この研究は、ヨルダン、サウジアラビア、アメリカ、リトアニア、イギリスの研究機関の研究論文です。

掲載誌:Food & Nutrition Research

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の背景と目的

2型糖尿病は、インスリンの分泌不足や効きにくさ(インスリン抵抗性)によって血糖値が高い状態が続く慢性の代謝疾患です。著者らによれば、ヨルダンでの2型糖尿病の割合は世界平均を上回り、とくに中高年で公衆衛生上の大きな課題になっています。同時に、ヨルダンではビタミンD不足も広くみられ、その背景として日光を浴びる機会の少なさ、伝統的な服装、ビタミンDを多く含む食品の摂取不足が指摘されています。

ビタミンDは、植物由来のD2(エルゴカルシフェロール)と、動物性食品や日光(紫外線B波)を浴びた皮膚でつくられるD3(コレカルシフェロール)に大きく分かれます。論文の解説によると、ビタミンDはカルシウムやリンの調節にとどまらず、活性型の物質を介してインスリンの分泌や効きやすさにも関わる可能性が報告されてきました。ただし、ヨルダンでは強化食品(栄養素を添加した食品)の利用が少なく、食事からのビタミンDが糖尿病患者の血糖コントロールにどう関わるかを調べた研究は限られていました。

そこで研究チームは、ヨルダンの2型糖尿病の成人を対象に、自然の食品と強化食品の双方から得られる食事性ビタミンDの摂取量と、長期の血糖状態を示す指標であるHbA1c(過去1〜2か月ほどの平均的な血糖の高さを反映する値)との関連を調べることを目的としました。あわせて、ヨルダンでよく食べられている食品に実際どれだけビタミンDが含まれているかを測定することも目的に掲げています。

何を、どのように調べたか

この研究は横断研究、つまりある一時点での状態をまとめて観察する設計です。著者らは、ヨルダンの都市部と農村部にある複数の公立病院の外来を受診した、2型糖尿病と診断済みの42〜69歳の成人240人を対象としました。ビタミンDの代謝に影響する病気がある人や、ビタミンD値を変える薬を使っている人は除外されています。なお、参加者は全員、月1回50,000国際単位(1日あたりおよそ1,666国際単位に相当)のビタミンD補充を受けていたと報告されています。

食習慣は、妥当性が確認された食物摂取頻度調査票を用いて、魚・乳製品・強化食品などをどのくらいの頻度と量で食べているかを尋ねました。同時に、日光を浴びる時間、喫煙、身体活動といった生活習慣や、年齢・性別・学歴・収入・服装などの情報も集めています。身長・体重を測ってBMI(体重を身長の二乗で割った体格指数)を算出し、空腹時の採血から血中の25(OH)D(体内のビタミンDの充足度を示す指標)、HbA1c、空腹時血糖を測定しました。

さらに研究チームは、調査票から特定した13種類の身近な食品を市場で購入し、LC-MS/MS(液体クロマトグラフィー・タンデム質量分析。成分を分離したうえで高い精度で量を測る手法)でビタミンD2とD3の含有量を実測しました。この実測値と食事調査を組み合わせて、1人あたりの1日のビタミンD摂取量を推定しています。統計解析では、年齢やBMI、学歴、収入、日光曝露などの影響を考慮したうえで、摂取量と血液指標の関連を検討しました。

報告された主な結果

対象者の平均年齢は55.3±6.9歳で、女性が60.0%を占めました。著者らの報告では、血中25(OH)Dの平均は22.7±4.48 ng/mLで、これは「不足」とされる範囲にあたります。食事からのビタミンD摂取量は平均150±140国際単位/日にとどまり、他地域の報告値より低い水準でした。体格面では過体重・肥満が多く、HbA1cも目標とされる水準には届いていないと報告されています。

食品の分析では、水煮のツナ缶が最も高いビタミンD3濃度(1.65±0.83 µg/100 g)を示し、次いでヨーグルト(0.18±0.10 µg/100 g)、強化されたピタパン(0.17±0.23 µg/100 g)、普通の牛乳(0.10±0.20 µg/100 g)が続きました。ビタミンD2では強化豆乳(0.06±0.05 µg/100 g)とマッシュルーム(0.04±0.01 µg/100 g)が比較的高い値でした。乳製品やパンの含有量は他国の報告と比べて低く、著者らはヨルダンでの強化の実施が限定的であることを反映している可能性があると述べています。粉ミルクについては、実測値が表示されている強化値を大きく下回ったことも報告されました。

血糖との関係では、1日の総ビタミンD摂取量が400国際単位以下の群(180人)と400国際単位を超える群(60人)を比べたところ、HbA1cの平均はそれぞれ7.50%と6.91%で、年齢・日光曝露・インスリン使用を調整したうえで有意な差が認められました(P<0.001)。一方、空腹時血糖には有意な差はみられませんでした(P=0.20)。食品群別にみると、魚の摂取は血中ビタミンD濃度の高さと関連し(r=0.21、P<0.01)、乳製品の摂取は血中ビタミンD濃度の高さ(r=0.28、P<0.01)およびHbA1cの低さ(r=−0.24、P<0.01)の両方と関連していました。肉・卵やパン類では、いずれとも有意な関連はみられていません。

このほか、毎日朝食をとる人は摂取量が多いなど食習慣との関連や、1日15分を超えて日光を浴びる人で血中濃度が高いこと(25.1±3.7 ng/mL対19.3±3.2 ng/mL、P<0.001)、学歴や世帯収入と血中濃度との有意な関連も報告されています。ただし年齢と血中濃度の間には有意な相関はみられませんでした(P=0.44)。

この研究が示すこと

この研究は、ヨルダンの2型糖尿病の成人において、食事からのビタミンD摂取が全体として少なく、血中濃度も不足域にとどまっていることを、実際の食品分析にもとづく推定とともに示しました。そのうえで、魚や乳製品といったビタミンDを含む食品をより多くとっている人ほど血中濃度が高く、乳製品についてはHbA1cの低さとも関連していたと報告しています。

ただしこれは一時点の観察にもとづく横断研究であり、報告されているのは関連であって、食事が血糖を改善させたという因果関係を示すものではありません。研究チームは、食品分析で明らかになったヨルダンの乳製品やパンにおけるビタミンD含有量の低さを踏まえ、食品強化の実施状況や、ビタミンDを含む食品の位置づけを見直す手がかりとして、今回の結果を提示しています。

著者:Taha Rababah(Jordan University for science and technology)、Muhammad Al-U’datt(Jordan University for science and technology)、Ahmad AlSaad(Jordan University for science and technology)、Sana Gammoh(Jordan University for science and technology)、Khaleel Jawasreh(Jordan University for science and technology)、Ali Almajwal(king Saud University)、Dunia AL Halees(Jordan University for science and technology)、Numan AL‐Rayyan(University of wisconsin-Madison)、Vaida Bartkute·-Norku¯niene(Utena Higher Education Institution)、Huda; id_orcid 0000-0002-8194-8906 Fish(chool of Biological Science, Queen’s University Belfast,19 Chlorine Gardens, Belfast, Northern Ireland, BT9 5DL, United Kingdom)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Taha Rababah, Muhammad Al-U’datt, Ahmad AlSaad, et al. A cross-sectional study investigating the impact of dietary vitamin D intake and fortification in Jordanian adults with type 2 diabetes. Food & Nutrition Research 2026-08-31. DOI: 10.29219/fnr.v70.11503. 原著ライセンス:CC BY.