da Silva Florêncio(Department of Intellectual Property, Federal Institute of Education, Science and Technology of Piaui, Av. Pedro Freitas, 1020 - São Pedro, Teresina, PI 64019-368, Brazil)、Rayane Leite dos Santos(Department of Food Engineering, Federal University of Ceará, Av. da Universidade, 2853, Benfica, Fortaleza, CE 60020-181, Brazil)、Gilsandro Alves da Costa(Department of Food Engineering, Federal University of Paraiba, Campus I Lot. Cidade Universitária, João Pessoa, PB 58051-900, Brazil)、Artur Xavier Mesquita de Queiroga(Department of Food Engineering, Federal Institute of Education, Science and Technology of Mato Grosso, Avenida Universitária, 799, Residencial Santa Clara, Sorriso, MT 78180-000, Brazil)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Raphael Lucas Jacinto Almeida, Newton Carlos Santos, Raphael da Silva Eduardo, et al. Dually oxidized starch: Effect of combining ozone with chemical agents on in vitro digestibility and morphostructural and thermorheological properties. Food Chemistry 2026-10-28. DOI: 10.1016/j.foodchem.2026.151817. 原著ライセンス:CC BY.