この研究は、インドネシアの研究機関の研究論文です。
掲載誌:Case Studies in Chemical and Environmental Engineering
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
イワシ(Sardinella spp.)のような赤身系の小型浮魚は、インドネシアの漁業で豊富に獲れる重要な資源です。これをすり身(魚肉をすりつぶして水さらしなどの処理をした加工原料)として利用できれば、十分に活用されていない魚の価値を高められます。しかし研究チームは、赤身の魚は白身魚に比べてゲルを形成する力が劣ると説明しています。その主な理由として、ミオグロビンやヘモグロビンといった血色素タンパク質と多価不飽和脂肪酸を多く含むため、脂質やタンパク質の酸化が進みやすく、生じた酸化生成物がタンパク質どうしの結合を妨げてゲル構造を弱めることを挙げています。
そこで著者らは、熱帯に広く自生し、ポリフェノールなどの抗酸化成分を豊富に含む二種類の植物の葉に注目しました。ケニキル(Cosmos caudatus)とビナホン(Anredera cordifolia)です。これらを水だけで抽出すれば有機溶媒を使わずに済み、持続可能な食品加工にもつながると位置づけています。本研究の目的は、これら水抽出物の粉末がイワシすり身ゲルのタンパク質の立体構造の変化、網目構造の形成、食感、そして酸化に対する安定性にどう影響するかを調べることでした。
何をどのように調べたか
乾燥させて粉末にした葉を水で抽出し、遠心分離とろ過を経て凍結乾燥させ、ビナホン葉水抽出物(BLE)とケニキル葉水抽出物(KLE)の粉末を得ています。まず、これらに含まれる総フェノール量と、四つの異なる方法による抗酸化活性(二種類のラジカル消去活性、鉄を還元する力、金属イオンを捕まえるキレート活性)を測定しました。一つの指標に頼らず、複数の仕組みにわたって抗酸化能を評価するための組み合わせだと述べられています。
次に、解凍したイワシすり身に食塩を加えて練り、BLEまたはKLEを0.05%から0.3%まで段階的に添加した試料を用意し、40℃で30分、続いて90℃で20分加熱してゲルを作りました。できたゲルについて、壊れるまでの力(破断力)と壊れるまでにどれだけ変形できるか(変形量)、押したときに出てくる水の割合、白さ、そして硬さや弾力などを示す食感の測定を行っています。さらに、赤外分光法によるタンパク質の構造解析、加熱中のゲル形成過程を追う動的レオロジー測定、走査型電子顕微鏡による微細構造の観察を組み合わせました。最後に、4℃の冷蔵保存中に脂質の酸化がどの程度進むかを、過酸化物価とTBARS値という二つの指標で追跡しています。
主な報告結果
抽出物そのものの比較では、BLEの総フェノール量が乾燥抽出物1グラムあたり209.54ミリグラム(没食子酸当量)で、KLEの120.12ミリグラムのおよそ1.75倍でした。抗酸化活性も四つの指標すべてでBLEがKLEを上回り、特に金属キレート活性では約3.12倍の差があったと報告されています。
ゲルの強さについては、どちらの抽出物も「増やせば増やすほど良い」わけではなく、最適な濃度が存在するという結果でした。BLEでは破断力が無添加の約56.6グラムから0.20%添加時の約73.5グラムまで上がり、それ以上加えると逆に下がりました。KLEは上がり方が緩やかで、最も高くなる濃度が0.25%とやや高めにずれています。著者らは、BLEのほうがフェノール量が多く、タンパク質との相互作用が強いため少ない量で効果が出る一方、加えすぎるとタンパク質どうしが過剰に凝集して構造の均一さが失われるためだと説明しています。押したときに出てくる水の量も同様の傾向で、BLEでは0.20%で最も少なくなり、水を保持する力が高まったことを示しました。一方、白さについては添加した濃度の範囲内で目立った変化がなく、外観を損なわないと述べられています。食感の測定でも、0.2%のBLEを加えたゲルが硬さ、弾力、噛みごたえなどで最も高い値を示しました。
構造の解析では、抽出物を加えても新しい吸収帯は現れず、新たな化学基が生成したわけではないものの、既存の帯の位置のわずかな移動と強度の変化が見られました。著者らはこれを、ポリフェノールの水酸基とタンパク質との間に水素結合などの非共有結合的な相互作用が生じた結果と解釈しています。また、タンパク質の二次構造の解析では、BLEによってβシートと呼ばれる構造が増え、αヘリックスやβターンが減る配置の組み替えが起こったとしています。加熱中のレオロジー測定でBLE添加ゲルの弾性率が高く、電子顕微鏡でより緻密で均質な微細構造が観察されたことも、こうした構造変化と整合すると述べられています。
冷蔵保存の試験では、BLEを加えたゲルは無添加の対照と比べて過酸化物価とTBARS値がいずれも低く、脂質の酸化の進行が抑えられたと報告されています。
この研究が示すこと
この研究は、水だけで抽出した熱帯植物の葉の成分が、イワシすり身に対して二つの役割を同時に果たしうることを示しています。一つはタンパク質の二次構造を組み替えて網目構造を補強し、食感と保水性を高めること、もう一つは脂質の酸化を遅らせることです。とりわけビナホン葉の抽出物は、より少ない添加量でこの両方の効果を示しました。
同時に、効果には最適な濃度があり、それを超えると逆にゲルが弱くなるという点も、この研究がはっきり示した知見です。著者らは、こうした水抽出物がすり身加工における持続可能なクリーンラベル添加物としての可能性を支持するものだとまとめています。
著者:Muh Arsyad(Department of Agricultural Technology, Pangkep State Polytechnic of Agriculture, South Sulawesi, Indonesia)、Ikbal Syukroni(Department of Agricultural Technology, Pangkep State Polytechnic of Agriculture, South Sulawesi, Indonesia)、Sriwati Malle(Department of Agricultural Technology, Pangkep State Polytechnic of Agriculture, South Sulawesi, Indonesia)、Fifi Arfini(Department of Agricultural Technology, Pangkep State Polytechnic of Agriculture, South Sulawesi, Indonesia)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Muh Arsyad, Ikbal Syukroni, Sriwati Malle, et al. Dual-functionality of aqueous plant extracts of Cosmos caudatus and Anredera cordifolia in Sardine Surimi: Enhancing gel network formation and retarding lipid oxidation via Protein–Polyphenol interactions. Case Studies in Chemical and Environmental Engineering 2026-08-28. DOI: 10.1016/j.cscee.2026.101473. 原著ライセンス:CC BY.