掲載誌:Ibero Ciencias - Revista Científica y Académica
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
日々の食事と水が気候に残す「足跡」を見える化する
私たちが口にする食べ物や水は、届くまでに土地、エネルギー、設備、輸送、浄化処理を必要とし、使った後にはごみや排水の処理も必要になります。これらの過程で出る温室効果ガスの量を「カーボンフットプリント(炭素の足跡)」と呼びます。この論文は、食べ物と水の消費によって一人の人が積み重ねる足跡を、1年・10年・50年という時間の幅で一つの流れとして描くことを目的としています。
あわせて論文は、個人の消費を、それを支えるエネルギー、農業・畜産、上下水道といった社会の仕組みからの排出と結びつけて示そうとしています。個人の選択と社会全体の構造の両方から、食と水の気候への影響を捉え直す試みです。
文献の整理とライフサイクルの考え方
論文は新たな実験や測定ではなく、2023〜2026年の科学論文と国際機関などの資料を体系立てて読み解く「構造化された記述的レビュー」という手法をとっています。土台にしたのは、製品が生産されてから廃棄されるまでの全段階で環境への影響を数える「ライフサイクルアセスメント」の考え方です。
著者は、平均的な排出係数が認証された正確な排出量のように受け取られないよう、計算の前提を明示したシナリオを使い、数値を幅と不確かさを伴うものとして示しています。たとえば家庭向けの記録例では、牛肉0.15キログラムに1キログラムあたり40〜80キログラム(二酸化炭素換算)の係数を当てはめ、6〜12キログラムという幅で足跡を見積もる方法が紹介されています。
報告された主な結果
論文によると、食事による足跡は50年間で一人あたり数十トン(二酸化炭素換算)に達しうるとされます。食品の重さあたりで比べると、牛などの反すう動物が平均して最も排出の多い部類に入り、豆類や多くの植物性の食品は少ない傾向があるものの、比較には栄養面も考慮する必要があると著者は述べています。また、足跡は食品ごとに決まった値ではなく、どこまでを計算に含めるか、比較の基準となる単位、地域、生産方法、土地利用の変化、廃棄によって変わると強調しています。
食品ロスは、栄養をもたらさないまま排出だけを生む、最も避けやすい足跡と位置づけられています。論文が引用する国連環境計画の推計では、2022年の食品廃棄は10億5000万トンで、測定された部門全体で一人あたり年132キログラム、家庭では一人あたり年79キログラムでした。廃棄の60%が家庭、28%が外食などのサービス、12%が小売に由来し、食料の損失と廃棄は世界の温室効果ガス排出のおよそ8〜10%を占めるとされています。何を捨てるかで影響は大きく異なり、排出の多い食品のロスを防ぐ効果は特に大きいと著者は指摘しています。
水については、水そのものが自然界で炭素を出すわけではなく、取水、ポンプでのくみ上げ、浄水、海水の淡水化、容器詰め、輸送、加熱、使用後の処理といった過程で足跡が生じると説明されています。論文の説明用シナリオでは、1日2リットルの飲み水は50年で36.5立方メートル、1日100リットルの家庭用水は50年で1825立方メートルになります。そのうえで、水道水の供給は一般にボトル入りの水より気候への負荷がずっと小さい一方、下水などの衛生処理からはメタンや一酸化二窒素といった温室効果ガスが無視できない量で出ると報告しています。
世界全体の比較では、化石燃料が最大の排出源で、2024年に二酸化炭素で374億トン(37.4ギガトン)に達しました。石油はおよそ120億トン、食料の生産から消費までを含む農業・食料システム全体は165億トン(二酸化炭素換算)、農業そのものの直接排出は65億トン、畜産は43億トンとされています。論文は、これらの区分は互いに重なっていて足し合わせられないと注意したうえで、石油は畜産を上回り、農業・食料システム全体は石油を上回り、化石燃料全体はその両方を大きく上回ると整理しています。
コロンビアの事例については、2024年の国内の排出目録でエネルギーが第一の排出源となり、土地利用と農業が合わせて大きな比重を保っていること、畜産が農業部門の主な排出要因であることが紹介されています。著者は、世界の順位をそのまま一国に当てはめることはできないと述べています。
個人の選択と社会の仕組みの両方から考える
論文は、食べ物と水の足跡が個人的なものであると同時に、社会の構造に根ざしたものでもあると結論づけています。個人は買う量や一皿の量、水の選び方、食品ロスを左右できますが、生産方法やエネルギー、物流、上下水道は事業者やサービスの提供者が担い、規則や誘導策は国が形づくります。すべての責任を個人に負わせれば化石燃料が世界の排出の中心であることが見えにくくなり、逆に個人の力を否定すれば積み重なる無数の選択を生かせない、というのが著者の立場です。
50年のシナリオは将来の脱炭素化を織り込まない意図的に固定した想定で、読者一人ひとりの将来を予測するものではなく、積み重ねの大きさを示すためのものだとされています。論文は、栄養を損なわずに排出の多い食品を一部置き換えることが、包装を変えるといった小さな選択より大きな影響を持ちうると述べています。そして個人にとって大きな削減につながるのは、食品ロスを避けること、排出の多い食品をほどほどにすること、可能な場合は安全な水道水を選ぶこと、そしてエネルギー、農業生産、衛生処理の仕組みそのものの転換を求めることだと示しています。正確な数字にこだわりすぎず、また不確かさを理由に行動をやめることもなく、幅と前提を示しながら考えることの大切さが、この研究から伝わってきます。
原著論文の著者・所属:José Julián Carvajal Escudero(ATRIA Estrategia Corporativa S.A.S)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):José Julián Carvajal Escudero. Del Campo al Plato: La Huella de Carbono que Acumulamos como Personas por el Consumo de Alimentos y Agua. Ibero Ciencias - Revista Científica y Académica 2026-08-07. DOI: 10.63371/ic.v5.n3.a1460. 原著ライセンス:CC BY.