著者の所属・活動拠点の国は、モロッコです。
掲載誌:Food Research
ライセンス: CC BY 4.0 対象: 公開論文 確認元: 論文PDF
研究の目的
食品に含まれる油は、空気中の酸素と反応して少しずつ劣化します。この「酸化」が進むと、不快なにおいや風味が生じ、品質や保存できる期間が損なわれます。油を多く含むマヨネーズも、酸化による劣化が課題となる食品のひとつです。
食品の酸化を防ぐために、BHTやBHAといった合成の酸化防止剤が使われてきました。一方で論文は、消費者が天然由来の食品や合成添加物の代替を求める傾向が強まっていることを背景に挙げています。そのため、天然の成分を酸化防止に生かす方法が探られています。
研究チームが注目したのは、ナマコの一種Holothuria tubulosaです。論文は、このナマコを養殖・食用される重要な水産種として紹介しています。また、抗酸化作用をもつフェノール化合物(ポリフェノール類)を豊富に含むという先行研究にも触れています。著者らの目的は、このナマコの水抽出物をマヨネーズに加えて酸化を抑えられるかを調べることでした。あわせて、酸性度(pH)や粘り(粘度)への影響も調べています。
どのように調べたか
研究チームは、モロッコ・アガディール地方のSidi Boulfdail海岸でナマコを採取し、乾燥させて粉末にしました。これを中性の緩衝液に室温で3時間または4時間浸して成分を抽出し、凍結乾燥して2種類の抽出物を得ました。抽出時間の違いが結果に影響するかどうかも、あわせて比較しています。
抽出物を食品に使う前に、安全性の確認として溶血試験も行いました。溶血とは、赤血球が壊れる現象のことです。ウシの赤血球に抽出物を加え、赤血球が壊れるかどうかを調べました。
マヨネーズは、大豆油、砂糖、酢、卵黄、マスタード、塩を混ぜて作りました。そこに抽出物を重量比で0.5%、1%、1.5%加えた試料と、抽出物を加えない対照の試料を用意しました。これらを4℃で30日間保存し、3日ごとに状態を測定しました。
酸化の進み具合は「過酸化物価」という指標で評価しました。過酸化物価は、油に過酸化物として結びついた酸素の量を示す値で、高いほど酸化が進んでいることを意味します。あわせてpHと粘度も測定しました。
主な結果
溶血試験では、抽出物によるウシ赤血球の溶血は見られませんでした。著者らはこの結果から、抽出物に赤血球を壊すような細胞毒性の懸念はないと判断しています。
過酸化物価は、抽出物を加えたマヨネーズのほうが対照より統計的に有意に低くなりました。抽出物の量が多いほど過酸化物価は低くなる傾向があり、論文は1.5%の添加で保存中の効果的な酸化抑制が得られたと報告しています。同じ濃度で比べると、4時間抽出したものは3時間抽出したものより、わずかに良い結果を示しました。著者らはこの差について、抽出時間が長いほど効率よく成分を取り出せたためと考えています。また、酸化が抑えられた理由として、抽出物に含まれるフェノール化合物の働きが関わっている可能性を挙げています。
pHは、抽出物を加えると最初の値がやや高くなりました。初日の対照は3.58でしたが、1.5%添加では3.95〜3.98でした。論文は、抽出に中性の緩衝液を使ったことがその理由だと説明しています。保存中、対照のpHは30日目に3.39まで下がりました。一方、抽出物を加えた試料のpHは1か月間ほぼ変わりませんでした。
粘度については、どの試料でも、かき混ぜる速さが増すほど粘度が下がる性質が見られました。これはマヨネーズに一般的な性質です。抽出物を多く加えるほど粘度は高くなり、4時間抽出のほうがやや粘りが強くなりました。保存期間が進むと、どの試料も粘度は下がりました。それでも、抽出物を加えた試料は対照より高い粘度を保っていました。著者らは、粘度が上がると酸化を促す物質が広がりにくくなり、酸化の抑制につながりうると述べています。また、粘度は市販マヨネーズの範囲内に収まっていたとしています。
研究が示すこと
この研究は、ナマコHolothuria tubulosaの水抽出物をマヨネーズに加えると、4℃で30日間保存する間の油の酸化が抑えられたことを報告しています。著者らは、この抽出物が、マヨネーズの安全性と保存期間を高める天然由来の保存料・酸化防止剤の候補として価値をもつと結論づけています。海の生物資源を食品の品質保持に生かす可能性を示した研究といえます。
原著論文の著者・所属:F. Aatab、F. Bellali(Laboratory of Biotechnologies , Specialized Center of Valorization and Technology of Sea Products , National Institute of Fisheries Research (INRH) , P.K. 07 , route d'Essaouira , Anza 80000 , Agadir , Morocco)、F.Z. Aboudamia、S. Maainia(Health and Environment Laboratory , Faculty of Science Ain-Chock , Hassan II University of Casablanca , B. P. 5366 Maarif , Casablanca , Morocco)、A. Errhif、M. Kharroubi
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):F. Aatab, F. Bellali, F.Z. Aboudamia, et al. Oxidative stability of mayonnaise enriched with aqueous extract of sea cucumber Holothuria tubulosa. Food Research 2026-10-30. DOI: 10.26656/fr.2017.10(5).577. 原著ライセンス:CC BY.