著者の所属・活動拠点の国は、韓国です。

掲載誌:Frontiers in Sustainable Food Systems

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

化学肥料の代わりに豚の液肥を使えるか

著者らによると、化学的に合成された窒素肥料の使用は世界の温室効果ガス排出量のおよそ2.1%を占めます。研究チームは、合成肥料を農業の中ですでに循環している再生資源に置き換える「養分の循環」に注目しました。その有力な候補が家畜の液肥です。豚の液肥の液体部分はカリウムを窒素と同程度含むとされ、カリウムを多く必要とするトマトの肥料として使える可能性があります。

この研究の目的は、ハウス栽培のトマトに、好気的に(酸素がある条件で)分解処理した豚の液肥を点滴チューブで水と一緒に与えたとき(点滴施肥)、化学肥料と比べて生育が保たれるかを確かめることです。あわせて、土壌中の炭素と窒素の量やその比率がどう変わるかも追跡しました。

6種類の施肥方法を鉢植えで比較

実験は温室内の鉢植えで行われました。土壌は韓国・利川の養豚施設に隣接する草地から採取したもので、弱アルカリ性で養分の少ない土でした。液肥は同じ養豚施設のもので、カリウムを多く含む一方、リンが極端に少ないという特徴がありました。

比較したのは6つの施肥方法です。尿素による化学肥料、未調整の液肥、リン不足を補うために液肥と合成肥料を半分ずつ混ぜた「最適化液肥」、その半量版と倍量版、そして最適化液肥に炭化させた資材であるバイオ炭を加えたものです。化学肥料と液肥の施用量は、作物の生育にとって最も重要な窒素の量を基準に設定されました。

研究チームは、草丈や葉の大きさ、地上部と根の重さ、果実の数と重さ、果実の色から推定した熟度とリコピン量の指標、糖度、酸度を調べました。収穫後には土壌も分析し、水に溶けている有機炭素(溶存有機炭素)や溶存窒素、土壌微生物の体に含まれる炭素と窒素の量、有機物の分解に関わる酵素の働きを測りました。土壌試料は、肥料液が直接落ちる点滴口の周辺を除いて採取しました。

生育は変わらず、土壌の溶存養分は増加

論文によると、トマトの地上部の重さ、草丈、葉の大きさ、果実の重さと数、熟度、リコピン指標、糖度、酸度には、施肥方法による統計的な差は認められませんでした。唯一、根の重さにはわずかな差の傾向があり、化学肥料で最も重く、未調整の液肥で最も軽い結果でした。

一方で、土壌には明確な違いが表れました。土壌1キログラムあたりの溶存有機炭素は、化学肥料が平均118ミリグラムだったのに対し、未調整の液肥では164ミリグラム、最適化液肥では153ミリグラムと有意に多くなりました。バイオ炭を加えた区では249ミリグラムで最大でした。溶存窒素も同じ傾向で、化学肥料で最も少なく、バイオ炭を加えた区で最も多い結果でした。

土壌微生物の体に含まれる炭素と窒素の量は、バイオ炭を加えた区で最も多くなりました。ほかの区の間には統計的な差は見られませんでしたが、倍量の液肥を与えた区だけは微生物の炭素量が最も少なくなりました。炭素を含む有機物の分解に関わる酵素の働きもバイオ炭区で最も強く、微生物の炭素量との間に正の相関が見られました。一方、窒素の獲得に関わる酵素の働きは、どの施肥方法でも変わりませんでした。

また、溶けている有機物と微生物の体のどちらでも、炭素と窒素の比率は施肥方法によって変わりませんでした。全処理区の平均は、溶存有機物で3.96、微生物で7.81でした。量は増えても、炭素と窒素の釣り合いは保たれていたことになります。

研究が示すこと

著者らは、生育や果実の品質に差がないことは統計的に「同等」と言い切れる根拠にはならないと断ったうえで、豚の液肥がトマトの点滴施肥において化学肥料の実用的な代替となる可能性が高いと述べています。同時に、液肥は点滴口から離れた土壌でも溶けている養分を増やしました。著者らは、炭素の供給で微生物が増えると微生物と作物の間で養分を取り合う可能性があるとも考察していますが、これは相関データに基づく推測にとどまるとしています。

この実験は、1株あたり約3キログラムの土、深さ10センチほどの小さな鉢で行われた短期間の温室試験です。そのため、得られた収量の数値は商業生産の見込みを直接示すものではない、と論文は注意を促しています。それでも、地域で出る家畜の液肥を合成肥料の代わりに使っても目先の作物の出来を損なわずに済むことを示した点で、養分を地域内で循環させる農業へ向けた最初の手がかりとなる結果です。

原著論文の著者・所属:Sihoon Song(Department of Agricultural Biotechnology, Seoul National University)、Sehun Im(Department of Agricultural Biotechnology, Seoul National University)、Hyun Jeong Oh(Department of Agricultural Biotechnology, Seoul National University)、Kyungmin Kim(Department of Agricultural Biotechnology, Seoul National University; Institute of Plant Environmental Science, Research Institute of Agriculture and Life Sciences, Seoul National University)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Sihoon Song, Sehun Im, Hyun Jeong Oh, et al. Substituting fertigation with swine liquid manure maintains tomato performance while enhancing dissolved nutrient pools. Frontiers in Sustainable Food Systems 2026-08-10. DOI: 10.3389/fsufs.2026.1886433. 原著ライセンス:CC BY.