著者の所属・活動拠点の国は、イギリス、オランダです。
掲載誌:Calcified Tissue International
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
年齢とともに筋肉の量や力、体を動かす能力が少しずつ低下していく状態は「サルコペニア」と呼ばれます。生活の質の低下や、病気・死亡のリスク上昇と関係することが知られています。栄養面の研究は、これまでたんぱく質を中心に進められてきました。
一方で、ビタミンCも筋肉の働きに関わる栄養素と考えられています。ビタミンCは、筋肉を包む結合組織の材料になるコラーゲンや、脂肪酸からエネルギーを作るのに必要なカルニチンの合成を助けます。ビタミンCが欠乏する壊血病では、筋力低下が症状の一つです。マウスの研究では、欠乏によって筋肉が萎縮し、欠乏を解消すると元に戻ることが報告されています。
ただし、人を対象とした研究の多くは食事からの摂取量を調べたもので、血液中のビタミンC濃度に着目した研究はわずかでした。また、男性だけ、あるいは女性だけを対象にした研究もありました。血中濃度は、食事だけでなく喫煙や病気、炎症など食事以外の要因も反映する、より客観的な指標とされています。そこで研究チームは、血中濃度と食事からの摂取量の両方について、筋力および身体機能との関連を男女別に調べました。
何をどのように調べたか
研究チームは、英国ノーフォーク地域の一般住民を長期にわたり追跡している大規模研究(EPIC-Norfolk)のデータを用いました。分析対象は、握力と身体機能が初めて測定された3回目の健康診断(2004〜2011年)の参加者8623人(48〜92歳)です。この研究は、ある一時点の状態どうしの関係を調べる「横断研究」にあたります。
血液中のビタミンC濃度は3段階に分けました。1リットルあたり25マイクロモル未満を「低い」、25以上50未満を「やや不十分」、50以上を「最適」としています。欠乏とされる水準の人はごく少数でした。食事からの摂取量は食物摂取頻度調査票で推定し、男女それぞれで摂取量の少ない順に5つのグループに分けました。なお、サプリメントからの摂取量の情報は得られていません。
筋力の指標には、体格の差を考慮した握力を用いました。身体機能の指標は2つで、4メートルの歩行速度と、腕を使わずに椅子から5回続けて立ち上がるのにかかる時間です。分析では、年齢、体格、喫煙、身体活動量、病歴、服薬、炎症の程度などの影響を統計的に取り除きました。食事の分析では、たんぱく質摂取量なども考慮しています。
主な結果
女性では、血中ビタミンC濃度が「最適」のグループと「低い」グループを比べると、次のような差がありました。体格を考慮した握力は約6.4%高く、歩行速度は秒速0.11メートル(約10.6%)速く、椅子からの立ち上がり時間は1.03秒(約7.7%)短いという結果でした。「やや不十分」のグループと比べても、「最適」のグループは歩行速度が速く、立ち上がり時間が短いことが示されました。
男性では、血中濃度が「最適」のグループは「低い」グループより、歩行速度が秒速0.05メートル(約4.4%)速く、立ち上がり時間が0.71秒(約5.6%)短いという結果でした。一方、男性の握力には関連が見られませんでした。年齢で分けた分析では、男性のこうした関連は65歳以上のグループでのみ認められました。
食事からの摂取量については、摂取量が最も少ないグループを基準に各グループを比べています。女性では、歩行速度は2番目と5番目のグループで秒速0.04メートル速くなっていました。立ち上がり時間は、4番目のグループで0.67秒、5番目のグループで0.57秒短くなっていました。ただし、摂取量が増えるにつれて段階的に良くなるという傾向が報告されたわけではなく、女性の握力との関連も見られませんでした。男性では全体として関連は見られず、65歳未満の男性で最も摂取量の多いグループの歩行速度が速いという結果のみでした。全体として、関連は食事からの摂取量より血中濃度のほうが、また男性より女性のほうがはっきりしていたと著者らは報告しています。
この研究が示すこと
著者らは、ビタミンCの状態を最適に保つことが、特に女性において、加齢に伴う筋力や身体機能の低下を防ぐ方向に働く可能性があると述べています。サルコペニアの予防や治療にも関係しうるとの見方です。また、欠乏状態の人がほとんどいない集団でも、血中濃度と筋力・身体機能の間に関連が見られたことも報告されています。
ただし、この研究は一時点のデータを比べた横断研究であり、ビタミンCが筋力や身体機能を高めたという因果関係を示すものではありません。著者ら自身も、ビタミンCの多い果物や野菜に含まれる他の成分や、健康的な生活習慣全般が結果に関わっている可能性を指摘しています。この研究は、食事からの摂取量だけでなく血液中のビタミンCの状態にも目を向けることが、加齢と筋肉の健康の関係を理解する手がかりになりうることを示しています。
原著論文の著者・所属:Jamie Scott(Department of Public Health, Norwich Medical School, University of East Anglia, Norwich, UK. [email protected]; Norwich Medical School, University of East Anglia, Norwich, NR4 7TJ, UK. [email protected])、Donnie Cameron(Department of Medical Imaging, Radboud University Medical Center, Nijmegen, The Netherlands; Norwich Medical School, University of East Anglia, Norwich, NR4 7TJ, UK)、Max Yates(Department of Public Health, Norwich Medical School, University of East Anglia, Norwich, UK; Department of Rheumatology, Norfolk and Norwich University Hospital, Norwich, UK; Norwich Epidemiology Centre, Faculty of Medicine and Health Sciences, Centre for Population Health, University of East Anglia, Norwich, UK; Norwich Medical School, University of East Anglia, Norwich, NR4 7TJ, UK)、Ailsa A. Welch(Department of Public Health, Norwich Medical School, University of East Anglia, Norwich, UK; Norwich Epidemiology Centre, Faculty of Medicine and Health Sciences, Centre for Population Health, University of East Anglia, Norwich, UK; Norwich Medical School, University of East Anglia, Norwich, NR4 7TJ, UK)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Jamie Scott, Donnie Cameron, Max Yates, et al. Optimal Vitamin C Status is Associated with Better Physical Performance in Men and Women from the EPIC-Norfolk Cohort: A Cross-Sectional Study. Calcified Tissue International 2026-10-24. DOI: 10.1007/s00223-026-01614-7. 原著ライセンス:CC BY.